第187話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ領主館で再度、絶体絶命の危機に陥る
「ずいぶん騒がしいので何が起きたのかと思えばカンザス一等執政官が来ていたんですね。相変わらず騒がしい男です。出て行かなくて正解だった」
ネブラスカは悪ぶれもせず話を続けた。
副領主であるアクィナスが自ら仲裁に行ったのに隠れていただと! いや、それよりももっと聞き捨てならないことを言った。ダーダネルス領からの申し送りをネブラスカが握りつぶした!? 立派な反逆罪じゃないか!
私は殺気が漏れ出そうになるのをなんとか押し殺し、黙ってネブラスカを睨んだ。こいつは私の味方ではなかったのか。
「剣呑そうな顔をしていますね。1つの領地すら録に経営できない人間が2つの領地を同時経営など不可能でしょう。ダーダネルス領に犠牲になってもらおうかとも思いましたがプレスビテリアン帝国の侵攻に対しては向こうが本命。ならばやはり、犠牲になるのはガリポリ領だと考え、あなたをここにとどめておいたのです。カンザスはああみえて有能ですからね。領主がいなくても自らの才覚で充分、経営はできる。領主の署名が必要なら偽造してでも事を為す愛国者です」
ネブラスカは漂々とそんなことを言ってきた。
「なにか思い違いをされているようですが16領主というのは一等執政官の我々よりも上にある位なのですよ。あなた方の判断は常に我々の一歩先を行っていなくてはならない。現場の知識や情報で我々に勝てる訳がないのです。我々はもう30年はこの仕事についているのですよ。にも関わらず一等執政官の上に領主という職種が設置してあるのは黒佐賀王国全体を見据えた大局的な判断を下すためです。決してモンスターの討伐や一等執政官の使い走りになるために領主の職があるわけではありません。その程度の認識なら私もあなたは領主をやめたほうがいいと思いますが」
ネブラスカも反対派だったのか!? 私はがっくりと肩を落とし言葉を発せられずいるとそれ以上、それ以上言葉を重ねること無くドアに向かって歩いていった。
「あなたはその精神が善良なのは認めますが領主に値する器がない」
それだけ呟くとネブラスカは部屋から出ていった。
2人が出て行ったことにより、領主室の中は私とアクィナスの2人きりになる。私がずっと言葉を発せず沈黙しているとアクィナスも察してくれたのかなにも声をかけてこなかった。
ダーダネルス領を牛耳るカンザス一等執政官に三行半を突きつけられ、ガリポリ領の主であるネブラスカ一等執政官からは領主足る器でないと評価された。もはや、私の領地経営は死に体をなしているのが分かった。どうすべきか。続けるべきか。辞めるべきか。進めるべきか。諦めるべきか。
小1時間程、黙って結論のでない答えについて考えていた。
考え疲れたのを自覚した頃、ふと三重野先輩のプランを思い出した。
一等執政官2人をまずクビにする。その後、領地経営に熱心なプレイヤーを後釜に据え、領主館の職員を総入れ替えするのだ。
もちろん、反発が大きいからそんなことはできないのは分かっている。そんなことをしたらダーダネルス領もガリポリ領も回らなくなる。
考えることに疲れ半ば捨て鉢的な意味でエミリーにそう提案してみた。
しかし、エミリーは普段通り至極真面目な態度で返答してきた。それはまさに私が考えていた通りの答えだった。
そして、私が実行し失敗した答えだった。
「私は反対です、真澄様。確かに異界人は優秀ですが今、春日井領は当主が切り替わったばかりで非常に不安定です。トップの数人程度の切り替えは有りだと思いますが大幅な人事の刷新は不満を買い組織が機能しません。まずは人材を見極めチャンスを与え、徐々に改革していかないと領主の座を追われます」
分かってるってその程度のこと。けど、そうやってしんどい正攻法でわざわざ臨んだのにダメだったんだって。
じゃあどうすればよかったんだよ!
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