第239話 最初の一歩は拉致から始めます⑨
手持ちの最強の必殺技の一つを喰らいプランタジネットは倒れる。棒術、魔法障壁、攻撃魔法、全てが高ランクだが決め手となる切り札を持っていなかったのが敗因だ。
ここらへんは私にも当てはまる。ハイランカーになれば武器、魔法、カードを全て使いこなせなければ戦えない。しかし、全てを使いこなすと器用貧乏になり決め手に欠ける。ショウ達はどうやってこの難問をクリアしたのだろうか。今度、聞いてみよう。
リグヴェーダとプランタジネットは倒した。早く、合流しなければ。転移ではあるが異空間に転移させられたわけではなく、建物の階層が違うだけか? 階段はどこにあるんだろう。
私がキョロキョロ探しているとリグヴェーダがようやく意識薄弱の状態から復活し、鋭い視線で私を見ている。
「おい、階段はどこにあるんだ?」
左手で右腕の傷口を押さえ、未だ焦点定まらぬ彼女に問いかける。
「…さない」
何かを呟いている。まさか、まだやるつもりか?
PKはしていないが2対1でこの結果だ。私の完勝だ。彼女達も高位レベルだ。これ以上の戦いに意味は無いことぐらい分かるだろう。
「許さない! 外敵の侵入は絶対に許さない! 私の居場所はココだけだ!!!」
呪詛のような言葉を投げつけ、私を罵る。だが利き腕を失い、相方も倒れた。どうやって戦おうというのか。
その瞬間、私は信じられないものを見た。
左手のカード入れから歯でドローしたのだ。そんな変則ドローなのに発動しただと!?
「HPを10だけ残し、残りの全てを捧げ魔法カード【命司る神の情理】を発動
やばい。自爆系のカードだ!! HP10など派手に転倒しただけも減ってしまう。遅まきながら阻止しようとするが動けない!?
足に蔦のようなものが巻き付いている。魔力の発生源を確認すると瀕死のプランタジネットが笑いながらこちらを見ていた。
その瞬間、白い光が私を襲い【命司る神の情理】の効果が発動した。
◇◆◇
「私の相手はあなた達、お二人というわけですか」
白服を着た女性2人が杖を構え、私を見ている。1人はショートカットの普通の女性だ。もう1人はなぜか白服を着崩してところどころ改造してあるのが印象的だ。肌の色もどことなく黒く私が初めて会うタイプの異界人だ。
私は渚様と異界人の新技術『動く映像の保管』について議論していた最中だった。その『動く映像の保管』が我が国でも使えれば教育水準が一気に上る可能性があるというのに渚様の反応は冷たかった。
曰く、『教師というのは監督者を兼ねているとのことだ』それは確かにおっしゃる通りでわたくしも子供の頃は覚えられない綴りは何度も書き取りをして身体に刻みこんだなんて記憶はあります。そうやって、無理矢理覚えるという方法も必要だとは思いますが新しい知識を学ぶとは本来、楽しい体験のはずです。
雨がなぜ降るのか? 雪がなぜ冷たいのか? 地球が丸いことをどうやって証明するのか? そういったことを学校に通わず自分の家で欲しいだけ吸収することができれば国の教育水準は一気に上がり皆がもっと幸せに生きることができるのに…
とりあえず、真澄様の領地で実験することの許可は取り付けました。なんとか成功させ我が国にも導入できるように働きかけねば。私だけでは心許無いのでウェストファリアを呼ぼうかしら。
そのためにも今は眼前の敵を排除しなければ。
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