第182話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ領主館でスムーズな引継ぎを受けて喜ぶ
「ようこそ、春日井領主。今日はお早いお着きですね」
ネブラスカの執務室に入るとわずか30分程度の誤差にも関わらずそう指摘してきた。
「なにか報告事項は無い?」
「そうですね。特には…火事が2件、窃盗が1件。領主に攻撃を加え返り討ちにあい、病院送りになった冒険者が60人程いたぐらいですか。今日も非常に平和ですね。大きな物的損害としてはガリポリ冒険者組合で大規模攻撃が行なわれ1階から4階の天井まで大きな穴が空いたぐらいですか」
ネブラスカがにやりと笑いながら答えた。ネブラスカが冗談を言うとは珍しい。一緒にガリポリ軍を訪問し辛酸を舐めたから絆が強くなったのだろうか。
「そうそう企画室がガリポリ冒険者組合に依頼する新規の事業を企画したので検討して欲しいと申し出がありました。どうも領主肝煎りの政策と判断したらしく突貫で作ったようです。資料がアクィナスに渡っておりますので後でご確認をお願いします。報告事項は以上です」
引継ぎもスムーズになってきた。私が指示を出せば領主館が瞬時に動いてくれるのか。嬉しいな。
さしあたっての課題はガリポリ軍との折衝か。イヴァンが何か糸口つかんでくれてないかな。他にも方法が無いか別ルートからも検討してみるか。三重野先輩にでも相談してみようかな。
考えながら私はネブラスカの執務室を後にし、領主執務室に入りアクィナスと合流した。挨拶と企画室からの新規事業についてレクチャーを受けた後、いつも影のようにひっそりとそこに佇み、そうでありながらも確かな存在感を放つ彼がいないことに気付きアクィナスに尋ねてみた。
「ところでイヴァン君がいないけど、どうしたの?」
「実は今日はまだ出勤してないんです。昨日の夜も帰ってきた形跡がありませんし、もしかしてまだガリポリ軍・司令部にいるのかもしれません。心配してるのですが…」
アクィナスが顔を曇らせてイヴァンの身を案じている。とはいえ、イヴァンも私付きの軍人とはいえ、黒佐賀軍の一員だし思想、信条、立場は違うからと言ってガリポリ軍が彼に危害を加えるとは考えにくいが…
しかし、同時に職務に極めて真面目に取り組む彼が出勤してこないのは確かにおかしい。自由出勤を認めているとはいえ、こんな夕方の時間まで出勤してこない人間では無いはずだ。むしろ、自由出勤といえど必ず毎日定時に出勤してくるタイプに思える。
「そういえば、聞いてなかったけど君達2人は今どこに住んでるの?」
「ガリポリの街の『大海の畔亭』という名前の宿屋ですね。隣の部屋同士なんです。本当は1ヵ月契約ができるもっと安いところを借りたいのですがまだ、ダーダネルス領での仕事も残っていますから…真澄様がダーダネルスを本拠地される可能性も考慮してまだ決定してないんです」
2箇所経営の弊害がこんなところにも出てきているのか。早く、本拠地を定めないと。もうガリポリ領でいいかな。
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