第244話 最初の一歩は拉致から始めます⑭
カスティリヤとの戦闘とは詰まる所、攻撃を当てられるかということになる。エクシード流剣王術は冥竜王との戦闘を想定しているので当てるという技術はそれほど進歩していない。
なにせ冥竜王は巨大だ。攻撃を当てるということに関しては苦労のいらない敵なのだ。
それ故、歴代の剣王はいかに高火力を手に入れ冥竜王にダメージを与えるべきかという技術がメインとなり進化してきた。
カスティリヤは蜂が飛ぶように華麗な立ち回りを見せる。自らの命を絶つ剣を棒きれのように冷静に観察し、恐怖せずこちらの間合いに踏み込んでくる。
かといって彼女だけに集中していればリヒァルトシュトラウスから致死の一撃をもらうだろう。
私にも牽制に特化した技や、遠距離から仕留めきれるだけの技があればいいのだが…
何の良案も思い浮かばない以上、選択肢の隅に残ったあれを使うしかないだろう。
「でやぁぁぁ!!!」
可能な限り、ゼロ動作から一気に加速しリヒァルトシュトラウスの元へ駆ける。これで僅かにでも機先を制したことになれば良いのだが。
「エクシード流・飛来剣」
同時にカスティリヤに向けて牽制のための唯一の飛び道具を使う。これで迎撃のための動作がワンテンポでも遅れれば上出来だ。
しかし、カスティリヤは事も無げに回避し、私とリヒァルトシュトラウスとの中間点に陣取る。
カスティリヤ相手に必殺技は無意味。そう考えた私は最速の一刀だけを意識し、駆けてきた勢いをそのままに斬りつける。
それを最小の動作で躱され、大振りとなり隙だらけの上半身に重い一撃を三発もらう。
「ぐっ…」
拳の軌道が早すぎて見えない。堪らずツバメ返しの要領で下からの切り上げでようやく後方に引いてくれた。
この隙に回復を図ろうかと思ったがそんな時間は与えてもらえず、尚も高速で間合いを詰めてくる。
音も無く瞬時に間合いを詰めてくるので瞬間移動をしているようにすら思える。
先程から横移動のフットワークで見事に躱されているので横薙ぎの高速斬りを放つ。
しかし、足を曲げ腰を落とすことでまんまと躱された。そしてその姿勢を維持したまま、顎に向かって渾身のアッパーカットを放つ。
私は姿勢を崩した状態で無様に後方に跳んでなんとか躱した。
カスティリヤは追撃してこなかった。罠だと思ったのか、自分をリヒァルトシュトラウスの護衛だと割りきっているのか大した戦術眼だ。
そうこうしている間にリヒァルトシュトラウスの拳に膨大な魔力の充填を感じる。
一連の攻防でようやく分かったがカスティリヤは【体術使い】でも拳の扱いに特化した【拳闘士】だと思われる。
その証拠に先程から一度も蹴り技を使ってこない。全盛期のガンバルベエなど足癖の悪さによく泣かされたものだが。
ならば間合いを完全に詰めゼロ距離に持ち込めば拳の威力を削げるのでは!
そう思い、剣の間合いをあえて捨てゼロ距離に持ち込む。流石にカスティリヤも面を喰らったのか、攻撃がない。私は剣を逆手に持ち背後からカスティリヤの心臓を狙う。
殺ったと思った瞬間、私の身体は地面に叩きつけられていた。
右足を刈り、体重を載せて放つ【大外刈り】だ。
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