第149話 黄金気を修得した新米領主の私はガリポリ領主館に行ってみる
「さて、それでどうしますか? もう日も落ちてきますし、ガリポリとダーダネルスの中を軽く散策するか、あるいはこのままガリポリ領主館に行きますか? 時間的にガリポリ領主館とダーダネルス領館、両方に挨拶するのは無理かと思いますが」
アクィナスが常識的な質問をしてくる。本当は私がここに来るまでに方針を出さないといけなかったんだが。
くそう、最初からそうならないように駆け足で挑んだのに結局こうなったか。イヴァンとの戦闘、内大臣マカートニーとの会談とかで2時間ぐらいは一瞬で経過してしまった。
学校が終わるのが15時、それから帰宅時間やなんやかんやしてログインできるのが16時。正味、領主として動けるのが4時間ぐらいかな。
その上でレベル上げや学校の成績も維持しないとだし、たまにはクラスの人達と交流もしないとダメだし、アルバイトもある。時間だけが無いな~
いや、こうやって決断に時間をかけるのも無駄なのかもしれない。長考したところでいい意見など浮かんでこないのだから。
「とりあえず、ガリポリ領主館に行ってスタッフに挨拶するよ」
本当はダーダネルス・ガリポリの中がどんなものなのか歩き回りたいんだけど、領主として個人的な想いを優先してはダメだよな。時間も無いことだし、まずは職員と顔つなぎをしっかり行なって仕事を覚えないと。
私がそう方針を示すとアクィナスは先導して領主館まで案内してくれた。
領主館は小高い丘の上にありガリポリの街を見下ろすような場所に立っていた。
私達が到着した頃には残念ながら領主館にはほとんど人がいなかった。
やはり、来るのが遅すぎたのだ。
それでも何人か夜勤のスタッフが残っており彼らと話をしているとあっという間に時間が過ぎた。
次からはもっと早くにログインし彼らともっと深く話をしようと決意し、そろそろお暇しようと思った瞬間、乱雑に部屋のドアが開いた。
「ネブラスカ一等執政官!」
アクィナスの顔が太陽の光を浴びたヒマワリのように綻びる。
ドアを開いたのはいかにも老執事風然とした男で呼吸を整えながら私達の方を睨めつける。
「始めまして、春日井領主。私、当地を暫定的に預からせて頂いておりました、ネブラスカ・コミンフォルムと申します」
部屋の中の位置関係などを見て、私が領主とあたりをつけたのだろう。うっすらと汗をかきながらもネブラスカは実に優雅な礼をしてきた。
「ネブラスカさんは任官されてからずっとガリポリ一筋の超ベテランさんなんですよ。ガリポリ領のことで分からないことや困ったことがあればまず、この方に尋ねるっていうのが普通なんです。言わばガリポリ領の主ですね」
アクィナスは非常に陽気な表情で説明してくる。おぃ! 統治の上で欠かすことのできない重要人物じゃないか。最初に説明しとけよ、アクィナス!
「事前に訪問される日を知らせておいて頂ければ、深夜であろうとお待ちしておりましたものを。先程、急に来られたと連絡を受け急ぎ戻って参りました。遅くなり申し訳ありません」
そうか、たぶん仕事が終わって夕食でも取ってたんだ。
私が来たことをスタッフが告げに行ってわざわざ戻ってきてくれたんだ。なんて、いい人だ。
いや、違うか。それだけ私の職責が重いということか。
新任の領主が赴任してきた以上、一刻も早く顔を繋げ意思疎通を図る。その上で領主の方向性を察し対応する。可能な要求には応えるが不可能な要求には応じられない。その際、応じられないとしても私との距離感で一つでネブラスカさんの処遇も変わってくる。
彼も必死なのだろう。その必死の訳が本人の保身のためなのかガリポリ領のためなのか、現時点では分からないが私と良い関係を築きたいという意思はしっかりと伝わった。
気は重いがいい人材がいるということが分かって私は内心ほっとしていた。
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