第144話 黄金気を修得した新米領主の私は壊れた門の前で説教を受けています
「そもそも国民皆兵とは大雑把に言えば全ての国民が一定期間、軍事的教練を受け、有事の際は国民全員が兵士として戦うということ。一時的とはいえ全ての国民が軍籍を持っているのなら政軍分離などできようはずがありません。それを黒佐賀殿は何を思ったか自分が直接稽古をつけた直弟子は政治に関与させないという。なんと愚かな。確かにそれなら自分の息のかかった人間は外しヴァリエーションのある人材が確保でき、なあなあの関係も排除することができますが、才能をもった直弟子が路頭にあふれるではないですか。方針がぶれて不徹底なのです。そんなだから真澄様のような天才を領主として認めないという愚かな選択が生まれてくるのです」
そう、黒佐賀王国の門番に一席ぶったかと思えば今度はこっちに矢が飛んできた。
「真澄様も真澄様です。なぜ領地経営などお受けになったのですか! 真澄様が欲しかったのは資産のはず。資産が欲しいのなら商人の道を探すほうが遥かに効率的です」
「エミリーも一国の姫様なのにずいぶん酷いことをいうね」
「一国の姫だからこそ言うのです。領地経営には終わりというものがありません。疫病が流行れば私財を投じてもそれを防がねばなりません。犯罪が増えれば資産を切り崩してでも警邏隊を組織せねばなりません。景気が悪くなれば債権を売ってでも景気浮揚策を取らねばなりません。歳を取れば後継者問題が出てきます。まして、真澄様のは国境線を持っています。他国の侵略、難民の流入まで考えねばなりません。どれほど税収が多くとも右から左です。とても蓄財などできません。持ち出しばかりが大くて残るのは損失ばかりです」
損失だけとか言い切ったし!!!
しかし、姫様の発言には重みがある。おそらく父親が苦労しながら国家運営をするのを見ているはずだし、エミリー自体も姫として勤務した実績があるからな。
「エクシードの民は愛おしいですがここはエクシード王国ではありません。わたくしには彼らを守護する責任がないのです。既に寝食を共にしたので情もありますが真澄様の幸福の方が優先します。守るべき民から剣を向けられてまで、なぜ火中の栗を取りに行くような真似をなさるのですか」
エミリーの眼差しは冷たく黒佐賀王国の兵士に向けられていた。
そこまでキツイのか。以前から漠然と興味を持っており祥君がお膳立てしてくれて、失敗してもいい経験になると思い引き受けた領地経営だがここまで脅されると決心がぐらついてくる。
私がエミリーに説得され不安げな顔をしたのを訝しんだのだろうか、いつの間にか三重野先輩が隣に立って仲裁に入ってくれた。
どうやらエミリーに一喝されて門番達は戦意喪失したようだ。彼らとドンパチすることはもうないだろう。
「まあまあ、まずは現地に行って実情を把握してから去就を判断したらいいよ。既に前領主は更迭され、新しい副官も派遣されてるんだ。今さら現地入りもせずにやめてしまったら2度とこの国の土は踏めなくなるよ」
「あなたは?」
「私は三重野飛鳥。さっき、春日井が言ってた友達ってやつ。一応、この春日井、天都笠、清水谷の先輩にあたる。よろしく!」
「三重野様、話は聞いていたでしょう。今、辞めることが最も傷の少ない方法だと私は考えます」
「それは違うし、その言い方は卑怯だよ、エミリー姫。最も傷が少なかったのは黒佐賀王が領地の経営をショウ君に約束したときだよ。あなたはそこに同席していたはずだけど」
「なぜ、それを!?」
「なぜ、それを!? ではなくて、なぜ、あの時行動しなかったの? でしょう。逃げるのは卑怯だよお姫様。あなたがあの時、今の言葉を吐いていれば、また、違った展開になっていたと思うよ」
そう指摘されるとエミリーは押し黙り、しばし、考え込んだ。三重野先輩め、ちゃっかり霊体を私達の誰かにセットしていたのか。
「あの時は、ショウ様の華麗な交渉術に魅せられたのと真澄様が期待に満ちたうきうきした目をなさっていたので何も言い出せんでした…あなたの言うとおりですね。三重野様。事が成ってから反意を促すのは確かに卑怯です。申し訳ありません」
「そうそう。それにさっきから負の側面ばかり強調してるけど、自分の決断で領民から感謝してもらえたり、領民が笑顔ですごしているのを見ると自分も幸せになるよ。苦労はするけどお金以上のものも見つかるかもしれないよ。人生、山有り、谷有りだからね。ずっと谷ばかりが続く訳でもないよ」
「うっふっふっふっふっ、まるで誰かさんみたいなことを言うんですね、三重野様は」
エミリーは口元を手で押さえコロコロと笑いながらそう言った。
「えっ!? 今のどこが可笑しかったの?」
さすがに三重野先輩の情報網と言っても個人の発言を全て記録しているわけでもないのだろう。
情報屋の先輩が情報不足で手玉に取られている姿は私が見えても面白かった。
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