第158話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ領ダンヒチの森で新型モンスターを倒す
「怖ろしい威力ですね。体内の毒素が完全に除去され、元々持っていた後遺症まで治りました。それだけでなく、この周辺に散布された毒素も消え冒険者達の死骸から出る穢れまで祓われました。まるで聖域にいるようです。春日井領主の【状態異状回復】には清めの効果もあるようですね。ここまで行くと浄化能力と言ってもいい。これが【黄金気】を使う冒険者の実力か…」
そう呟くとイヴァンは何事も無かったかのように立ち上がり、巨大ムカデと私の間に入った。
よかった成功のようだ。顔色は戦闘開始前の状態に戻り、気力も万全のようだ。【黒気】、【青気】、【剣気】がはちきれんばかりに満ちている。
「アクィナスにも【黄金気】を教える約束をされたそうですね。もしよろしければ、私にも黄金気の修得方法を教えてくれませんか? 真澄様」
始めて彼が私のことを名前で呼んでくれた。
ようやく私のことを認めてくれたのか。
そうなると私にも悪戯心が芽生えてくる。ならば私も無料で教えるわけにはいかない。
「いいよ。但し、私にも【剣気】の使い方を教えてね」
「その前に【白気】の基本的な運用ですね。【黄金気】が使えて回復の【白気】が使えないなどと我流に過ぎます。集気法や自己回復の白気、白気の部分運用等は使えるのですか?」
「いや、たぶん使えない…それも教えて」
一瞬にして攻守が逆転してしまった。
やっぱりイヴァンはひどいやつだ。
私がそんなことを思い彼をじっと見つめていると彼は照れて顔を逸らした。
「しかし何をするにもまずはこの靴を履く巨大ムカデの討伐ですね。さっさと倒し、せめて今日はダーダネルスを一目拝みましょうか」
私達が改めて巨大ムカデを見ると苦しみもがいてなぜか靴を脱いでいた。
どうも私の解毒浄化の白気【白澄】が攻撃判定されたようだ。
そこそこ距離が離れていたのに巨大ムカデの体内の毒素も解毒浄化してまったようだ。
空間浄化だったので同じ空間にいた巨大ムカデもダメージを喰らったということだろうか。
まあ、毒使いと毒消しという相性の問題で効果のある場面は限られてくるだろうが…
「こうなってしまうとただのデカイだけのムカデですね。私達の敵でもない」
そう言うとイヴァンはなんの感慨もなく、先程、自分が作った傷の反対側から剣を入れわずか一刀の元に切り捨てた。
◇◆◇
「結局、こいつ何だったんだろうね?」
冒険者達の埋葬を終え、簡易な墓を作って後、私達は再度靴を履くムカデの生態を調査していた。
と言っても観察だけだが。
第1階層のモンスターなんかは倒すとすぐ光になって消えてしまったがソードパープルヒュドラやこの靴を履くムカデはまだ消えてなかった。
モンスターランクでもあって下位は消えてしまうが上位のモンスターやクエストの対象になっているモンスターはなかなか消えないのだろうか。
そういえば、以前、渚が素材を剥ぐ時間がどうたらとかカード化がどうたらとか言っていたな。
「私はモンスターの生態に全然詳しくないんだけど、モンスターが人間の衣類や靴を剥ぎ取ったりすることはよくあることなの?」
私のふとした疑問にアクィナスが丁寧に答えてくれる。
「一部の高位のオークやゴブリンなら死んだ人間の武器や防具を奪って装備している姿は確認されています。なぜか冠をかぶった無性に強いゴブリンキングなどの存在も確認されています。しかし、昆虫や甲殻類由来のモンスターが人間の武器、防具を装備する、まして戦闘に役に立たない靴を履くモンスターというのは初めて見ました。人間と違って彼らに靴など意味がないはず、まったくもって不可解です」
「なんか、人間の言葉っぽいものも喋っていたしね」
「もしかして、進化の途中に現れた突然変異だったんでしょうか。このまま放置していれば靴を履くムカデのモンスター軍団ができたり、この巨大ムカデのペット化でもできたんでしょうか」
「いや、それは不可能だ。これはモンスターに知性を持たせるための実験の成れの果てだ。すまなかったな春日井」
どこかで聞いたことのある深くくぐもった声で私達にそう言ってきた人間が現れた。
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