第201話 初めてのPK(プレイヤーキル)⑪
私には答えられない。私は経営者でも無ければ領主でもないんだ。そんな難しいことを聞くな。責任を押し付けるな。選択を押し付けるな。
「春日井でも答えられないか…やっぱそうだよね。お義父さんや私は間違ってるってわかってこっちを選んだ。働かされてる人間はPKを選んだ。春日井は選ぶことすらできなかった。それだけのことだね」
いつものクレバーな水無瀬さんだ。教室の片隅でいつも言葉少なく、笑顔でいて、しかし、何か喋るときには必ずその本質を射抜く賢い彼女のままだ。
「まあ、私の人生、どのみち詰んでるから別に負債がさらに増えたところで問題はないよ。クソみたいな人生のクソみたいな結果だ。馴れてるよ。さっさとPKして帰りなよ」
駄目だ。駄目だ。このままじゃ、PKするしかない。なんとか彼女のいいところを見つけ出さねば。PKできない理由をひねり出さねば。
「なんで水無瀬さんがそんなことを言うの…勤務時間の偽造なんてするタイプじゃないじゃない。バイトした時だって一緒に謝ってくれたし、あの時だって勤務時間外にのぼりを片付けようとしたら『それはサービス残業だ。帰れ』って叱ってくれたじゃん!」
「あのバイトはきつくてメンタルの弱いバイトじゃすぐにつぶれるわけ。そのたびに書類作って、いちから教えなおすのは非効率的。やめないバイトが欲しかったからいい面して頑張っただけ。仕事ができないバイトなら身体触らせてでもクレーム対応させるよ、私は…勤務時間の偽造にしたって私もやりたくなんてなかった。けど、やらないと首になる。改竄して帳尻を合わせるか、改竄せず自分が首になるか二択だった。この二択でしか収支の関係で選べなかった。春日井ならどっちを選ぶ? 私は他人を犠牲にした。ばらされるとまたしても首のコースだから私が圧力をかけた。それで恨みを買った。それだけだよ。それだけのことだよ。全ては収支のためだよ。あれだけやってまだ赤字なんだよ。私も給料なんてない。全部、姉さんの借金返してるだけなんだ」
なんだその理由。駄目だ。駄目すぎる。彼女はクレバーに狂ってる。教室ではそんな雰囲気なかったのに。バイト先でもそんな雰囲気は微塵も感じさせなかったのに。
田脳村と同じだ。理由は分かるが十分に狂ってる。その存在のあり方が狂ってる。理由はできた。ならばPKするしかない。
プレイヤーキル。殺すのか!? 彼女を!? クラスメイトの彼女を。
私はもういちど迷った顔で祥君を見た。苦悩している顔といった方が正確か。
しかし、今度は助けてくれなかった。私には彼が助けてくれないと直感で分かった。祥君も水無瀬さんが私にとって初めてPKする相手としてちょうどいいと思ったのだ。
所詮は情報体だ。本物の彼女を殺す訳ではない。既にここまで内情を知ってしまったのだ。今さら、水無瀬さんと元の関係に戻れる訳もない。
殺れ! 殺るんだ! 相手はブラック企業を肯定し、その悪事に加担していた人間だ。殺す理由は十分だ。
なぜできない。知り合いだからか? クラスメイトだからか? 一緒に働いて心を許した相手だからか?
そんな考え方は間違っている。知り合いだからできないなんてそんなぬるい理由が通用する行為では無い。
殺れ! 殺るんだ! 考えるな! 行為に集中しろ。声を出せ! 腕を振り下ろせ!
「うあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁ!」
人を殺すときはこんな声がでるのか!?
喉の奥から情念を込めて私は剣を腰溜めに構え、そのまま柄の部分に手を沿え水無瀬さんを突き刺した。彼女のレベルは一般人と変わりない。やすやすと私の剣は心臓を捉え、致命のダメージを与える。水無瀬さんの死ぬ様をセカンドワールドオンラインは正確にトレースし、口から血を吐き倒れた。そうして、HPがゼロになり彼女は光の粒へと変わり消えた。
こうして私は水無瀬さんをPKした。
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