第134話 新米領主の領地経営についての仮想演習
「領地経営で一番大切なのはそこだと思うよ。その初心を忘れないでね。普通の人間は大抵、忘れて迷走するんだけど。現地調達ってのは文字通り、現地で自分の報酬を自分で確保することだよ。現地調達権を悪い風に使えば領主の目に見えないところで好き放題できる。悪い商人から賄賂をもらって領主である春日井を紹介するみたいな。良い風に使えば、領地にマイナスにならない範囲で自分で自分の報酬を確保する。良い商人から賄賂をもらって領主である春日井に紹介する。といった感じで領主が作った法の中で領主の権力を笠にきて好き放題できる権利って言えばいいかな」
「それって良い商人か、悪い商人かだけの違いで結局、賄賂をもらうことになるんじゃないですか」
「おや、春日井領主はあらゆる賄賂を禁止するおつもりですか!? それはどの程度の規模で? 現金禁止? 高額の商品禁止? 挨拶程度の名産のお菓子も禁止? 近所で摘んできたお花も禁止?」
私が失望したような声で三重野先輩に声をかけると彼女はおどけたような口調でそう返してきた。
「それは…現地に行ってみて考えるよ…商売のレベルが不正なんかを助長するものだったら賄賂も禁止するだろうし、現代的なレベルなら禁止すると思う」
「いい答えだね。文明のレベルは中世だね。エクシード王国と同じ第5階層だからね。ちなみに春日井の領地であるダーダネルスとガリポリは国境線を持っているから地形学的リスクが高いとされる。しかし、文明のレベルこそ中世だけど皆、商人の魂は持っているよ。他者が進出していない地域に支店を出して独占的に稼ぎたいと思う商人もいるれば他者が進出していないからこそ新規に商売を始めたいと思うものもいる。そんな条件を頭に入れてもらった上で、さて、最初の話題に戻ろう。現代では賄賂は悪だがあっちの世界では違う。むしろ、断れば失礼になったり、どう領主と接したらいいか分からなくて困惑させてしまうこともある。例えば、賄賂禁止! しかし3000シェル程度の手土産なら受取るってすると金額の上限が決まってくるから商人の腕の見せ所みたいになる。限られた資金でどれほどのものを用意できるかって勝負になるからね。その方法を使って商人の実力を鑑定することができる。なるべくいい者を持ってくるものを優遇すればいい商売人が集まり領地の商売はもっと繁栄してくる傾向がある。それでさっきの続きだけど結局、賄賂イコール悪でないとするなら安くていいものを持ってくるのがいい商人。高くて凡庸なものしか持ってこないのが普通の商人かな。安くて悪いものを春日井に送ってさらに私にも賄賂を贈ってくるのが極悪人の商人。とはいえ、極悪人の商人の方がそっち方面の繋がりも持ってるから一概に排除するのは間違ってるだろうしね。そこらへんが領地経営の難しいところだよ」
私が知らなかった情報を先輩が早口でドンドンまくし立ててくる。まずいな予想以上に領地経営は複雑だ。領主になってお金がオートでじゃぶじゃぶ入ってくるなんて状況ではとても無さそうだ。
「まあ最終的に賄賂に関しては鑑定士を雇えばいいだけなんだけど」
「その鑑定人が信用できるかできないかはどう対応すればいいんですか?」
「おっ、それに気づくとは領主の素質を持ってるな」
「結局、先輩を信用できるか信用できないかにかかってくるわけですね」
私は深いため息をついた。
「うーん、まだ50点かな。信用できなくても方向性とルールをきちんと指示して、間違ったら怒るってことかな。たぶん、領地経営で信用できる人物を集めるってのは最終目標の一つだと思うよ。早い段階で信用できると思った人間ばかり集まってると思っていたらイエスマンばかり集まってたなんてことはよくあることらしいからね」
「『領地の不利益にならないように行動して下さい』と指示をくれればその通り行動するし。例えば、私が春日井の意思に反して独自で関税をかけたら君はそれを怒ってやめさせればいいだけだしね。まして第5階層だから私はたぶんどのNPCよりも弱いんだ。気にいらなかった解任すればいいし、それでもやめなかったらPKすればいいだけだし」
「ここまで親切に無料で情報をくれるということは先輩は参加したいんですね」
「ご明察! 高校生で領地経営ができるなんてのはレア中のレア。絶対参加するよ。高校生が上場企業を作るようなもんだよ。参加しないのは人生の損失」
「分かりました。先輩をエージェントとして雇います。報酬は現地調達で。くれぐれも我が領地の不利益にならない範囲で現地調達を行なって下さい。それと現地調達を行なう場合は逐一、私に報告を上げてください」
そう言うと先輩はニタっと笑った。うん!? また何か失敗したのだろうか。
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