第195話 初めてのPK(プレイヤーキル)⑤
いくら黄金気は対魔法防御力も高いとはいえ、そろそろ限界だな。そう思いはじめたころ打ち合わせの時刻になった。
突如、ベランダのガラスが割れ祥君が飛び込んでくる。そのまま速度を落とさず、一息で後衛の男の首を刎ねる。
未知の戦力に対して正面突破はあまりに危険。そう判断した私達は即席の2点同時襲撃を計画したのだ。正確には私が轟音を立ててしまったので正面玄関に攻撃が集中してしまったが結果として見事、囮役を果たせた。
後衛の援護を突如なくした前衛二人は私達か祥君かどちらを相手にすればいいか混乱している。その隙を見逃す祥君とガズナではない。
それぞれ心臓を一突きされてあえなくPKされる。
狭い玄関出入り口なのだ。乱戦に持ち込めばまだ、田脳村を逃がす時間は稼げたかもしれないのに。
考えてから、結論を出して、行動に移すそんなノロマな2流のプレイヤーでは祥君やガズナの相手にもならない。反射で行動し、瞬時に結論が出せ、戦闘中考えるぐらいのゲーム外スキルがないと2人を相手に数分も持たない。そういえば、ガズナはレベルいくらぐらいなんだろう。
そんなことを考えながらこれで事前情報にあった護衛5人は全員倒した。残りはターゲットの田脳村竹田だけだが…
最大の物理的障害を突破したことによりわずかに気が緩む。しかし、未だ室内はピリピリとした空気のままだ。不思議に思い祥君とガズナの方を見ると部屋の奥に居た2人の男を見ていた。
1人はブルブルと震えた50代の男、もう1人は既に槍を展開し、こちらに敵意を向けている男だ。
護衛は5人じゃなかったのか。しかも、この男、先ほどの5人とはまるで毛並みが違う。なんというか静謐な雰囲気を持っていながら研ぎ澄まされた敵意をぶつけてくる相手だ。いわば静の極致だ。
「その黒聖剣。そのいでたち。もしや、プレイヤーキルマイスターか?」
「いかにも」
「プレイヤーキルマイスターに従者2人。1人は超高位レベルの盗賊剣士。もう1人は黄金気持ち。これは勝てんな」
静謐な雰囲気を持つ男はさすがに超高位レベルだけある。私達3人を相手に冷静に戦況を読む。これならわざわざ戦う意味は無い。
私は田脳村の身柄を渡してもらうべく彼に提案する。
「勝てないなら田脳村を残して引いてください。私達もむやみやたらにPKしているわけではありません」
「残念ながらそういう訳にもいかんな。護衛失敗はあっても護衛対象を見捨てては次から俺に仕事がない」
「デスペナルティーが怖くないんですか。死んでしまったら資産も10分の1になってしまうんですよ」
「この不景気。俺のような武闘系に特化したプレイヤーにはこのぐらいしか仕事がないんだ。迷宮に挑んでも収支は常に赤字だ。大企業の社長クラスの護衛はさらにレベルの高いプレイヤーが独占している。俺みたいに中途半端な人間にはこんな男の護衛ぐらいしか仕事がない。まだ、護衛の仕事ができているだけマシだ。もう、俺の年齢で実世界で就職は無理なんだ。今さら実世界でやっていけるとも思わない。ここで逃げたら全てを失う」
静謐な雰囲気を持つ最後の護衛は逃走のための理由を自分で潰した。忠誠でも義務感でも職業意識からでもなく、ただ生活のために男には逃走は許されていなかった。これでは私が道化だ。彼に逃げるという選択肢はないのにあえてその選択を提案するとは…
「雇用主、俺が己の持つ全てを賭けて死ぬ気で時間を稼ぎます。その隙になんとかログアウトして下さい」
「当たり前だ。なんのために能無しのお前に高い金を払っていると思ってるのだ。命を捨てて阻め。くそう、なんでログアウトできんのだ…」
田脳村はログアウトしようと何度も設定をいじっているようだが無駄だ。なんのために祥君の突入が遅れたと思っているのだ。既にこの部屋は祥君の術中だ。
読んで頂きありがとうございました。明日もなんとか投稿がんばります。
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