第178話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ軍司令部にて会食を行なう
結局、ネブラスカに面白い話をしてなどいう無茶振りなどできるはずもなく、会話も無いまま軍司令部に着いてしまった。
郊外に建てられた軍司令部は練兵場を併設しており、広大な敷地が見て取れた。
私がその光景に言葉を失っていると先程から馬車を運転してくれた軍人が私達を先導してくれる。
「なんとなく、ガリポリ領主館よりお金がかかってる気がするんですけど」
「なんとなくではなく、事実です。ここは国境に面した領地です。17の軍の中でも第3位の規模の兵力を有しています」
めづらしくネブラスカが捕捉説明をしてくれる。ちなみに1位はもちろん王都軍、2位はダーダネルス軍とのことだ。
「私がここに連れてきた理由がお分かりになりましたか? あなたはダーダネルス・ガリポリ領主だ。即ち、黒佐賀王国の第2位と第3位の軍をも左右する立場にあるということです」
なっ、それって第2位、第3位を統合すれば王都軍に優る戦力ということでは!? この国の最大兵力が私の領地にあるということか!? 私は妙な汗が背中からしたたり落ちるのを感じた。
「もちろん、領軍はあくまで黒佐賀王と黒佐賀王国に忠誠を誓っており、16領主といえど彼らに対する指揮命令権は持っていません。しかし、領軍に要請することや影響力を持つことは可能です。そして、彼らもまたこの地で暮らしていく以上は16領主の存在を無碍にはできません。彼らもあなたと良い関係を築きたいのです。今日はそのために会談をセットしました」
歩きながらそう説明してくれるネブラスカの横顔を見て私は今はっきりと彼が私のために動いてくれてるんだと分かった。
私達を先導してくれた軍人によって会議室のような場所に通された私達はそこで司令官を待った。
5分ほど待っただろうか。ようやく、ガリポリ軍司令官ロンバルト・アヴェスターがやって来た。
「ようこそ、春日井領主。16領主自ら来て頂けるとは光栄の至りだね」
待ち合わせをして、遅刻してきたにも関わらずロンバルトはあっけらかんとして悪びれた様子も無く続けた。
「聞いたよ、ガリポリ冒険者組合での一件。黄金気を使えるみたいだね。僕もずいぶん練習したんだけどね、とうとう修得できなかったんだよ、すごいね、君は」
互いの自己紹介も終わり、食事が運ばれながらロンバルトが一方的に話を進めていく。しかし、どうも侮られている感が半端なかったのでつい、こちらも当たりが強くなる。
「おや、春日井領主はずいぶん機嫌が悪いようだね。軍の食事というのは技巧をこらした料理ではないからね。味と栄養価、満足度を第一に考えているから君の好みには合わなかったかもね」
料理のせいではない、お前の態度に腹が立っているのだ。私もいい加減、我慢の限界が来て一言言ってやろうと思った。しかし、私が文句を言おうとした、ちょうどその瞬間、狙ったようなタイミングでロンバルトが発言を重ねてきた。
「ふむ、書類の上では君は確かに16領主だけど、本当の領主足る人物かどうかは君の今後の働きで見極めさせてもらうよ」
「ロンバルト! 16領主に対して失礼だぞ」
ネブラスカが凄まじい剣幕でロンバルトに噛み付く。
「そうは言うけどね、ネブラスカ。君も彼女が16領主に足るとは認めていないだろう?」
ネブラスカはそこには抗弁せず、沈黙を持って応えた。
「僕はガリポリ全軍を預かる身だ。王国第3位の兵力だよ。それほどの規模の兵力を預かっている身としてはぽっと出の新米領主に全幅の信頼を置くのは不可能というものだよ。もちろん黄金気を使えるから腕っぷしの強さは認めるけどね」
そう言うとロンバルトは席を立ち、私とネブラスカを見てこう言い捨て去っていった。
「正直、君が会談をセッティングしなければ会おうとも思わなかったよ。そして、会ってみて予想通り幻滅したよ。完全な時間の無駄だった」
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