第160話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ領ダンヒチの森で新型モンスター討伐クエストを完了する
「人間の冒険者も何人もこいつに狩られんですけど」
RDHがあまりに淡々と言うものだから私も抗弁してみた。
「こいつの生息圏内はこのダンヒチの森の奥だぞ。人里に出ることはない。それをわざわざ森の奥にまで入り、殺されたのだ。靴履きムカデより冒険者が弱かったのだ。これも弱肉強食の自然の摂理だ。弱肉強食の摂理という言葉は自分が喰う立場の人間だと思って使うと手痛いしっぺ返しをくらうぞ。自分とていつ喰われる立場になるのか分からないのだ。コインの裏表と同じようにフィフティーフィフティーだと自覚しておけ。そうでなければ春日井もあの墓の下の冒険者と同じ運命を辿ることになるぞ」
私が抗弁するとありがたい忠告が返ってきた。
やはり、神というだけあって人間だけの味方ではないのか。
RDHと私達では価値観が違うようだ。
金目当てで危険な仕事を引き受け、まんまと殺られてしまった。
事実にすればそれだけのことだが私は彼らを笑わない。
彼らも生きるために仕事でやってきたのだから。
「まあ、妹弟子への説教はこれぐらいにして靴履きムカデを埋葬してやるか。どうせ、放っておいても消失するが墓ぐらい作ってやろう」
そう私に告げるとRDHはどこからかスコップを取り出し穴掘りを始めた。
その気になれば一撃で地面に穴を空けることなど造作もないだろうにわざわざスコップでだ。
これも死者を悼むという行為の一環なのだろうか。
なんとなく、私達も手持ち無沙汰になりRDHを手伝った。
もっとも、イヴァンとアクィナスは神に対しての敬意からだろうが。
私が【白澄】で再度、毒素を完全に除去し死者を穢れを取るとアクィナスとイヴァンはタオルで靴履きムカデの血汚れを取り除き死体をキレイにする。
そうして、RDHは穴を掘り終え、私達は靴履きムカデを埋葬した。
最後にRDHは自らの靴を脱ぎ靴履きムカデの墓に捧げる。
「私がここに来た理由はコイツの最後を看取ってやるためだったのだ。色々助かったよ。春日井」
靴履きムカデの墓を前にRDHは私に感謝の言葉を送ってきた。
「手塩にかけて育てた存在じゃないの? 私を恨んでないの」
「手塩にかけたわけではないな。手間と時間はかけたが。たぶん、実験の末、数多の命を犠牲にしたのにまがいものしか作れず、私にも感傷があったのだな。だから、この森に返した。そして、その命が途絶えたのを知覚するとふらりとここにやってきていた。春日井がここにいなければ、墓など作っていなかっただろうしな」
RDHは自分の心情を口にしてくれた。私は先程のような抗弁は入れず黙って聞いていた。
「先程は生息圏がこのダンヒチの森の奥だけだと言ったが正確には森の手前の方まできていた。だとすれば、こいつもいずれこの森を出て人里に出るだろう。そうなってくると遅いか早いかの違いでいずれ人間に討伐されていた。我々に取っても人間を襲う存在というのは好ましくない。だったらやはり、ここで春日井達が倒してくれたことには感謝せねばな」
「春日井はもとより、イヴァン・カロリング、アクィナス・ユトレヒト。君達には後日、なにか褒美を用意しよう。待っていてくれ」
そう言うとRDHは私達の元から去っていった。
こうしてガリポリ領ダンヒチの森の新型モンスター討伐クエストは終了した。
◇◆◇
「さて、どうしようか。私とアクィナスはこのまま、ダーダネルスに行こうか? イヴァン君はネブラスカさんに報告かな」
「待って下さい、真澄様。私、独りでネブラスカ様に報告など絶対に不可能です。すぐに自白させられますよ。それに私はあなた方付きの護衛です。あなた方とは常に行動を共にしたいですよ」
う~む、確かにその通りだ。
私が決断して靴を履くムカデの討伐を開始したのにイヴァンに全責任を負わせるのは筋違いか。
元々、イヴァンにはネブラスカから私がダンヒチの森に来るような状況になれば命をかけてでも止めろと命令されていたのだ。
それを私のワガママで同行させたのだ。イヴァンが責任を負う状況になれば私が彼の盾とならなければ卑怯か。
仕方が無い。今日もダーダネルス行きは諦めよう。ムカデ退治の次はネブラスカとの舌戦か。
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