第240話 最初の一歩は拉致から始めます⑩
「17聖女が1人、リヒァルトシュトラウスと申します」
「同じくカスティリヤだ~」
普通に白服を着ている丁寧な物腰の女性がリヒァルトシュトラウス。もう一人のところどろこ改造されている白服がカスティリヤのようです。
「めんどくせ~何しに来たんだよ。お前ら、こんなチンケな教団に」
改造白服のカスティリヤが問うてきた。
「まあまあ、カスティリヤちゃん立ち話もなんだからテーブルにつきましょう。あなたもどうですか? 剣王様」
リヒァルトシュトラウスがテーブルの方を指さし、会釈する。受けるべきか迷ったが言葉で解決できるならそれに越した事は無い。
あまり、気乗りしないが席につく。私が座ったのを確認するとカスティリヤも椅子を引きずり音を立て横柄な態度で座った。それを確認するとリヒァルトシュトラウスも着席しどこからか紅茶のポットとワッフルを持ってきて私達に勧めてくれた。
敵陣で茶会など私は何をやっているのだと自問自答し、じっとティーカップを凝視していると席についたリヒァルトシュトラウスから声がかかる。
「別に毒なんか入っていませんよ。心配なら交換しましょうか?」
剣王たるの胆力が試されていると考え強引に飲む。異界人の使う茶っ葉もエクシード王国や黒佐賀王国で使う茶っ葉も品質に大差無いようだ。普通に美味しかった。
「私達は争いを臨みません。今日はあなたとゆっくりお話がしてくてココに呼んだんですよ。他の3人も同じです」
なるほど、戦力の分散か。ならば、尚の事、合流を急がねば。
「しかし、強制的に茶会に参加してもらうように分散転移させたのも事実です。なにもあなた方ほどの高位プレイヤーが一度に来なくてもいいじゃないですか。先程、カスティリヤちゃんも尋ねましたが何を目的に来られたのですか?」
「わたくしもあまりよく分からませんがどうもそちらの組織に依頼者の姉がいるそうですね。依頼者は姉に会いたいらしく、真澄様はそれに協力されているようですね」
私は自分の知識をそのまま話した。なぜ、真澄様がそんな面倒な依頼を受けたのかは分からないが別に構わない。私は真澄様に言われた通り協力するだけだ。
「あ~ん? そんな理由で高レベルプレイヤーが雁首揃えてやって来たってか!? プレイヤーキルマイスターまで連れて? 信用できるか!」
カスティリヤがカップを乱雑に置き、不信の表情でそう言ってくる。しかし、最初から思っていたがカスティリヤと名乗った女性はどうも態度が悪い。ワッフルも食べかすをボロボロ落としているし、紅茶の飲み方もズーズーと音を立てて品が無い。これは地なのだろうか。
そしてどうもショウ様は異界人の間で評判が良くないらしい。というよりも恐れられているのか、あの強さに…
「まあまあ、落ち着いてカスティリヤちゃん。この分断工作は保険だから。ここは私に任せて」
攻撃的なカスティリヤに変わってリヒァルトシュトラウスが話を勧めるようだ。私としても剣で解決するよりも言葉で解決する方が望ましい。それなら、まだリヒァルトシュトラウスの方が話を進めやすい。
「あなたNPXCですよね? 自我に目覚めたNPCの剣王様がどうして悪事に手を貸すのかしら? 善悪の区別もつかないの?」
「物事の理非善悪など自分の立ち位置で決まります。今は真澄様が正しいと考え行動しています。彼女が正しく無いと判断できれば、その時、また訂正のために動きます」
「そう、その真澄さんって方を信頼してるのね。そういえば、この間、ヴァレンシュタインちゃんが勧誘してた子がそんな名前だったかしら」
指を頬に当て、あさっての方向を見ながらリヒァルトシュトラウスは続ける。どうも仕草がわざとらしいのは気のせいなのだろうか。
「となると目的はヴァレンシュタインちゃんかな!? ちょうど、その真澄ちゃんって方はヴァレンシュタインちゃんの階層に転移したはずよ。だったら今頃、2人で話をしてる最中じゃないかしら。とりあえず、終わるまで、もうしばらく私達とおしゃべりしててくれない」
リヒァルトシュトラウスは猫撫で声で甘い匂いを放ちながら提案してくる。この匂い、酔いそうだ…
「お断りします。私は一刻も早く真澄様達と合流したい。邪魔をするならあなた方を斬るのみです」
「NPXCはもっと知的な存在だと思ってたのに残念ね。けど、言葉が通じる存在だと信じてもう少しだけいいかしら? ここは心の安寧だけを求める人間が集う平和的な組織なの。あなた達の存在は私達の心の安寧にさざ波を立てるわ。どうか帰ってもらえないかしら」
「それはできない相談です。私達、少なくとも私はまだ、なんの行動も起こしていません。それがあなたの心の安寧にさざ波を立てるというのならあなたの修行不足だ。修行の方法を変えた方がいい」
「あなたがいなければ私の心の安寧は保たれるのよ。はっきり言うとあなたの存在が邪魔なのよ。帰ってくれないかしら」
「先程も言いましたがそれはできません。私は真澄様の力になるためにここにいるのですから。それと何もしていない私の行動があなたの心の安寧を乱す理由も分からない。あなたのそれは単なる人見知りでは?」
いい加減、互いに平行線で一切、合意の取れないこの会話にも飽きてきた。私は呆れたように思ったことをそのまま口にした。
「人見知りの何が行けないのよ!!! 人見知りだから教団に入って人に迷惑かけないように潜んでるんだろうが! 外部の人間が断りも無く、人の家に土足で入りやがって!!! テメエらの存在自体が目障りなんだよ! 声を聞くだけで心がザワつくんだよ。呼んでもいねえのにズカズカ入り込みやがって! 出て行かねならPKして追い出すまでだ!」
突然、リヒァルトシュトラウスはテーブルを蹴飛ばし、狂ったかのような勢いでそう言ってきた。
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