第233話 最初の一歩は拉致から始めます③
「いらっしゃい。真澄ちゃん。昨日の今日でもう一度、来てくれてお姉さん嬉しいわ」
私の前にはいつもの微笑みを崩さないヴァレンシュタインが1人で立っていた。
「ただ、友達は3人もいらないでしょう。彼女たちには別の空間に飛んでもらったわ」
笑顔ではあるがさらっと毒を混ぜてくる。同意も取らずに強制転移とはどういうことだ。なるべく穏便に進めようと思っていたがあのメンバーで来たのが逆効果だったか。
「この教団は意外と過保護でね。あなた達が遊びに来るって分かって、【17聖女】のうち6人も待機してたのよ。まあ、正確には昨日のことがあったからみんな自分のクエストを中断して様子を様子を見に戻ってきてただけなんだけどね。タイミングが悪かったわね」
ヴァレンシュタインは聞いてもいない内情をばらしてくる。向こうもやる気満々で先手を取られての形か…
それに【17聖女】か…
イグナティウスやヴァレンシュタイン級のやつがまだ4人もいるのか。1人2殺の勘定だ。勝てるかな…
いや、自分の仲間を信じ私は私の目的を達成しよう。
「ヴァレンシュタインさん。いえ、水無瀬理江さん。今日はお願いがあってやってきました」
「また、昔々(むかしむかし)の捨てた名前を…その名前を出されてされるお願いって碌なものがないだけど」
平静を装っているがその名前を呼んだ瞬間、ヴァレンシュタインの雰囲気が変わった。優しく包み込む雰囲気が反転し刺々しく接触を拒む様子といった感じか。
「あなたの妹さん、水無瀬由香里さんに会ってほしいのです」
さらにその名前を聞いた瞬間、また表情が変わる。今度は刺々しい雰囲気を持ちつつも苦悶に満ちた様子だ。
「よっ、よく、私達が姉妹で私が水無瀬理江だと分かったわね」
噛み噛みだ! 動揺が非常によく見て取れた。やはり、無慈悲に由香里さんを見捨てた訳ではないのだろう。
「よく見れば、妹さん、由香里さんと雰囲気がソックリじゃないですか。それに妹さんを思い出して優しい目をしてましたから」
「それなら何で私が教団に入ったのか内情も聞いたでしょう。今さら、私のような屑が妹に許しをもらえるとでも。あなたの行為は大きなお世話ですよ」
「大きなお世話上等です。昨日、分かったんです。私は図々しい女ですから。結局、行動と結果が全てなんですよ。別に信仰を捨てろと言ってるわけではありません。ただ、一目、由香里さんに会ってほしいだけなんです。由香里さんは別にあなたを恨んでなんていませんよ」
私はヴァレンシュタインさんと戦闘をしに来た訳では無い。ただ、由香里さんにあって欲しいだけなのだ。努めて平静を心がけ話を進める。
「…」
しかし、ヴァレンシュタインさんに反応は無い。当然だ。彼女だって覚悟を決めて教団に入信しているのだろう。
ならば、止むを得ない。私は温めていた切り札を使う。
「元より、言葉による説得が有効だとは思ってはいません。それなら私があなたをPKできたら会ってください。あなたを私の2人目のPKターゲットに指名します」
2度目のPK。言ってしまったができるだろうか。一度目の時は情けなくもゲロを吐いて強制ログアウトさせられてしまった。
しかし、これを為して私は初めて祥くんの隣に立つことができる。誰にも相談していないがそう思う。自分の中で自然と答えは出ていたのだ。
ならば、この試練、何としてもでも乗り越えてみせる。
「それは不可能ね。いいわ。その条件でなら受けるわ。その代わり、あなたがPKされたらあなたが【全ての人類の永続ログインによる人口解脱教団】に入るのよ」
「ええ、約束しますよ。というわけで協力してくれる? 祥くん」
私は右隣を向いて語りかける。
突如、空間が裂け中から祥君が出てくる。
「もちろんだ。真澄さん」
「なっ、【次元斬り】も使えるの!?」
ヴァレンシュタインは驚いた顔でそう言ってくる。
「ごめんなさい。馬鹿弟子。まんまと合流されてしまったわ」
イグナティウスも音も立てず自然と現れ、ヴァレンシュタインにそう謝る。
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