第198話 初めてのPK(プレイヤーキル)⑧
眼前の菟玖波と名乗る男は影転移で私と真澄様の位置が変わったことにも動じず速度を落とさずこちらに駆けてきている。普通は想定外のことが起きれば一度、間をあけ仕切り直すものだが…
奴は私が相手をすると名乗りを上げた後にきっちりと私を無視し最弱戦力である真澄様にまず止めを刺しに行った。不安定な3対1より安定的な2対1にもちこみたかったのだろう。戦況分析もきちんとできるプロのプレイヤーだ。その上、戦闘経験値も多く、胆力もある。やっかいな相手だ。
ステータス的にも高機動の軽戦士型槍使い。体系化された槍術をマスターし、魔法も使え、一流の装備を持っている。野良の護衛の中では最高クラスだろう。とはいえ、こちらは大企業の社長級とてPKしてきた身、この程度の相手に時間をかけるわけにはいかない。
菟玖波の【蜻蛉落とし】から放たれる高速の一撃を私の【ドレッド・カトラス】で受け止める。重い。真澄様はよくこんな高威力の一撃に耐えれたものだ。黄金気の力によるドーピングだが私には無理だ。数回直撃を受けるだけで絶命してしまうだろう。今も一発剣で捌いただけなのにもう手が痺れた。こんなもの馬鹿正直に受ける意味はない。
NPCやモンスターなどが使う機械的な動きではない、人間ならではの揺らぎのある高速の突きを私は全てかわす。所詮は槍だ。懐に入れば剣に勝てる道理はない。私はドレッド・カトラスを構え下段に構え一気に首を刈るべく振り上げる。
その瞬間、突き一辺倒だった菟玖波の槍が横薙ぎの一撃に変わる。左手一本であの重さのある蜻蛉落しを振り回している。なんて膂力だ。だが懐に入ってからのぶん回し喰らったところで大したダメージにはならない。このまま首を刈れば終わりだとダメージ覚悟でそのまま振りぬく。
しかし、菟玖波は空いた右腕を挟み込みブロック。右腕は切り落としたが首はまだ繋がっている。右腕ごと首も落とすつもりだったが軽装甲のくせになかなかの防御力だ。
そうして、槍の横薙ぎがようやく届き私は吹き飛ばされる。間合いが大きく開いたところで魔法が着弾。真澄様の時と違って威力を落として着弾速度を上げている。魔法なら追尾機能が働き回避が不可能と判断したのか。事実その通りだし。やはり、スキルを使わないと勝てないか。生身で戦うには強すぎる。
火炎魔法着弾による爆風を利用し私は【影転移】を使い自分の影から菟玖波の影に移動。
菟玖波の右斜め後方に現出し菟玖波の首を刈るべくドレッド・カトラスを渾身の力をこめて振り落とす。しかし、菟玖波は超反応で前方に飛びすんでのところで回避する。見て回避したのでは無い。感じて回避したのだ。先ほど、真澄様と位置を変えたことで【影転移】の仕組みを理解したか。
だが無理な回避がたたり体勢が崩れている。愚かな、それがお前の限界だ。
「原初の闇より産まれいでし影」
私がそう唱えると数十の魔法の矢が私の影から糸を引きながら射出される。それすらも菟玖波は全て回避する。体は崩れ、顔は私の方を向いていないにも関わらずだ。まさに軽戦士の面目躍如の動きだ。
だがもう詰んでいる。そこまで回避に特化しているということは私と同じでダメージ耐性がない紙装甲ということだ。
回避された影の矢の幹の部分から新たな影の矢が生まれ菟玖波を滅多刺しにする。特に蜻蛉落しを持っている左手は入念に潰す。
後は悠々と歩き、瀕死の菟玖波の側に立つ。プレイヤーなので痛覚は遮断されており、情報体はボロボロでも未だその目は戦闘意欲に燃えている。
私がドレッド・カトラスを振り上げると初めてその目が恐怖に歪んだ。ようやく見たかったものが見れた。私の唇は笑いを殺しきることができず、うっすらと歪んでいた。
もうこの男に用は無い。私は一息で菟玖波の首を刈った。
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