第17話 殺人中毒者がPKする訳
「あなたさ、人生をやりなおしたいんじゃないの?」
私がそういうと彼の顔はみるみる曇っていく。
「あなたのプレイスタイルを調べたんだけどストーカー行為や荒しなんかは全くやってない。プレイヤーキルも初心者相手にはやってないし、同じ相手を理由なく何度もPKしたりはしていない。殺した相手から金品を取ったりはしてるけどそれはメインの目的ではない」
清水谷君は私の持論を黙って聞いている。そしてその顔はますます曇っていく。
「ならばどうしてか? 答えは楽しいからでしょ。NPC相手より生の人間を相手するほうが途方もなく愉快なんでしょ。これが将棋や囲碁なんかだとプロになって真人間の道を歩けるのにどうしてかセカンドワールドオンラインでその才能を開花させたから始末が悪いのよね~殺人中毒者なんてありがた迷惑な二つ名もらって、なまじゲームがリアルすぎるから本人もそうなんだと思い込んでそんな風にプレイしてるけど、あんたの本質は単なるゲーム馬鹿よ!」
「そうだよ! 気持ちいいからだよ! このゲーム最大の醍醐味だからだよ。思わずゲームの中ってことを忘れてしまうぐらいの存在感、そんな中で自分の存在と相手の存在の全てをかけて戦いあう恍惚感、どんな不真面目なプレイヤーでも殺しあう時、とんでも無く真剣になる、この感覚こそがリアルなんだよ! オレはその感覚を全てのプレイヤーと分かち合いたいから、全ての人間に共有してほしいからPKをやってんだよ。だからオレの最終目的は全プレイヤーの抹殺だよ、どいつもこいつもまるで死んだ魚のような目をしてさ、せっかくのゲームなのに楽しんでないのさ。きっと現実世界でも楽しんでないであいつら、けどさオレがPKしかけると生き生きしてくんのさ。あいつら、死にたくない、ゲームーオーバーになりたくない、モンスターに殺されるのはいい、けど、生のプレイヤーに殺されるのは嫌だってとんでもない手を使って逆襲してきたり、全く予想外の手段を使って逃げてくる。そんな時のあいつらの目、輝いてるぜ! ドキドキしてるぜ! 生きてるってオーラだしまくってるぜ、死んだ魚の目から生きた人間の目になる、その瞬間がたまらないんだよ」
「そうして、現実の自分と非現実の中の自分がうまく統合できずあまりにも大きく分裂しすぎて生きるのが苦しくなったんでしょう。それで高校入学のタイミングで一回リセットして新しいアバターを作って人生やり直そうとしてたんじゃないの。今、私を問答無用で殺さなかったり、人狩の荒野で助けてくれたのはリアルの方の祥君なんでしょう」
読んで頂きありがとうございました。明日も12時すぎに投稿したいと思っています。