方法
―—数十分後、エストたちの負けという形で模擬戦は終了した。
学園内での模擬戦は今年の本大会と同じルールで行う。そのルールとは《全員の先頭不能又はリーダー紋章の強奪》。だが予選のルールは当日前夜に発表される。故に予選の対処はしようがない。
「もうっ! どうして私が負けなければならないんですの!」
「知らないよ!」
「もともと言えばエストさん、貴女が精霊術を使わないから悪いんですのよ!」
「キュエラだって一人で先走っちゃったじゃん!」
模擬戦終わり早々、エスト、キュエラが互いに言い合っている。
「それは――」
「落ち着けよお前ら!」
言ってカナタが間に割って入った。すると、
「…………ふんっ! 戻りますわ」
と言ってきびすを返し、遠ざかっていった。
首をすくめたカナタはぼやきながら振り返ると、無表情なウェルカの瞳と視線が合った。そしてそのまま近づいてきて、少し手前で止まった。
「……なんだよ……」
「おそらく今回の敗因に貴方が大きくかかわっている。覚えておいて。……それからエスト、ちょっと」
エストに向き直って歩み寄り、彼女の耳元で何かを囁き始めた。
「……うん。うん……え! そ、それは~……しょうがないよね」
「じゃ」
囁き終わると、ウェルカもキュエラ同様、足早に場を後にした。
「ちょっといいかタカツキカナタ」
「……はい!」
不意に名前を呼ばれた。左に目を向けてみると、こっちに来いと言わんばかりの顔でこちらを見ている。何も言われずともカナタはマリアルの前まで移動した。
「学園長が呼んでいる。ついてこい」
「え……あ」
曖昧な返事をすると、歩き出したマリアルの後に続いた。後ろからはエストがついて来ようとしていたが、
「悪いがお前は来るな。戻っていろ」
と、気づいたマリアルが落ち着いた声で止めた。そして再び歩き出した。
「――で、今回の要件はな、お主が仮とは言え契約をしてしまったということなじゃが」
椅子に腰掛け、窓の外を眺めたままのジーウィルが呟いた。
「してしまったのはもうどうしようもないことじゃが、それ以上はなるべく控えてほしいのじゃ」
「と言うと?」
カナタが返した。
「まず、自分が何者かわかっているか?」
「いや……」
「お主は人であると同時に人ではない何か、つまり精霊なんじゃ。加えて、今では存在が確認できていない《闇》属性の。そんなお主が本契約したらどうなるか、わしにも想像できん」
くるりと回り、ジーウィルがこちらを向いた。とても真剣そうな表情で見つめてきている。
「よくわからないけど……つまり、俺がその本契約ってのをしなきゃいいんだな?」
「そうじゃ。それからもう一つ、お主にとって有益な情報がある。……二ホンとやらに帰れる、というような噂が入ったきてな」
「本当かそれは!」
カナタは机に手をつき、ジーウィルに近づくように前傾姿勢になった。
「うむ。以前にも何人か来たことがあるらしくてな。噂はそのときのじゃが、その方法は……」
◇ ◆ ◇ ◆
戻ると、《人型精霊を召喚した》ということは既に学園の隅々まで広がっていたようで、廊下を歩いていると、羨むような視線が向けられる。そういう目線がある一方、敵意のこもった視線などもまた向けられている。
だがそんなのを気にせず歩いていると、すぐ隣を歩くウェルカが話しかけてきた。
「ね、本契約はしないの?」
「ほほ本契約!? いやいやいや! だってあの人とそんな事できるわけ……」
「確かに。相手は何から何まで私たちと同じよう。だけど、今日の模擬戦を見てわかるように、仮契約じゃ本当の力は引き出せない。今後いずれ……少なくとも二か月後にはしていないと。貴女はせっかくのチャンスをまた無駄にするの?」
視線をこちらに向けることさえせず、無表情な言葉だけを発した。
まるで心配していないような声だったけれど、エストはその言葉から気持ちを悟った。
聞こえないように「ごめん」と呟いた後、後に続いてゆっくりと教室に入った。