第179話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ軍司令部にて現状のまずさを思い知る。
「やはり、実績等の手土産を持ってココに来るべきでしたか。拙速がすぎたようです。申し訳ありません、春日井領主」
ロンバルトが出て行ったことにより室内は私達4人だけになった。ロンバルトの姿が完全に見えなくなるとネブラスカがなぜか私に謝ってきた。
「彼は極めて能力の高い軍人なのですが直裁的なモノの言い方をします。よく言えば能力絶対主義者、悪く言えば環境非適応者。あの才覚があれば軍のトップにつくことも可能でしたのに口が災いし周囲に敵を作りすぎてここに赴任してきたのです。王都でも持て余している人材です。一応、黒佐賀王の直弟子の一人なのですが…」
なるほど、しかし私としては初対面のロンバルトの評価よりもネブラスカの評価の方が気になるのだが。ロンバルトに私が16領主に足るかと詰問された際、彼は沈黙を持って答えた。ネブラスカもまた私を領主と認めていないということだろう。ということはこの会談をセットしたのは部下としての義務からだったのか。私がネブラスカから信頼を得るのにもまだまだ時間がかかりそうだ。
「私とは馬が合わない人物ですが、それでも彼は私の能力は評価していたようですね。いや、利用していたというべきでしょうか。春日井領主がダーダネルス・ガリポリの領主に任命された時から新領主と会ってほしいと打診していたのですが色好い返事がもらえず今回ようやく内諾がもらえたので急ぎ会談をセッティングしたのですが、まさかこのような結果になるとは思ってもいませんでした。彼が他人の顔色を窺う人間だったというのが驚きです」
そんな以前から打診してくれていたのか。というかそこまで重要人物だったのか。当然か。この国の第3位の兵力を束ねる男なのだから。こんなことなら新型モンスターの討伐や冒険者組合での折衝なんてすっ飛ばして、まず会談の準備を図るべきだったのではないか。
いや、その情報をネブラスカから引き出せていないだけで私の落ち度か。一度、ネブラスカと腹を割ってガリポリ領の重要人物をまとめてピックアップしてもらった方がいいか。重要人物だけではなく重要案件もか。
作業量がさらに増えるな。ダーダネルス領にも行かないといけないし、ダーダネルス領でもこれと同様のことが起こりえるのか。今までよりさらに作業量が増えダーダネルス領の分も乗っかるとさらに2倍は増えることになるのか。
私は目の前が真っ暗な状態になり、無間地獄にでも落ちたような気分になる。
私が沈んでいるのを見かねたのかアクィナスが声をかけてくれる。
「とりあえず、もうココにいても仕方がないので一旦、ガリポリ領主館に帰りませんか?」
「そうですね。私もこれ以上食べたい気にはなりません」
アクィナスの提案にネブラスカも同意する。せっかくネブラスカが会談を和やにするようにと会食形式にしてくれたのに残念なことだ。
テーブルの上に目を落とすとせっかく用意してくれた食事がほぼ手付かずで残っていた。見てくれこそイマイチだったが一皿一皿の出来は素晴らしかった。但し、一緒に食事をした相手が最悪だった。そのせいで、ほとんど手を付けられず残してしまった。そのぐらいロンバルトとの会話は噛み合わなかった。
アクィナスもイヴァンも私があまり食べてないのを見たらしく遠慮して食べられなかったのだろう。
私もこれ以上食べる気にもなれなかったので早々に帰ることにした。
席を立つとイヴァンが私に声をかけてきた。
「真澄様、私はここで分かれてもよろしいでしょうか? せっかく司令部に来たので着任の挨拶をしておきたいのです。護衛は先程の案内をしてくれた人間が対応します。彼なら私より強いでしょうし」
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