第242話 最初の一歩は拉致から始めます⑫
「あ~イライラする。早く消えてよ~たかがNPCの癖にどうしてこんなに強いのよ」
私が相手の連携を褒め称えるような分析をしているのとは裏腹にリヒァルトシュトラウスは私にも聞こえるような大きな声で愚痴をこぼす。
「なんでこんなにたくさん部外者としゃべらなくちゃいけないのよ。入門希望者でも無いのに~人に見つめられるだけでザワザワするんだよ。こっち見んな! 息をするな! さっさと消えろ!」
何なんだ!? こんな思考の持ち主とは初めて遭遇する。確実に精神に異常をきたしている。けれど、精神に異常をきたしながらも戦闘方法は極めて真っ当。実にクレバーな戦術を取ってくる。
しかし、この多様性こそがファーストワールドの住人の面白いところなのかもしれない。翻ってセカンドワールドの住民を見れば気狂いはいるが常人と狂人の境界線を行ったりきたりするような人間はいない。考えてみれば気狂いの一歩手間というのはこんな状態なのかもしれない。
私はそんなことを考えつき、自然と笑みがこぼれる。
「何笑ってんのよ。白い歯を私に見せるな!」
そうリヒァルトシュトラウスが叫ぶと先程、私が斬ったのと同じ魔法を使ってくる。
何の技工も無い威力だけが凄まじい凡庸な一撃だ。カスティリヤとの連携がある訳でもない。轟音と共に真っ二つにする。
「リヒァルトシュトラウスさんとおっしゃいましたか…先程の連携は非常に見事でしたが今の一撃は全くつまらない。どうも戦術に非常に大きなムラがあるように思えるのですが、どうしてですか?」
もっと彼女のことを知ってみたい。そんな好奇心から気づけば彼女に話しかけていた。
「はあ!? NPCの分際で私に説教しようっていうの? しかも私はあなたの敵だよ? なに調子こいてくれちゃってるの?」
動揺した様子でリヒァルトシュトラウスはケンカをふっかけてくる。
「別に調子をこいてる訳ではありませんが…純然たる興味で尋ねているのです。なぜか時間が経つにつれ攻撃が単調化し弱体化している印象がありましたので」
「あ~その話せば分かる感が嫌。私はもうお前と話すつもりなんか無いんだ。イグナティウスが頼むから仕方なく出てきてやってるがなんでお前らみたいなのと戦わなければならないんだ。もう早く倒れろよ~人の声を聞くのも嫌。人としゃべるのも嫌。暑いのも嫌。寒いのも嫌。苦しいのも嫌。辛いのはもっと嫌だ。早く死んで私を独りに戻してくれ」
会話は成立せず、ただ一方的にまくし立てている。
よく観察すれば、見事な連携をみせたリヒァルトシュトラウスとカスティリヤだがリヒァルトシュトラウスが豹変してからカスティリヤは一言もしゃべっていない。
これが常人でありながら、狂人として生きるの道を選択した人間の末路か…
考えてみれば私もそうなのかもしれない。ショウ様が現れるまで冥竜王の打倒のみを目的に生きてきた。彼女を憐れむ資格など無いかもしれない。
「私がNPCだからと言って手を抜いているようでは永劫に終わりませんよ。早く終わりたいならもっと真剣にやらないと」
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