第193話 初めてのPK(プレイヤーキル)③
その後も私達はPK談義をしながら和気藹々と過ごした。気がつけば、もう30分ほど経過していた。
ずっと物陰に隠れ息を殺しながらの会話だから早くも疲れた。もっとも本物の私の肉体は今日も自宅のベッドの上で寝転んでいるのだ。疲れたのは精神だ。
ただ、会話をして待つのではなく、①ターゲットに見つからないように②ターゲットが来たら速やかに行動ができるように③相手が人間であっても躊躇わずやるべしとイメージを作りながらなので余計に疲れた。
計画ではここまで待つ予定ではなく私達が到着してから10分から20分で田脳村竹田は下りてくる予定だった。既に30分は経過し下りてくる気配がまるで無いので随分な肩透かしを喰らった気分だ。
「下りてこないね」
私がポツンとそう呟くと祥君は深刻な顔で返事をした。
「まずいなガセだったのかもしれない…愛人の家族と一家団欒というのはカモフラージュで室内で別の何かをやってるのかもしれないな」
「しょうがないから日を改めようか?」
中で何をやっているかも分からないのだ。もしかして室内にはさらに多数の護衛が詰めている可能性もある。不確定要素が多い中で襲撃しなくても、別の機会を窺えばいいと私は提案してみた。
「いや、今日でないと不味いんだ。依頼人は金がないからメディアにこのPKの情報を売ったんだ。成功しないと依頼人は違約金を払わないといけなくなる。さらにガセだと情報提供者保護の原則が弱くなり記事の出元から依頼人が特定される恐れがある」
依頼人はそこまでのリスクを持って祥君にPKの依頼をかけていたのか。いや、依頼したのは代表者で実態は田脳村竹田の会社の社員数百人だもんな。彼ら全員、金銭的負担だけでなく失業等のリスクも背負いこのなんの成果ももたらさない行為を応援しているのか。
「護衛がいるから中にいるのは間違いない。やむをえない、正面から強行突入を図るか。ぐずぐずしてたらログアウトされてしまう」
祥君は矢継ぎ早に方針を決め、行動を開始していく。
「真澄さん、これが最後の確認だけど本当に行く?」
それは彼なりの気遣いだったのだろうか。たぶん、祥君は私が怖気ついたとか日を改めると言っても責めずに普段どおり接してくれるだろう。
領主を引き受けた時のようにこの選択を受け入れても将来どこかで私は悩み苦しむだろう。
だが私の答えはとうの昔に決まっている。いや、あの時とまるで変わっていないというべきか。
「もちろんだよ。行こう!」
私は祥君達の手を引き前に進んだ。
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