第166話 黄金気を修得した新米領主の私はネブラスカ一等執政官から仕事をもらい出かける
「そっか…とりあえず、大きな問題がないのはありがたいね」
なにか大きな問題があればそれを解決してネブラスカとの親密度を上げようと思ったがそう上手くはいかないか。
こうなったら正直に聞いてみよう。
「ところで、ネブラスカ一等執政官、私にも何か仕事をくれないかな。まだ、着任したばかりで実際、何をしたらいいか分からないんだ」
「仕事、仕事ですか…」
目を閉じ右手を額に当ててなにやら考えている。
一応、形式的には自分より上の立場の人間だからあまり妙な仕事は依頼できないのだろう。
「そうですね、それではガリポリ領冒険者組合本部に行って折衝を行なってもらえないでしょうか。昨日、ご説明したようにモンスターの討伐は原則、冒険者組合の冒険者が対応しております。しかし、今年はモンスターの出現数が多く冒険者組合に支払う報酬も多いです。即ち我がガリポリ領の予算の消費ペースが非常に早いのです。このままでは他の分野に影響が及ぶ可能性も出てきます。なんとか討伐に関する単価を下げるように交渉してきてもらえないでしょうか」
考えた末に出した結論が値下げ交渉か…
すごいものを依頼してきたな。
これは恨みを買いまくる類の仕事じゃないか。
中学の時、新しい部活の立ち上げのために各部の予算を削るという交渉に参加したことがあるがあれは大変だった。
それは当然だ。誰だって使う予算を減らされればいい気持ちにはならないだろう。
しかも今回はそれの大人版か…
「詳細はアクィナスに伝えてあります。よろしくお願いします」
私が黙っているのを肯定と捉えたのかネブラスカは頭を下げて仕事依頼を完了した。
しかし、アクィナスに詳細が伝わっているということは元々、この仕事はアクィナスに振るつもりだったのか。
アクィナスは私の部下なんだが。
まあ、今はネブラスカのご機嫌取りが大事だ。
三重野先輩が提案してきた人事案はできれば採用したくない。
しかし、現況ではネブラスカがいなければこのガリポリ領は経営できない。
ならば、ネブラスカと徐々に親密度を上げていき、最終的に私がネブラスカを使いこなす。
それが今の私が選択した消極的答えだ。
◇◆◇
「なかなか、しんどい仕事ですね」
ガリポリ領主館を出るとすぐアクィナスが私に話しかけてきた。
「まあ、地位があがればしんどい仕事は増えていくよ。左団扇の顎で仕事を振る責任者なんて物語の中だけだからね。実際の人間はしんどい仕事を依頼すれば嫌な顔をするし、断れば役立たずのレッテルが貼り付けられる。私はいろんな段階をすっ飛ばしていきなり領主になったからね、これも勉強だと思えば耐えられるよ」
「もともと概況をネブラスカさんから聞いたときは私が交渉に行くものだとばかり思っていましたよ」
「たぶん、そうだったんだろうね。けど、私が仕事が仕事をくれってお願いしたからこうなったんだね。まあ、冒険者組合は重要施設だから一度、挨拶に行っておきたかったし予算を喰いまくっているから値下げ交渉をしろっていうのは非常によく分かる話だよ。交渉に失敗したら他の分野の予算を削るか税率を上げるかの2択しか残されてないからね。できればしょっぱなから税率を上げるなんて無能な真似は避けたいからがんばるよ」
私がそうやってアクィナスとイヴァン2人を元気づけるとようやく2人とも気合が入ったようだ。
「それで私にもこの国の冒険者組合の概況を教えてくれるかな」
「そうですね。それにはまず冒険者組合の成り立ちから説明しなければなりません。この世界にはどういう訳かモンスターが出現します。彼らは子を為すのか、無から生じるのかその生態系はいまだ解明されていませんが人類に仇為す存在です。有史以来、人とモンスターの戦いはずっと続いていましたが次第に人類は農耕を学習し、分業が進んでいくとモンスターを討伐する専門の職種が生まれました。それが冒険者です。今でこそ、冒険者は未開の土地を切り開き新たな大地を求める者として冒険の名を帯びていますが昔はただのモンスターの討伐専門職でした。おそらく未開の大地に立ち入り未知のモンスターを討伐する過程で冒険そのものが楽しくなり自らを冒険者と定義したのが広まったのでしょう。まあ、そのような名前の定義は置いておき、分業の果てにモンスター狩りの専門職が生まれるのは歴史の必然でした。そうして専門職が生まれたならそれをサポートするために互助会が生まれるのも道理です。これが現代の冒険者組合の雛形です。冒険者組合は冒険者の互助会からスタートして生まれました。しかし、さらに時が流れ人間が国という組織を作ってからはモンスターを討伐する人間の姿も変わってきました。国には軍隊というものが常設され、その力を持って組織を統治したのです。当然、国の中に出現するモンスターの討伐も軍隊が担当しました。こうして、討伐者が冒険者から軍隊へと変わってゆき、冒険者の数が減り、冒険者組合も風前の灯となった頃、また環境の変化が現れました。国という組織が人類全体に広く普及し、どういう訳か国同士が互いに争うようになったのです。その争いの道具が軍隊でした。そして、ここで問題が発生しました。軍隊は他国との戦闘の道具という機能とモンスターの討伐という機能、二つの機能が求められたのです。これではいくら軍隊があっても足りません。こうして、沈みかけていた冒険者と冒険者組合が再び息を吹き返してきました。そういう背景があって現在、国が冒険者組合に報酬を出しモンスターを間引く、冒険者が対応できないものは軍隊が対応するという住み分けが取られたのです」
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