メリッサと3人の奴隷
ドラクレスティの一族が誇る絶世の美女メリッサと、喜んで彼女の奴隷をやっている残念なSMARTによる、残念な男達の戦いの話です。
優雅にグラスを傾け、味わう様にゆっくりと血を飲む。時々背中に払いのけられるストロベリーブロンドの髪は絹糸のように滑らかに背中を滑り落ちる。
誘う様に組み替えられる足はスラリと伸びて、無駄な肉などついていないが、真珠の様にきめ細かで白い肌のそれは、吸い付く様に滑らかなのだろう。
ヴィンセントの唯一無二の親友であり、美しい女吸血鬼、メリッサ。
そのメリッサに熱い視線を送り、ほうっと熱のこもった溜息を吐く男が三人。
クリスティアーノ、レオナルド、ジョヴァンニである。
ちなみにレミは、ヴィンセントにお説教されるヘタレ猫を見物して笑っている。
「俺、あんなに綺麗な人、生まれて初めて見たよ」
とジョヴァンニ。
「俺も。見てるだけで幸せ」
とクリスティアーノ。
「本当、生きてて良かったってしみじみ思うぜ」
とレオナルド。
アンジェロがミナに言い寄られているのを見ると、非常に心がささくれ立つシンプソン砂漠だが、彼らにとってメリッサ鑑賞は心のオアシスである。
見ているだけでも癒される。美しいものは人の心を洗濯するのだ。
だからもう、声を掛けられた日には天にも昇る思いだ。
「クリス、ちょっとこっちへいらっしゃい」
「は、はい!」
メリッサが優しく微笑んで、白魚の様な手で手招きされたクリスティアーノは、慌ててメリッサの元へ馳せ参じる。
「おのれクリス!」
「ちくしょう、いいなぁ」
残り二人は羨望の眼差しを向ける。呼ばれるのはいつもランダムなので、みんな今か今かと自分の順番を待っているのだった。
「マニキュアが剥がれてしまったの。塗ってもらえるかしら?」
「ハイ! 喜んで!」
自分からは決して触れる事などかなわない、メリッサの美しい手と細い指先。
撫でまわしたい衝動を抑えながら、クリスティアーノは丁寧にマニキュアを塗っている。
「うふふ、クリス、上手ね」
「あ、ありがとうございます!」
クリスティアーノは今頃死んだっていいと思っている事だろう。
ふと、メリッサが何かを思いついたようにした。
「レオ」
「ハイィィ!」
呼ばれてすぐさま飛び出すレオナルド。一人取り残されたジョヴァンニは地団太を踏んでいる。
「そういえばペディキュアも剥がれてしまっていたわ。塗っていただける?」
そう言ってメリッサのカモシカの様な美脚が晒される。それを見てナヌッと表情を変えたのはクリスティアーノだ。
(あ、足だとぉぉ!?)
手でも十分嬉しいが、足は手の数倍の価値がある。信じられない物を見るようにしたクリスティアーノに、レオナルドはドヤ顔を向けてやる。
(フッフッフッ、クリスめ。ざまーみろ)
勝ち誇った顔をするレオナルドに対して、クリスティアーノは悔しそうに歯ぎしりしている。
それを見てメリッサは、あらあらうふふと微笑んでいる。
マニキュア塗りという二人の水面下の戦いが終わると、メリッサは立ち上がってその場から出て行こうとした。
それを名残惜しく思いながら3人で見送っていると、ふとメリッサが立ち止まって振り向いた。
「あら、そうそう。ジョヴァンニ」
「はいっ!」
やっと自分の番が来たと、元気よく立ち上がるジョヴァンニ。
「ちょっと、私のお部屋にいらっしゃいな」
それを聞いて最初に指名された二人は顔色を変えた。
(んなにぃぃぃぃ!? 部屋だとぉぉ!?)
(童貞のくせに! ブッ殺す!)
戸惑いながらもメリッサのあとを着いていくジョヴァンニを、二人は殺意を込めて見送ったのだった。
そんなメリッサと3人の様子を見て、ボニーとクライドが笑っていた。
この二人もメリッサには逆らえないが、あの3人ほどではない。
「アイツら完全にメリッサ様の奴隷だなー」
「お陰でアタシ達、楽が出来ていいねー」
ボニーとクライドは3人の登場によって、奴隷から自由民に昇格した。
今日もまたメリッサは美しい。ソファに腰かける姿も、ヴィンセントの肩に手を置く指先のわずかな動きも、随所から美しさが溢れ漂う。
いつものようにメリッサに熱い視線を送る3人をちらっと見て、ヴィンセントはジト目でメリッサを見た。
「お前、あいつらで遊んでいるだろう」
メリッサはうふふと微笑んでいる。
「あら、いけないかしら?」
悪びれた様子など一切ない。メリッサはちゃーんとわかってやっていて、そして完全に開き直っている。
「……こんな性悪女の何がいいのだか……」
「あら、失礼しちゃうわね」
「事実だろうが」
伊達にヴィンセントは数百年もメリッサと友人でいるわけではない。メリッサの人となりをよくわかっている。
「最近の若い奴は、女を見る目がないな……」
年の功でそんな風に思って、メリッサの奴隷3人を憐れに思うヴィンセントだった。