第215話 春日井真澄VS清水谷祥④
「エミリーも入れて4対1か…即席パーティーで連携は拙い。実質は2対1の2セットだ。手の内が全く分からないのは1人だけ。オレが引く道理は無い」
これだけの戦力を見せつければ、流石に引いてくれるかと思ったが考えが甘かった。祥君はいささかも気後れした様子がない。
こうなるとエミリーのことが不安になる。彼女はNPCだ。死ねばそれでお終いだ。蘇生方法は存在しない。
こんな我が儘につき合わせていいのか!?
私が心配そうに見たのに気付いたのか、エミリーが励ましてくれる。
「心配いりませんよ、真澄様。たとえ、痴話ケンカの末のじゃれあいで命を落としたとしてもわたくしは全く後悔はありません。わたくしはこれでも剣王です。剣王たるこの身は常在戦場の心構えくらい持っています。相手がショウ様で最強の相手だということは分かっていますがみすみす殺られませんよ」
その言葉を聞いたイグナティウスが過剰な反応を見せる。まるで、千年の恋人にであったかのような反応だ。
「そうか、君はNPXCなのか!? どおりで雰囲気が違うと思ったよ。心配いらない、私は高位の治癒術詩でもある。私の目の黒い内は私の目の前でPKなんてさせないから」
イグナティウスがそう申し出てくれた。NPCXとまた、意味不明な単語が出てきたがありがたい。
「さて、役割分担はどうする? 私達2人は攻撃もできるが基本後衛だ。セオリーだと【剣王】が前衛のアタッカー、【黄金気使い】が前衛壁役。私達、後衛2人が回復と支援だが。まあ、私達2人は特殊だから専門的なことはできんが…なにせ我が弟子ヴァレンシュタインは【魔封礼師】などという【オリジナル・ジョブ】の所有者だからね」
イグナティウスは自分の弟子のことを我が事のように誇っている。私がその凄さが分からず驚嘆できずにいるとイグナティウスは不服に思ったのか補足説明を入れてきた。
「春日井君は【黄金気】が使えるレアプレイヤーだがまだ、セカンドワールドオンラインの知識は浅いようだね。【オリジナルジョブ】とはセカンドワールドオンライン中、現時点でたった一人だけが就いている職業のことだ。100億人のプレイヤーと無量大数のNPCの中でたった一人だよ。もっと興奮してよ!」
そうは言われても凄すぎて実感が湧かない。レベル的にはいくつぐらいなんだろう。私は素人なんだからレベルで言ってくれたほうがリアクションは取りやすいんだが…
「もっとも我が弟子の場合、【オリジナル・スキル】で【オリジナル・ジョブ】を創造したんだがね」
「はいはい、先生。弟子自慢はもう結構です。作戦会議を続けますよ」
ヴァレンシュタインは自分のことを褒められたのが恥ずかしいのか、手を叩き話の腰を折る。
私的にはもっと聞いていたいのだが…
「そうだね。ここは戦場なんだった。実際問題、さっきのセオリーは使えないよね。プレイヤーキルマイスターは動きが凄まじすぎて後衛の私では目で追いきれない。気がついたら首が飛んでるってスピードだ。春日井君もたぶんそうだろう。攻撃力は一線級だが素人だから攻撃を当てることができない。そこでとりあえず、防御だがまず、肝心要の治癒術詩の私を守ってくれ。私が生きている限り、我々のパーティに敗北は無い。逆に私がPKされれば容易く各個撃破されるだろう。よって春日井君は攻撃に参加せず私の側に控え、プレイヤーキルマイスターの攻撃をなんとしてでも止める。その隙に我が弟子と剣王が私に張り付いたプレイヤーキルマイスターを離すといったところか」
イグナティウスはそのふざけた様子とはうって変わってテキパキと指示を出してくる。
「攻撃方法については戦闘しながら考えよう。来たぞ!」
予想通り私ではなくイグナティウス狙いだ。走りながら天井に跳んだ! と思ったらそのまま、さらに姿勢を落として加速してくる。視線誘導か!?
一瞬、天井を見てしまったので反応がわずかに遅れる。もう、私を隣を抜けイグナティウスを斬る間合いまで入っている。
殺られる!? と思った瞬間、ヴァレンシュタインが割り込み祥君のブラッディエクスカリバーを得物で受け止める。
あれは鉄扇!? 扇子!? いや、単語帳か!
「ずいぶんと無粋な方ですね。こちらはまだ作戦会議も終わってないのですが」
「敵の作戦会議が終わるのを待つ阿呆がどこにいる!」
「そのわりに攻撃を仕掛けるのが遅かったような。あなたほどの実力者なら先ほどの話し合いの隙を見逃さないでしょう。2言、3言でも言葉を交わせば連携ができてくるものです。あなたはあえてそれを見逃した。あなたのやっていることは全てが支離滅裂に思えるのですが」
その言葉に苛立ったのか祥君のターゲットがヴァレンシュタインに変わる。
「冥桜乱数撃・後退階差」
祥君の高速の連続突きが炸裂する。しかし、ヴァレンシュタインは避けようともせず、直撃を喰らう。一気にHPが赤まで下がるが全く気にした覚えがない。すぐに回復が始まったからだ。イグナティウスの魔法詩だ。
「ちぃ! やはり、まずは治癒術詩か!」
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