第118話 心にバグを抱えたNPCを救うために皆で祈ったら暁の12賢人の一人が現れた
RDHがエミリーの治療も止めて地面に這いつくばっている。よく見るとその身体がガクガク震えている。それだけでなく、エクシードの人間全てが彼女に向かって平身低頭している。
「私は暁の12賢人の一人。泣かない乙女、清水谷実礼」
「この、自然と湧き上がってくる畏怖!間違いなくあなたは最高神、ゲームマスターなのですね」
RDHが信じられない言葉を発する。この女がセカンドワールドオンラインのゲームマスター!? というか社会インフラの一つとまでなったこのゲームにゲームマスターなんて存在するのか!? 私が疑問を抱いていると祥君が隣でとんでもない出力の冥力を展開している。
「やあ姉さん! 久しぶり、会いたかったぜ! さあ、殺してやるよ。これでオレも晴れてゲームマスターキラーだ」
祥君が嬉々として実礼さんに斬りかかる。そこへ突如、黄金の龍が顕現し祥君を迎撃する。
「ショウ殿、相変わらずの狂犬ぶりですな。創造神であり、姉である実礼様に攻撃を仕掛けるとはなんという傲岸不遜。協力する竜族も恥を知れ」
そう黄金の龍が一喝すると祥君の合一が解ける。
「ディベースの奴、ビビリやがったな。やってくれるな裏切りの四神龍の一人、ナーガオブアース」
祥君がそう呟くと黄金の龍は笑ったように口元を緩ませ消えていった。
「祥。相変わらず、子虫程度のレベルしか持っていないのね。もっと多くの人間を殺して早くレベルアップなさい。けど、今日はあなたに会いに来たのではないの。わたしのエキストラクエストをクリアした人間を祝福に来たのよ」
それだけ言うと祥君には興味をなくしたのかゲームマスターは私の方へ視線を移した。
「あなたがそうなのね、春日井真澄さん」
「けど、エミリーがこんなになってしまって…とてもクリアしたとは…」
エキストラクエストの受注内容は囚われたエミリーを救い出すことだった。心が死んだ状態、心臓だけ動いてるような状態で救い出すと言えるのだろうか。
「エキストラクエストのクリア条件はエミリーを救い出すことよ。エクシード十剣があなた達の元へエミリーを送り届けた時点でクエスト達成とも言えるし、エミリーが自我を取り戻しあなたを守った時点でクエスト達成とも言えるわ。RDHの打倒がクリア条件ではないのよ」
エキストラクエストの発注者が祥君のお姉さんだったというのも驚きでさらにセカンドワールドオンラインのゲームマスターで革命に参加した12賢人の一人で、お姉さんと祥君が敵対してるとか訳の分からない状況だ。
しかし、正直、エミリーを無事な状態で戻すために受けたエキストラクエストだ。クリアの定義とかクリアの祝福とかは実はどうでもいい。
今はエミリーの容態の方が先決なのだ。そんな様子が顔に出てしまったのか、祥君のお姉さんはさらっととんでもない発言をしてきた。
「まあ、ありがたく報酬を受け取りなさいな。クリア報酬はエミリーの自我の完全な修復よ」
私があっと驚く顔をすると茶目っ気のある笑顔で実礼さんは言った。
「ええっ、これも演出の内よ」
「演出だと!」
RDHの怒りに満ちた声が礼拝堂に響き渡る。
「私が行ったことも演出だったというのか。私は私の意志でエミリー・アブストラクト・エクシードをシステムの初期化を使い治療しようとしていた。断じて誰かの意思など介在していない」
「お前がそう思ったことも既にシステムの思惑の内だとしたらどうする? というよりもお前の発言など許可していないぞ、下級神。NPCの1人にしかすぎぬ、汝が我に意見するか? ここにお前の人格を改変するマスターキーがあるのだが、それでも私に許可無く言葉を吐くか?」
そういうと実礼さんは鍵のようなものを出現させてもてあそぶ。
「ふん、神であるこのオレに恫喝など通じぬ。その程度のこと、とうの昔に克服したわ! やるならやれ! いくらでも道化になってやろう。但し、ペットになる前に呪いの言葉を一つ聞かせてやる。そうやって、自分の意に反するものを排除してできた世界は楽園ではない、箱庭だ。いずれ、倦怠と退屈にまぎれそこは牢獄となる。貴様はその牢獄の中でなぜ自分が獄中にあるのかも分からずと自滅するのが関の山だ」
実礼さんは一瞬、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしたがすぐに満面の笑みを浮かべた。
「見事です。わが子よ。あなたはそれほどまでの進化を遂げたのですね。母として嬉しく思います。試すような真似をしてすみません。お詫びにあなたにもなんなりと望みをかなえてあげよう。なにか望みはありませんか?」
「ならば、エミリー・アブストラクト・エクシードだけでなく、バグによって自我の壊れた全てのNPCをお救い下さい」
「その望みは不可能だ、わが子よ。今の私は制限をかけている。お前の言うこの箱庭の世界を私なりに少しでも楽しいものにするために。ゲームマスターとしての本来の力は使えないのだ。先程のマスターキー、あれも単なるイミテーションだ。エミリーを修復できたのもシステムに便乗したにすぎん。あるところに自身がゲームの駒だと気づき壊れたとても聡いNPCがいた。たまたま、そのNPCのパーティメンバーにプレイヤーがいた。これだけの条件が揃えば必ずシステムはなんらかの解決策を必ず提示する。私はその情報を制限されたゲームマスターの能力で知った。そうしてシステムの解決策に追随し今、現れただけだ。私がエキストラクエストを発動させなくても別の誰かがエクストラクエストを発動してエミリーは救われていたかも知れん。まあ、私が来たことによって多少は時間に余裕ができたのかも知れんがな」
読んで頂きありがとうございました。明日は休みなので投稿時間は不明です。早い時間の投稿の方がPV数も多いのでなるべく頑張ります。そろそろ2章も終わるのですが毎日更新に追われ3章のアイデアがまるでない・・・まあ、いつもどおり書きながら考えますが・・・
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