第150話 黄金気を修得した新米領主の私はこうしてガリポリ領を後にした
「こちらの方こそ申し訳ありません。今日、首都ブーランジュに行って正式な任官を受けたのですが時間が余ってしまって。それで時間があるなら現地入りしたいと私がワガママを言ってこんな時間に押しかけたのです」
私が適当な理由をでっち上げ、ネブラスカに謝罪する。
本当はイヴァンと戦闘していたから遅くなった。領主館を訪問するつもりなどなかったが予定が一杯なので今、来ておかないと次にいつ来れるかも分からないからやってきたなど正直に言っても誰も得をしない。
真実は誰も幸せにしないのだ。その証拠に誰も本当のことを言うものはいなかった。
「そうでしたか。さすがは黒佐賀王が推挙された人物。歳若いのに噂に違わぬ御仁、直言直行のいい見本ですな」
ネブラスカは関心したように持ち上げてきた。
直言直行という言い回しを使ったのはやはり不快感を感じているという遠回しの表現なのだろうか。
まあ、私の謝罪を受け入れ追及はしてこなかった。
私の嘘を信じてくれたか、私の不作法を責めても意味はないと判断したのかどちらかだろう。
終わったことをネチネチと責められるよりかはましか。
その後、ネブラスカと少しの時間だが会談を持った。流石はガリポリ領の主、話上手なだけでなく、こちらが聞きたいことや知らない情報などをバンバン出してくる。
そして、思った以上に領主の裁量権は大きいということも分かった。
本当はもっと話を聞きたいがいかんせん、時間がない。三重野先輩もソワソワしている。悔しいがこれ以上ログインしていると現実生活に支障が出る。私は心苦しいが別れを切り出した。
「どうやら、お帰りのところを引き止めてしまったようですね。これは申し訳ありませんでした。どうも歳を取ると話が長くなっていけません」
ネブラスカはおどけたような口調でそう言ってくる。
初対面はいいものにならなかったが最終的にはなんとか持ち直せたと思う。
まだ、関係は始まったばかりなのだ。後であの時は最悪でしたよと笑いあえるような関係にしなければ! 私はそんなことを思いながら別れの挨拶をする。
「いえ、一目ネブラスカ一等執政官の顔を見れただけでも今日、ここに来た甲斐はありました。今後とももよろしくお願いします」
私がそう挨拶するとネブラスカは私達が部屋を出るまで立って見送ってくれた。
領主館から出ると辺りは真っ暗になっており、空には星が瞬いていた。
う~む、疲れた。私は思い切り背筋を伸ばし軽く身体をほぐす。
そんな私を見て皆それぞれの反応を返してくる。エミリーは微笑み、三重野先輩は無関心、アクィナスは黄金気を修得した異界人でもそんな動作をするのだと関心した風だし、イヴァンはさっぱり読めない。
「じゃあ、私達は第1階層に帰るよ」
私がそう告げるとアクィナスとイヴァンは困惑したような表情を浮かべた。
「えっと我々はどうすればよろしいでしょうか?」
アクィナスは不安そうな表情をして聞いてきた。そうか、彼らに対する指揮権は私にあるんだった。私は疲れた頭で思いついたまま指揮を出す。
「とりあえず、2人は原則ペアで動いて。アクィナスは戦闘能力皆無って聞いているからイヴァン君が常時、護衛して。明日もまた来る予定だけど、今のうちに2人には内部通信(気)を繋げておくね。寝る場所は王都ブーランジュでも、ここガリポリ領でもどちらでも。2人ともブーランジュで荷物を取ってこなきゃだからね。明日以降、私から連絡あるまで自由港行動でいいよ。休みを取ってもいいし、生活基盤を整えるでもいいし、自主的に情報収集と仕事を始めててもいい。まかせるよ」
私がそう告げるとアクィナスとイヴァンが相談を始めた。そういえば、この2人あまり喋ってなさそうだが大丈夫なのだろうか。
「エミリーはどうする? 第1階層のホテルに戻る?」
「いえ、わたくしもとりあえずアクィナス、イヴァンと行動を共にします。まだ、ガリポリ領の治安についても確認しておりませんし、2人と行動を共にしながらも独自で動いてみようと思います。何かあれば呼んでください」
「エミリーには謝礼を払ってないんだから自由に動いて。そんなに頑張らなくていいよ。ほどほどにね」
「謝礼ならエクシード城を出る際に既に頂いておりますわ。それに真澄様のために働くのがわたくしの仕事です。好きでやっているので気にしないで下さい」
エミリーが薄い胸板をポンと叩き、笑顔で応えた。
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