第117話 心にバクを抱えたとあるNPCのために皆で祈ろう
私の称号に【神殺し】がついた。これで間違いなくRDHは絶命しただろう。長かった戦いもようやく終わった。結果的にエミリーは助かり、私達の目標は全て完遂した。私に至っては【神殺し】の称号までもらえた。結果よければすべて良しだ。この喜びを最初にエミリーと分かち合おうと彼女の方を見た。しかし、彼女がいない。代わりにエクシードの兵達によって作られた人垣ができている。嫌な予感がする。
「エミリー」
私は思わず叫び、小走りに駆け寄る。そんな私を見てエクシードの兵達が私に道を譲ってくれる。人垣の中でエミリーがさっきよりも青白い表情しながら地面に横たわっていた。ウェストファリアが必死に介抱している。
「真澄様、最後にお役に立ててよかった…」
彼女の言語崩壊も戻っている。なぜだ!? なぜ、今さら壊れる!?
「最後だなんてなに言ってるのよ、エミリー! まだ私達が一緒にすごして数日じゃない! 私達の冒険はこれからなんだよ!」
「いいえ、真澄様。わたくしの冒険はここまでです。あなたと過ごしたこの数日間、まるで月旅行に行ったように楽しかったです。世界の広さ、人の思考の深さ、その一端に触れました。なにもかもがすばらしかった」
「なに言ってんの! まだ数日だよ。第一階層の始まりの街しか見てないじゃん。なに悟ったようなようなこと言ってんの!」
私が抑制が効かず怒鳴ったような声を出していた。
「彼女はまもなく死ぬ。最後ぐらい穏やかに看取ってやれ」
誰だ!殺気を込めて凝視するとそこにRDHが立っていた。皆、一瞬あっけに取られたがすぐに武装し直す。
そんな私達を見てRDHは両手を挙げて戦意の無さをアピールした。
「武器を下ろせ、エクシードの兵達よ。今はこの偉大なる人物の最後の時を安らかに迎えさせてやれ」
場所が礼拝堂で神父のような落ち着いた声でRDHは私達に語りかける。これではどちらが襲撃者なのかも分からない。
「敵である私がいては目障りだろうが今は許せ。彼女の痛みと言語崩壊が少しでも癒せるように各種治療を行っているのだ。無駄な努力だがせめてその最後が穏やかになるよう対処しているのだ」
そう言うが今の今まで殺し合いをしていたのだ。そう簡単に奴の言うことなど信じられない。私達は武装を行った状態で奴との戦闘態勢を継続した。
「なぜ、治療をしているのか、なぜ生きているのか疑問に思っているものが大半のようだな。神の行いに疑問を抱くなどこの面子だけだろうがまあ、いい。治療の邪魔になっても面倒だ。話してやろう。私は神だ。不老不滅不死だ。一度くらい殺した程度ではすぐに甦ってしまう。殺すなら肉体ではなく存在そのものを消滅させねば何度でも甦る。神の厄介な所は戦闘力では無い。その存在力なのだ。一度の死程度では存在を消すことはできん。それが最もやっかいなところで、ある神に言わせれば死ぬ権利も消滅させられた呪いだ。どうせ存在力を大きく作りすぎて消すこともできないのだろう。話が逸れた。今回の勝負は私の負けだ。いや、エミリー・アブストラクト・エクシードに敗北したというべきか。絶対に修復不能のバグ、それをエミリー・アブストラクト・エクシードの強靭な意思がシステムへの干渉に成功しわずか数分だけ壊れた身体を揺り動かしたのだ。その意志力、敬意をいだかずにはおれん。そんなことは神にすら不可能だ。我々はチートを最初から与えられているだけでチートを生み出すことはできんのだから。従ってもはやクエストの初期化を使って彼女を存命させようとは思わん。その気高い意思力があってこそのエミリー・アブストラクト・エクシードだということがよく分かったからだ。だが、同時にそれは死を承認するということでもある。だからこそ、神にすらなしえないことをなした彼女に敬意を抱き、今、その終わりが安らかならんと勝手に協力しているのだ」
「世界の凄さも、人の深さも、すごせた期間も関係ない。あなたという人間と過ごせたことが私にとっての最高の幸せだったのです」
もはや、意識も混濁しているのだろう。私達とRDHの遣り取りを無視してエミリーが私に最後の言葉を告げる。
「RDH! 何かないの!! エミリーを救う方法は!!!」
「あれば、とうの昔に使っている。神の力で彼女を救済するのは不可能だ」
RDHは治療を続けながら手を合わせ祈るような姿勢で死刑宣告のような通知を送ってくる。もはや、なすすべもなく、他のエクシード兵達のように私も祈った。渚や祥君、報音寺君も何もしないのは野暮だと感じたのだろう、手を合わせエクシード兵達と一緒になって祈っていた。
どれほどの時間祈っていただろう、数時間か数秒か、気づいた時、次元に亀裂が入り、中から後光を纏った一人の女性が出現してきた。
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