第202話 初めてのPK(プレイヤーキル)⑫
「おみごとです。真澄様! なんと迷いと苦悩と苦痛に満ちたPKだったか! PKとはこうあらねばという見本のような一撃でしたね。見直しました」
ガズナは先程までとは打って変わってハイテンションで私に声をかけてくる。私はガズナに応えようとしたが猛烈に気分が悪い。
「おぇぇぇぇぇぇぇ」
私は胃の中のものを全て吐いた。その瞬間、インフィニットステーションの安全装置が作動し、私は強制的にログアウトさせられた。
◇◆◇
目覚めると私は普段通りベッドの上に居た。枕が自分の吐瀉物で濡れており臭い。しかし、片付ける気にもならない。なんとか強引にインフィニットステーションだけは剥ぎ取る。
ひんやりとした空気が顔に当たり気持ちいい。
インフィニットステーションには火災探知機、バイタルモニター等各種安全装置が組み込まれているのは知っていたが実際に発動したのは初めてだった。
今回のトリガーは心身の喪失だろう。それほどまでにあの行為は私の心に強いストレスを与えたのか。剣を突き刺す前から突き刺した後まで凄まじい勢いで心臓が動いていたのが分かったし、息苦しいのも自覚できていた。スポーツをしたわけでもないのにあそこまで体調に変化を与えるものなのか。
考えてみれば、私は特段何をしたわけでもない。マナーの悪い行為だが実際やったことはただ、彼女のアバターを一度、壊しただけだ。しばらくすればまた復活する。ゲームのシステムにも認められているし、法的にも問題無い。大丈夫だ。こんなに思い悩む必要は無い。明日になれば全て忘れる。
ただ、インフィニットステーションはあの剣で突き刺しリアルな感覚も正確にトレースしていた。実際、同じ剣で同じように彼女を刺せばああいう反応が起こるのだろう。
思い出すとまた吐き気がしてきた。駄目だ。危険だ。別のことを考えよう。
何がいい? 何でもいい。ガリポリ領のこと。いや、駄目だ。こちらも詰んでる。もう私ではネブラスカをどうすることもできない。ダーダネルス領は? こちらも駄目だ。カンザスとの復縁は不可能だ。
もう領主はやめるか…
元々、祥君の気まぐれでもらった職業だし、金にもならないし…
アルバイトもいちから探さないと…せっかく、水無瀬さんが色々教えてくれたがあんなことをしてしまったらもうノコノコ出勤なんてできやしない。ブラック企業で働くのも嫌だし…
駄目だ。なにも思い浮かばない。私には何も無いのか…
「なんだ私も人生詰んでるじゃない…水無瀬さん」
そう気付き何もかもが馬鹿馬鹿しくなった私は立ち上がり枕カバーを洗濯カゴに放りこみ、シャワーを浴びに部屋から出た。
「クソみたいな人生のクソみたいな結果か…」
水無瀬さんの台詞を自分でも繰り返してみた。今の私にはシャワーのお湯すらも水無瀬さんの血液を連想させて気持ち悪かった…
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