第197話 初めてのPK(プレイヤーキル)⑦
「やはり、黄金気を突破してダメージは与えることはできるが決定的に攻撃の通りが悪いな。俺の武器はもうすぐ【蜻蛉斬り】に進化する【蜻蛉落し】。【赤気】を使って強化し、まともに入ったコンボであの程度のダメージで済むとは…普通は3度は死んでいないとおかしいのだが」
菟玖波は冷静に戦況を分析する。
対する私は彼に一撃たりとも入れられず攻めあぐねていた。決定的に技量が違いすぎる。攻撃に転じれば防御が薄くなり殺られる。かといってこのまま防御を固めていてもいずれは削りとられる。
「だが黄金気は宝の持ち腐れだ。どうやって修得したのかはしらんがスキルが技量に追いついていない」
そう叫ぶと、菟玖波はまた間合いを詰め嵐のような連続攻撃を繰り出してくる。
今度は必殺技ではない。なんとか回避できないものかと目を凝らし注視するが無理だ。超高速で動く槍の一撃を見切るのは不可能だ。私は堪らず後方に大きく跳び間合いを開ける。近距離戦が無理なら遠距離戦だ。火力で押し切る。
私が右腕に黄金気を集束させ黄金気弾のモーションに入ろうとすると菟玖波が槍を振りかざし叫んだ。
「ガ・エラ・ルーガ!」
さっき後衛が使っていた火炎魔法だ。しかも先ほどの後衛の男より到達速度が速い! 避けることもできず堪らず防御し、またしても膠着状態に陥る。しかも攻撃は受け続けた状態でだ。
「さっきプレイヤーキルマイスターがPKしたのは俺の弟子だ。俺のパーティーは前衛が多いので自ら後衛を選んでくれた自慢の弟子だ。お前達にPKされたせいであいつにデスペナルティーが付いた。あいつのレベルならもう一年はレベルアップはできないだろう。圧倒的な力を持ちながらなんのためにこんな行為を繰り返す」
菟玖波の言葉は悲痛な想いに満ちていた。そんな者はお前達の主観に満ちた見方だ。だったら護衛のしごとなんか引き受けるな! そう叫びたかったがいかんせん炎の魔法が私を焼いている最中なので反論ができなかった。
私のHPは残りわずかだ! どうする!?
「さっきから黙って聞いていれば言いたい放題。そろそろ耳が腐ります」
ガズナだった。炎の魔法は止み、菟玖波の注意はガズナに向く。
「ガズナ! これは私の勝負だよ」
「このまま続けてもあなたに勝機はありません。プレイヤーキルマイスターのパーティーがPKしに来て、逆にPKされるなど前代未聞。大恥です。それにPKとはこんな正々堂々、決闘じみた方法で行なう行為ではありません。相手の背後にそっと立ちすっと一息で首筋に赤い線を入れる。圧倒的遠距離からズブリと心臓を狙い打つ。殺された相手は自分の身になにが起こったのかも分からず、死にゆく中で己のこれまでの行いを内省する。これまで絶対的な安全圏に居て石を投げていた人間が突然、当事者になり自らの過去の言行を悔いる。自分もまた石を投げられるようなつまらない人間にすぎなかったと反省を促す行為なのです」
ガズナは苛立った様子で私に声をかけ勝手に進めていく。
「いずれにせよ、あなたはもう戦えない。元々見学の予定だったのです。黙ってそこで見ていて下さい」
ガズナが菟玖波への視線を切ってそう言うと突如、菟玖波が動いた。凄まじい速度で私の方に向かってくる。まず、私を殺すつもりだ。
おそらく菟玖波の一撃をあと一度でも喰らえば即・退場だ。私は覚悟を決める。もはや、防御では延命策にもならない。覚悟を決めてかわし、懐に飛び込み攻撃を入れる。私は正面に菟玖波を捉え決死の覚悟で黄金烈眞掌の構えを作った。
しかし、突如として菟玖波の姿が消えた。いや、違う。私の目には菟玖波がおかしな方向に向かって駆けているのが見える。菟玖波の向かう先にはガズナがいる。私の隣には祥君が居る。
これは私とガズナの位置が入れ替わったのか???
私が狐につままれたような顔をしていると祥君がポーションを使い回復してくれる。
「あれがガズナのスキル【影転移】だよ」
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