第162話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ領の領主館でネブラスカ一等執政官から叱責を受ける
「30点ですね」
突然、ネブラスカが謎の採点をしてきた。30点!?
100点満点の30点ということか!?
一連の新型モンスターの対応についての採点だろうか。
「えっ、何?」
随分、不躾な応対だ。
しかし、突っ込むわけにはいかない。
ネブラスカは止めろと諫言してきていた。
そして、制止をふりきって行動すれば辞職も辞さないと最初に言ってきているのだ。
これほど有能な人間を辞めさせてたまるものか。
ここからの対応次第でガリポリの運命は決まる。
「いえ、こちらの話です」
私が突っ込まないと向こうも引いてくれた。
しかし、30点か。ひどい減点だな。
「あなたには3つの間違えがある。現地に行かれたなら分かっておられると思いますが新型モンスターは現在、森の中から出てきません。万が一でてきても周囲に探知魔法が使えるスタッフを配置してあります。だからこそ、軍の派遣か報奨金のつり上げで迷ったのです。あなたが拙速に事を運ぶ必要は無かった。第2に冒険者組合に行って知り合いと連絡を取ってダメだった場合、軍の派遣か、報奨金のつりあげの第2プランに戻ればば良かったではないですか。なぜ、第2プランを捨てて自分で倒すという第3プランを取ったのですか。そして、第3にあなたの命はこのダーダネルス・ガリポリ領の中で一番大切なのです。我が国は愚鈍な民主主義など導入していない。国王と選任された領主の命は凡百の命に勝る。どうして自らの命をドブに捨てるようなマネをするのですか」
先程までの穏やかな態度とはうって変わって怒りに満ちた声で叱責された。
そして、怒りの矛先は私だけではなく別の人間にも向けられた。
「イヴァン・カロリング。貴様も同罪だ。命をかけて阻止しろと言ったはずだ。止めることができなければ、どうして私に報告しない」
「待って、イヴァンに命令の撤回を指示したのは私だよ。責任は私にあるわ」
「いえ、あくまでも責任はイヴァンにあります。春日井領主がイヴァンに命令をされたのなら、私に報告する義務が生じます。イヴァンは最低でも私に春日井領主から相反する命令がでました。ネブラスカ様の命令を撤回してもよろしいですか? と報告と許可を求めなければならなかった。そこで、初めてイヴァンの責任は消失するのです。その報告を受けて私が命令を撤回するか、領主に再考を促すか、彼はその結果に責任を負わない。それを自己判断で春日井領主の命令を受け入れ、私の命令を無視しガリポリ領主を危険に陥れた罪は重い」
「それでも、結果として最高の形で新型モンスターを討伐できたんだから問題ないじゃない」
「結果としてね。ですが領主という仕事は結果に至る道筋を重視するのです。その背に何千何万という人間の行く末がかかっているのです。始まる前も終わった後もです。領主はギャンブラーであっても博打をうってはならない。いちかばちかの勝負に挑んではダメなのです」
「…」
私には何の反論もできなかった。ネブラスカが言っていることは全て正しい。
「とはいえ、全ては終わったことですね。今さら、何を言っても遅い。拙速に事を運びすぎましたが結果として新型モンスターは倒され、結果として人的損失はゼロでした。政治というのは結果が全てですからね。検討会はこのぐらいにしておきましょうか」
そう言うとネブラスカはまるで興味の無くなったおもちゃを見るような目で私を見た。
「春日井領主も新型モンスター討伐でお疲れでしょう。今日はお帰りになって疲れを取られてはどうですか? イヴァン・カロリングの責任も問わないことにしましょう。元々、命令系統が違いますから私から彼に罰を与えても彼には従う義務はない」
ネブラスカは淡々と事を進めていく。
「お引取りを、領主様」
そう、指示を出すネブラスカに逆らえる者など誰もおらず私達3人はネブラスカの執務室を後にした。
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今日は台風ですね。関西は16時からJRがメインの電車を全部止めるそうです。凄いですね。皆様お気をつけてお過ごし下さい。