第185話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ領主館で絶体絶命の危機に陥る
「無法者で悪かったな、無能領主」
カンザスと名乗った男は私が領主であることにあたりをつけるとよく通る声で私にいきなり嫌味をぶつけてきた。やはり、先程のやりとりは聞こえていたか…
しかし、それでも私の許可無く部屋に侵入し、初対面の私にいきなり罵声を投げつけるのは部下としてどうなんだ。
そして許可もなくカンザスは領主執務室に添えつけられたソファーに座り、足を組み横柄な態度で言葉を続けた。
「ネブラスカのように無能領主対して形だけの礼儀を使っても仕方がなかろう。あなたも私も忙しい身の上だ。単刀直入に用件を言おう。ダーダネルス領の領主を辞め、私に譲れ」
カンザスはいきなり訳の分からない要求を突きつけてきた。こいつ本当にネブラスカと同じ一等執政官なのか!? 品が無さすぎる。
「再三の申し出にも関わらず、一向にダーダネル領に入る様子も無い。貴様一体何をやっていたのだ。貴様がダーダネルスに入らんせいで業務が貯まる一方だ。私がお前の名前で代理署名するにも限界がある」
なっ、こいつ私の決裁も待たず自分でサインを偽造して決裁したのか。いや、それより前に再三の要求とはどういうことだ!? 私がダーダネルス領に入らないせいで業務が進まないなんて初めて聞いたぞ。
私が声を無くし困惑した表情で虚空を見つめていると私の表情を読み取ったのかカンザスは深いため息と共にこう紡いだ。
「その様子では私からの申し送りも握りつぶされていたのか…。度し難いなガリポリは。領主がまるで腫れ物扱いだ。悪い情報が緩慢に伝わるような組織に未来があるとでも思っているのか」
カンザスの言うことは正論だ。正論だが…私だってガリポリ領でネブラスカと親睦を深めたり、新型モンスターを討伐したり、オダリスクと折衝をしたり、ロンバルトと会談をしたりと色々忙しかったのだ。
「大方、言っても仕方が無い、誰に言っていいかわからないような状態だったのだろう。全ておまえが原因だ。春日井真澄。この売婦が!」
尚もカンザスの中傷は続き私がなにも抗弁しないことをいいことに言いたい放題言ってくる。 しかし、カンザスにとってはこれが真実なのだから…私が忙しいことにかまけてダーダネルス領を後回しにして現在も訪問すらできていないことは事実なのだから…
「貴様が着任してダーダネルスはどう良くなった。いや、ガリポリでも構わん」
「…」
私には答えられない。私には抗弁する術がなかった…
「アクィナス・ユトレヒト! 官記法典の第3章第1節を言ってみろ」
私が無反応なのに業を煮やしたのかカンザスの怒りの矛先はアクィナスにも向いてきた。
「『1人の無能な政治家の生存は100人の有能な民を殺す』です」
アクィナスもカンザスのあまりの迫力に渋々答える。
「そうだ。その官記法典を定めたのもあの黒佐賀のじいさんだ。あのじいさんも耄碌したもんだ。自分で作った法典を自分で壊すような真似をして、あまつさえ国境線を有する領土に配置する。あるいは重大な政治的側面があったのかは知らんがそんなことは関係ない。お前のような無能を絵に描いた領主がいると領民が死ぬ。さっさとお遊びはやめて領主の位を返還しろ」
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