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第11話 殺人中毒者が動かぬ訳

 ログアウトすると自主スペースに清水谷君の姿はなく、私は慌てて彼を探した。

 それほど長くプレイしていた感覚は無かったが、それでも数時間は経っていたのだろう。

 校舎に人はほとんどおらず、グランドでは野球部が道具を片付けていた。

 金属バットの乾いた音すら聞こえない。

 完全下校時間が近づいているのだろう。

 私は一縷の望みをかけて正門に向かって駆けた。

 学校の出入り口は正門と東門のみ。

 1年は遠回りな正門での登下校を推奨されている。

 まだ、入学してから日が経っていない。

 正門を選ぶはずだ。

 それに彼がログアウトしてからまだ、数分しか経っていない。

 報音寺君にも、碌に挨拶もせずログアウトし、時間を稼いだのだ。

 間に合うはずだ!

 全力疾走で正門を下る。

 バタバタと慌ただしく走る私は奇異な目で見られるが構うものか。 

 よし、いた!


 「清水谷君!!!」


 思ったより大きな声になってしまった。

 ううっ、恥ずかしい。

 けど、そのおかげで立ち止まってくれた!

 私は彼の元に駆けつけ、呼吸を整えてからこう切り出した。


 「さっきは、その、ありがとう…」


 改まって男子に見つめられて、言葉を吐き出すと後が続かないものだ。

 もう少し、しっかりと息を整えればよかったか。


 「別にいいよ、最終的には見捨てたわけだし…リアルで礼を言われるほど大きなことはしてないから」


 清水谷君は実に自然な様子で返してくる。

 本当に落ちていた本を拾った。

 シャーペンの芯を1本くれた程度の労力だったのかもしれない。

 

 「ううん、助けてくれたのは事実だからお礼は言わせて。実はあの後、天津笠あまつかささん??? だっけ!? から、1つの依頼を受けたの。それを満たせば私達を最初の街まで帰してくれるって。簡単な内容だったから承諾したら、すぐに帰してくれて。それからその場でログアウトして追いかけて来たの。あなたにお礼と聞きたいこと。渡したいものがあったから」


 「ずいぶん、強欲だね。いいよ、じゃあまず、聞きたいことって?」


 「単刀直入に聞くわね、あなた一体何者なの?」


 私は被っていた猫を脱ぎ捨てて、直球で勝負した。

 多分、彼からは外見を取り繕って尋ねても、答えは得られない。


 「別にどこにでもいるただの高校1年生さ、ただ、少しばかりセカンドワールドオンラインのレベルが高いだけさ」


 「ちょっとばかしって次元じゃなかったようにも思えるけど、どう見積もってレベル100以上はあったでしょ。大体、数え年の15歳の4月1日になって初めてネットへのダイレクトアクセスって可能って法律で決まってるはずでしょ。初日にログインしたと仮定して、どうやってわずか数日でそこまでレベルをあげたのよ」


 「いくつか裏技があるのさ。その裏技を使ってオレは小学生4年の頃からプレイしている。天都笠も同い年なんだぜ。彼女とはログインしたての頃、よく一緒にプレイしてたんだ。2人ともプレイ時間がレベルに反映されただけ」


 くっ、そんな裏技があったとはネットにも乗ってなかったぞ。

 法の抜け穴ってやつなのか!?


 「まあ、裏技使って早期ログインしている人間のほとんどが高度先進医療の専門医とか第一級弁護士とかの高収入組の子弟だ。だから裏技なんかを知っても意味なんかないよ。実行するのに数百万ぐらいかかるからね」


 そこまで聞いて愕然とする。

 そんな不平等が今の世の中にも存在するとはどうなっているのだ! と怒りをぶちまけたい気分になる。


 「聞きたいことってそれだけ? それならもう帰るよ」


 あっさりと質問に答え、話はこれで終わりだといわんばかりの口調で清水谷君は告げてきた。


 「ちょっと待って清水谷君! これが最後、渡したいものよ。私達を送り返してくれた見返り、天都笠さんからの手紙の配達よ」


 清水谷君のアバターは最初にフレンド登録してある。

 もらった天都笠さんから預かった手紙を転送すると清水谷君は携帯を使ってそれを読んだ。

 たぶん、さっき言ってクエストの概略でも書いてあるんじゃないかな、清水谷君の表情は優れない。


 「えっとさ、さっきの人の提案、なんで受けないの? よく分からないけど、天津笠さんすごく困ってたわよ。街がピンチってことらしいし、協力してあげたら? うまくいけばプレイヤーキルの減刑だって叶うかもしれないよ」


 「あのさ~そんな報酬もないクエストをうけて何の意味があるわけ? 仮想の街のウタカタノ夢の出来事だよ」


 全く予想外の言葉が出てきて私はなんの反応もできなかった。

 二重の意味で彼を見誤っていた。

 こっちが彼の本当の顔なのだ。


 「それにしても珍しくキャラからずれた発言するね春日井さん。街を救ってヒーロー? 心から街を救いたいとも思わず、名声のためだけにやるんだ!? そん汚泥にまみれた性根で街を救ったとして果たしてこの街は喜んでくれるの? いや、そもそもプレイヤーキルを生業なりわいとするオレに正義とか使命とか押し付けて説得するっていう論法が間違ってるんじゃないの?」


 私が意表を突かれ反応できずに固まっていると清水谷君は構わず続けていく。


 「それこそ、あんたが自分がドベになりたくないからオレを誘ったのと同じ論理だよ。本命は報音寺で、オレはおまけだったんだろ」


 ぐっ、キレイに本音を隠していたつもりだったが全部お見通しだったのか。

 私は全身から嫌な汗が大量に出るのを感じた。


 「自分の本音をきれいに建前で包むのやめなよ。本音は天都笠に報酬でもチラつかされたからオレをクエストに勧誘してるだけなんだろう、馬鹿くさい…」


 いや、そこまでは思っていない。

 けれど、思いもよらないことをズバズバ言われて反論ができない…


 「悪いけどはっきり断るから」


 それが最後通牒だったのだろう、清水谷君はそう言いきって去ってしまった…

 私には言い返すことも追いかけることもできなかった。

 

 

ふぅ、第11話投稿完了。感想などあればお待ちしております。

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