契約
白が弾け、視界が開けて景色が飛び込んできた。そこは今までいた部屋とは違う。広大な空と多くの人。
まるで異国風——なのはこちらなのかもしれない。まったく材質の異なるような服を身にまとっている。
「人型!?」「あいつ、確かさっきの……」
一同がざわついた。それは周りを取り囲む人たちであったり、教師たちだったり。ただ、目の前の少女エストは、手を口に持っていき無言のまま驚きをあらわしている。
カナタが立ち上がると、エストが戸惑いながら話しかけた。
「ど、どうして君が……?」
「えっと……?」
「まぁ、細かい疑問は後で……。……あの、私と契約してくれますか?」
頬、いや、顔を紅潮させながらエストが言った。
カナタが後ずさろうとした時、誰かに背中を押さえられ、耳元で呟かれた。
「ここで契約しないとお前、本当に居場所なくなるぞ」
低めのこの声はマリアルのものだ。
「え……っ!」
マリアルに背中を押され、二、三歩前に出た。そのとき、上目遣いで見てくるエストとばっちり目が合った。
「……ちょっと動かないでね」
視線を軽く逸らした後、エストはゆっくりと頬に手を添え、そして顔を近づけてくる。
困惑が続いたカナタは目を瞑ってしまった。
彼女の姿は見えなくなった。だが近づいているのがわかる。忘れられない、昨日と同じ柑橘系の匂いがすぐ鼻先にあるのを感じる。直後、額に何か温かくて柔らかいものが触れた。
数秒間触れ続けているそれが離れると、カナタはおそるおそる目を開けた。
すぐそこにはまだ紅潮させたままのエストが微笑んでいた。何も言えず黙っていると、
「もう全員終わったな? じゃあチーム組めー」
という次の指示がマリアルから出された。とたんに生徒たちは動き出した。
「なぁ、チームってなんなんだ?」
動く生徒を見てエストに訊ねた。
「うんまぁ、とりあえず強い人を……っ! ウェル——」
「ウェルカ‼」「ウェルカさん!」
はっとして気付いたが既に遅かった。戦力として一番有力な生徒、ウェルカは多くの生徒に囲まれている。前回と全く同じだ。
あ~あとエストが残念の息を洩らすと、集団の中のウェルカが動き出した。たくさんの勧誘がある中、ウェルカが声をかけたのは、項垂れていたエストだった。
「エスト、よろしく」
相変わらずの落ち着いた声で手をさし伸ばしてきた。
それを見たエストは、正面のウェルカ、左側のカナタに目で確かめると、ぱぁっと表情が明るくなって、
「ありがとーウェルカー!」
ぎゅ~っと抱き付いた。
「これでこのチームは——」
「あと一人」
「そうだね」
ハグを終え、ポリポリと頭を掻くエスト。
あと一人~と探すが、大体がチームを組んでおり、一人きりというのはなかなか見つからない。
「う~ん……」
「私が仲間になってあげてもいいですわよ」
そう言って歩み寄ってきたのはキュエラだ。
彼女はウェンディーズ家のお嬢様であり、エストの昔からの友人でもある。そして水属性の扱いに長けている。腰に届きそうな真っ白いストレートヘア。薄桃色の小さな唇にスッと通った鼻筋。何かを狙っているような瞳は、笑いながらエストを見ている。
「いやいやいや——」
「属性のかぶりはないですし、かつエストさんの苦手な水もカバーできますし、悪い話ではないと思いますけれど」
「ううぅ~、正論だけどなんか悔しい~」
「じゃあ、決まりですね」
言うと、キュエラはふふっと鼻で笑った。ちょうどそのときマリアルが全体に呼びかけた。
「そろそろ決まったか? ならさっそく。これから各チームで模擬戦を……」
説明が始まってすぐ、状況を全く理解できていないカナタが、後ろからエストに話しかけた。
「なぁ、さっきからチームとかなんとか言ってるけどさ、いったいなんなんだ?」
「……そっか。ん~っとね、これは二か月後に開催される《霊術闘祭》のチームなんだ」
「こんなテキトーに決めていいのか?」
「わかんないけど。ポイント制でこの中の上位三チームが予選出場、そして勝ち残ったチームが本選に出場するの」
ふ~んと適当な返事を返しながら、視線を前に向けると既に話は終わっていて、皆動き始めていた。
チームメンバーであるウェルカもキュエラも指定の場所までの移動を開始していた。
「じゃっ、行こっ!」
移動を始め、準備を完了させると、三対三の模擬戦は始まった。
「しゃっ‼」
でこチュー