第135話 黄金気を修得した新米領主の私は今日も元気に現実世界でアルバイトをしています
一体何を間違えたのだろうか!? 答えを言うことなく三重野先輩は自分の教室に戻っていった。
領地経営に関する情報も集めておかなくてはな。私は心のタスクリストの中にまた1個ファイルができたのを感じた。
こんな状態では領地から私のポケットに資金を回すのは不可能だろう。当面の問題はやはり当座のお金だ。ますます時間が削られてしまった。もはや1分1秒が惜しい。私が目を皿にしてフリーペーパーを眺めているとまた私に声がかかってきた。誰だ! 忙しいんですけど!!
「あれっ、春日井バイト探してんの?」
水無瀬さんだった。珍しい。
「ふむ、春日井か…ありかも知れないな…」
なにやら考え込むような仕草をしてこちらを見ている。
「春日井。私がバイトを紹介しようか? 実は私のバイト先に欠員が出て困ってたんだ。助っ人的なものだからあまり長期は働けないけど」
願ってもいない話に私は内容も確認せずOKしてしまった。
◇◆◇
「普通さ、こういう展開で華の女子高生がバイトするとしたらメイド喫茶とかじゃないの!」
私は隣で書類を作ってる水無瀬さんに突っ込んだ。
放課後、水無瀬さんに案内されて私がやるバイトは家電量販店での太陽光パネルのチラシ配りだった。
「うん!? 私がこういうバイトしてるって知ってビックリした!? 姉が働いてたからその関係でね」
水無瀬さんが私の突っ込みに振り向きもせず、私の採用書類を作っていく。なんでも当日採用はさすがに具合が悪いので数日前に採用し、提出モレを起こしていたという体裁を取るそうだ。先程から私は何枚もの電子書類にサインをしていっている。
「手入力はめんどいでしょう。インフィニットステーションで同期を取るよ。アドレス教えて」
私は何枚か書類にサインしたところで水瀬瀬さんに提案した。何枚もの採用書類に全く同じ住所や氏名、年齢、口座番号などの個人情報等を記入するのは手間だと考えたのだ。
「そんなことしたら履歴が残って日付を偽造してるのがばれるでしょう。それにこんな太陽光パネル販売の下請け会社にインフィニットステーションと同期ができるPCなんてないよ」
私は驚いた。今時、公立学校でもインフィニットステーションとの完全な相互リンクが確立されているというのに。大丈夫なのか?この会社。
「不思議そうだね、春日井? 中小零細だとこんなもんだよ。大規模なシステムを新築するよりかは現行のシステムに従業員を合わせる方が目先のコストはかからないでしょう。まあ、インフィニットステーションとの同期も取れないのは遅れすぎるてると思うけど。普通の企業でもインフィニットステーションみたいに誰でも分かる親切な設計にはなってないもんだよ。私達はもうお客様ではなく社員なんだからね。今ある機械やシステムに従業員を適応させる。よくあることだよ。生産性が落ちるけどそれは上が考えることだからね」
私が各種採用書類に住所や名前を記入している間にも水瀬瀬さんは時間を無駄にしないように仕事の説明をしてくれる。全く無駄のない仕事ぶりだ。確かにここまで無駄なく社員を動かせるのなら社員を機械やシステムに適合させるほうが得か。そうやって人件費というコストが膨大に伸びないように管理していけばシステムを新築するコストも省け利益を損なうことがなくなるのか。
「ほらサボってないで仕事、仕事! この場所を借りるのも結構、費用がかかってるんだよ」
私の他にもこうやってチラシ配りをしているアルバイトの人間が2人いてどうやら水無瀬さんは私達3人を統括するリーダーのようだった。
書類を作成しながらも引継ぎを受けスタッフに指示を出し時折、お客さんに商品の説明をしている。
学校で見る気怠げな美人では無く八面六臂の活躍をする頼れる美人さんに変わっている。我が領地に欲しい人材だ。とまだ、現地入りもしていないのに領主面している私であった。
そんな観察と経営方法について考えている、一方、私は内心、22世紀にもなって現実世界でチラシ配りかよと毒気つきながらもチラシを配っていた。
2084年現在、実店舗での商品の販売というのは激減した。理由はもちろんインフィニットステーションとセカンドワールドオンラインの普及のせいだ。
ログイン状態で全く同じ商品を触ったり、体験し、購入することができるのだ。わざわざ実店舗に来店し物理的制限のある商品棚の中から選ぶ意味は無い。
持って帰るにしても荷物になるだけだ。宅配を使えば手ぶらで帰れるのにどうして持ち帰りなどという文化が未だに存在しているのか若い私には謎である。
そんな中で実店舗でチラシ配りをするというのもさらに謎だ。仮想現実上で配った方がまだ、成果があるような気がするがこれも素人判断なのだろうか。
私がそんな感想を持ちながらもお金の支払われる仕事なのだ。個人の想いなど無視して一枚でも多く配ってやるぜとまた一枚チラシを進める。
「どうぞ~」
うわ、目も合わせてもらえなかった…
読んで頂きありがとうございました。少し早いですが投稿しました。明日の投稿時間は未定です。午前中か間に合えば深夜投稿に挑戦したいです。
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