第１５４話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ領で部下を脅してみる
「ちょっと待って下さい、春日井領主。冒険者組合で異界人冒険者がクエストを受けれるように手配されるのではないのですか」
イヴァンが慌てたように言った。
「う～ん、実はこの階層まで自力で来れる異界人冒険者ってレアなんだ。私が知ってるだけでも黒佐賀師匠を含めて３人しか知らないよ」
もちろん、祥君、渚、黒佐賀師匠の３人だ。
三重野先輩は来ることはできるが周りのモンスターとの戦力差がありすぎて独力で来たとはいいがたい。
まあ、独力でという点では私もだが…
「でしたら先程お２人で話をしていらっしゃった軍の派遣や討伐報酬の値上げで対応されては！」
流石はイヴァンだ。
しっかり、私達の会話を聞いていたようだ。２階からどうやって聞いていたのだろう。
ひょっとしてアクィナスも聞いていたのだろうか。彼女は青い顔をして話かけてこないが。
「軍の派遣では遅いので却下。討伐報酬の値上げも値上げしたところで実力のある冒険者が集まるとは限らない。私とイヴァン君が行くのが一番安く早くて手っ取り早い」
「そっ、それは」
私が言い切ってしまうとイヴァンは言葉を無くしたようだった。
彼の中でもどの方法がベターなのかは答えが出ているのだろう。
「しかし、ネブラスカ一等執政官から厳命されています。絶対にダンチヒの森へ行かせるな。行こうとすれば命に変えて止めろと」
イヴァンは、もはや私を論破する術を失ったのだろう。
とうとう切り札を出してきた。
しかし、その切り札は既に晒されているのだ。
ならば対抗策を練るのは容易い。
「厳命したのもこの方法が一番だと自覚と予感があったからじゃないかな。けど、彼の立場ではその策は決して取れない。だから私が自分でリスクを取る。なにか問題が？」
「しかし、それでは私の立場が！」
とうとう折れたなイヴァン。
最後の最後に反論にもならない反論を口にしてきた。私はまるで哀れな物乞いを見るような顔をして言ってやった。
「君の立場とこのまま放置して死傷者が出る可能性を考慮すれば私はいつでも死人が出ない選択肢を選ぶけど」
「…」
当然、この発言に反論できる軍人はいないだろう。
イヴァンはプルプル震えながら屈辱に耐えているようだった。流石にいじめすぎたかな、フォローしておくか。
「まあ、相反する命令を同時に受けたイヴァン君には同情するよ。けれど、私の命令の方が優先順位は高い。ネブラスカさんに何か言われても領主命令でしたからと応えればいいだけじゃない」
彼の責任を半減するような言葉を囁くと幾分、彼の表情は和らいだ。単純な子だ。
「まあ、君とネブラスカさんの関係は破綻してしまうかもだけどね」
なんだが簡単に表情がクルクル変わるのを見ているのは面白い。また、落としてみるとイヴァンは落胆した表情を浮かべた。
「ならばせめて、アクィナス副領主にはここに残ってもらうようにされては」
ちょっと意外だ。イヴァンがアクィナスの心配をするとは。
まだ、知り合って一日ぐらいなはずなのに。
まあ、彼も自分が護衛していた文官が流れ弾で死んでは目覚めは悪いか。
正直、この提案は受けたいところだか残念ながらこれも却下だ。
「う～ん、実はそれが１番心苦しい。けど、内大臣の忠告にもあったとおりガリポリ領は安定していると太鼓判がつかれたわけではない。だったらここに残しておくのは危険すぎる。悪いけど一緒に行動してもらおうかな。なんならイヴァン君が護衛について私が１人で戦うけど」
自分でも暴君の自覚はあるがアクィナスの安全には変えられない。
暴君ついでにあのこともイヴァンに言っておくか。
「あっ、あとこのことネブラスカさんにばらしたら君はクビだからね、イヴァン君」
私が笑顔で告げるとイヴァンも青い顔で固まった。
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