ショウタイ
——エストの後に続いて、たくさんの木製の扉が並ぶ通路を歩いていた。その中の一つの扉を開け、室内に入った。中は広くはないが、タンス、ベッドなどの生活家具は揃っている。しっかりと片づけてあるのか必要以外のものはないのか、見た目綺麗だ。
見渡しながらカナタは訊く。
「なぁ、なんでここに来たんだ? 別に外でもよかったんじゃ……うわ!?」
言葉が終わらないうちにカナタは尻餅をついた。その原因は目の前のエストの背中にあった。
「お前……背中……」
「うん?」
一瞬、疑問符を浮かべたが肩越しに背中を見てやっと気づいた。
「ああこれか~」
そう言う彼女の背中には大きめの真っ白な翼がついていた。いや、まるで生えているようだ。
「さっきはそんなの無かった……」
「普段は隠してるから。私は小天使っていう精霊なの。今、このことを知ってるのは君を含めて、学園内で五人だけなんだよ」
室内窓際のベッドに座りながらエストは言った。そのとき、カナタは気が付いた。
「……なんで俺にそれを見せたんだ?」
扉の近くに突っ立ったまま訊いた。
「それは今から説明するから、どっか適当に座って」
エストからの言葉に適当に返事を返し、座る場所を探した。だがこの部屋にはイスが無かった。一人だからだろうか。仕方なく、ベッドの隣の空きスペースにゆっくりと座り、壁に寄りかかった。すると近くでエストがくすくすと笑った。
「な、なんだよ」
「いやぁ、なんでもない。」
口元に手を持っていき呟いた。可愛らしい笑顔だ。
「……それでさ、訊きたいんだけど、なんで君はここにいるの?」
「俺がききてーよ。気づいたらここいたんだから。それよりここどこだ?」
「君がなんで来たのかは知らないけど。ここは《グランクレイク学園》。国中の術者の育成場ってとこかな。そして私が言いたいのは……」
いったん言葉を止めると、エストはじっとこちらを見つめてくる。そして立ち上がり、徐々に近づいてくる。同時に柑橘系の匂いも近づいてくる。
「え!? え、ちょっ」
声が裏返ってしまった。
鼻先がぶつかるのではないか、というくらい近づいたところで止まり、エストは呟いた。
「君、やっぱり精霊だよね? それもとびきり強力——高位の精霊みたいに。だけどまた別なものも」
「は……?」
目をぱちくりさせ、確認する。直後。
「いやいやいや! 俺はそんなんじゃ……第一わからないし!」
視線をそらして焦り気味に言った。すると、あれ? と首を傾げながら、エストは柔らかそうなベッドに戻った。
「不思議だね君。見つかったのに追い出されもしないで、それに何も知らないみたいだし」
「おい俺は……」
「まぁ、私の言うことはあてにならないって、昔から言われてるから気にしなくていいよ?」
エストはくすっと笑った。
◆ ◇ ◆ ◇
「二ホンから来た、か。二十年前の……ユヅルとかいったかのぅ」
ジーヴィルは自室のイスの背もたれに身体を預け、真っ黒な空を窓越しに眺めながら、ぷは~と煙を吐いた。
「あいつも同じようなこと言っとったなぁ。まぁ強さなどは感じんかったがの。ほっほっほっ」
言うと、様々な書類が堆く積み上がる机に向き直って、机面を見つめ考える。
「……いやしかし、今回はやっかいじゃのぅ。半分とは」
『招待』と『正体』。サブタイトルでかけてみました(笑笑