第241話 最初の一歩は拉致から始めます⑪
私としては穏便に会話で決着を着けたかったのだがリヒァルトシュトラウス未だ言葉にならない音を発して何か言っている。
こんなことならこちらも茶会などせず、目が合った瞬間から斬りかかればよかった。どうも先手を取られたようで気分が悪い。
それにしても、この人格の急激な変化は何なんだ!? 私が驚いていると、カスティリヤは落ちてきたテーブルを私の方に蹴りこみ隙を作ろうとする。突然のリヒァルトシュトラウスの噴火にも至って平静で殺る気満々だ。
なるほど彼女は手練だ。
私は高速抜刀でテーブルを切り落とし、2人の姿を確認するとリヒァルトシュトラウスは遥か後方へ、カスティリヤは切り落としたテーブルのすぐ後ろに潜んでいた。
無手の状態で剣を恐れることなく、ズイズイと私の間合いに入ってくる。彼女は【体術使いか】!?
【体術使い】との戦闘はエクシード十剣のガンバルベエとの稽古のおかげで要諦を掴んでいる。
無手だといって彼らを侮ってはならない。技を極めた彼らは接触したら最後、凄まじい威力の技を繰り出してくる。しかも、武器をいなし、ゼロ距離に潜り込んでくるのがやたら上手い。
まずはゼロ距離だけは絶対に避けること。あくまでも私の剣の間合いの外に彼女達を置き、一定以上は絶対に近づけてはならない。私は頭の中でそんなことを復習しながら技を放つ。
「エクシード流・乱れ撃聖剣!」
高速の連続斬りで牽制! カスティリヤがどう出るかを様子見るための技だったが無理をして私の間合いには入ってこず、大きく空を舞い躱す。
追撃しようかと思った瞬間、リヒァルトシュトラウスから魔力の形成を探知する。
「タリタ・ラ・タリ・タリタル・タレタレ!」
詠唱が完了すると魔法で形成された拳大岩の塊が飛んでくる。喰らえば即死という程の威力でも無く、かといってノーダメージですむ程、弱い威力という訳でも無い。
それ故に防御か回避か一瞬、迷う。しかし、敵はそんな甘えを許してくれる訳も無く、ノロノロと回避し体勢を崩したところへカスティリヤの強烈な一撃が腹部を襲う。
この威力! 【気】か!! 意識が落ちそうになるのを必死にこらえ、無様に剣を振り下ろし、カスティリヤを追い払うと回避不能の速度を持った高威力の魔法が私を襲う。今度は巨大な炎だ!
「ガ・エラ・ルーガ・エンテミィアス・オサルーガ!」
着弾数秒前にリヒァルトシュトラウスの詠唱が完了してしまい、私は切り札を出すしかないと悟る。
「エクシード流剣王技・邪竜炎断剣」
巨大な炎を斬る。魔法が炎だったのも幸いした。冥竜王の炎のブレスを両断するために開発された剣技だ。これしきの炎、斬れない道理は無い。私が巨大な炎の魔法を斬ったのが余程、意外だったのだろう。2人が攻撃を止め妙に感心した表情で私を見ている。追撃の様子は無い。
これが異界人との戦闘というものか。なんという完璧な連携だ。
思えば私には異界人との戦闘経験というものが無かった。
もちろん先日のショウ様との戦闘はあるがあれは次元が違いすぎて参考にならない。そういえば、あの時も、イグナティウスの凄まじい回復力でサポートしてもらえたし、真澄様と戦うときは私が使ったことも無い必殺技が土壇場で繰り出せた。
異界人との戦闘というものはやはり、セカンドワールドの人間には知覚できない特別な何かがあるのだろう。
彼女たちの連携も私の心の隙まで突いた見事な連携戦術だ。彼女達と私とは初めての戦闘のはずなのに彼女達には私を下すための戦術が完成している節がある。おそらく、私のような剣術馬鹿との戦闘経験値が多いのだろう。
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