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ヴィンセントパパとヘタレ猫の攻防

ドラクレスティの一族 オーストラリア編にて

ミナの猛アタックに折れてしまいたいアンジェロと、それを阻止すべく目を光らせるヴィンセントの日常話です。


 黄金色のふわふわの毛、琥珀色の瞳。チンチラの様な姿をした猫、それがにゃんジェロである。

 殺されるのを回避するため、苦肉の策で猫になったアンジェロだったが、アンジェロは何気に猫生活がお気に入りだ。


 一番のメリットはやはり、面倒な質問をされても「にゃぁ」で済むし、アンジェロにはわかっても、相手が猫語を理解できないので諦めてしまう。これは楽だった。


 他にもメリットはある。


「にゃんジェロ、おいで」


 両手を広げたミナの胸に飛び込む。ミナの頬っぺたにスリスリする。ミナの膝の上で丸くなる。時々一緒に眠るのもいいし、着替えだって見放題。

 飛び込んだ先のミナのおっぱいでパフパフしたって、誰も何も言わない! みんなスルーしてくれる! 誰にも怒られない! ヤリたい放題ヒャッハー! なのである。


 それで今日もミナに抱っこされてぱふぱふを楽しんでいたのだが、いきなり首根っこを掴まれて、ミナから引きはがされた。

 そして代わりににゃんジェロの視界いっぱいに入って来たのは、氷の微笑を纏った恐ろしき吸血鬼、ヴィンセントパパである。

 ヴィンセントパパは笑っているが、目が笑っていない。ヴィンセントパパの視線は絶対零度の猛吹雪だ。

 

「お前、最近調子に乗っていないか?」

「にゃ……」


 震えあがったアンジェロは、尻尾を丸めて耳をぺたりとさせ、ヴィンセントにぶら下げられたままガクガクと震える。


「猫だからと言って、なんでもかんでも許されると思ったら大間違いだ」

「にゃぁん」

「にゃんではない! 何とか言ったらどうだ!」

「ふすん……」


 しょんぼりと項垂れる猫を眼前にぶら下げて、割と本気でお説教をするヴィンセント。


「伯爵が猫にマジギレの図。シュールだね」

 ちょっと遠目から見ていたレミが呟いた。

「俺ああいうの嫌いじゃない」

 レオナルドが笑いながら言うので、クリスティアーノもつられて笑う。

「ハッハッハ、アイツがヘタレでいる内は、これからも見れるだろ」

 それを聞いて、ジョヴァンニが呆れる。

「あのザマじゃ、いつまで経ってもヘタレだね」

 SMART全員で肩をすくめて笑った。



 ある日アンジェロが風呂上りに廊下を歩いていたら、ミナとパッタリ遭遇した。入浴の時は人間の姿に戻るので、そのまま人間でいた為か、ミナは嬉しそうに駆け寄ってきた。

 ミナが声を上げる前に手で口を塞いで、暗い廊下の影にミナを連れ込んだ。そして千里眼を発動し、周囲を警戒。特にヴィンセントパパの動向には注意が必要だ。

 どうやらヴィンセントパパは自室にいるようだ。状況、クリアー!


 ほっと息をつくと、連れ込んだ勢いでミナを廊下の壁に押し付けて、口をふさいだままだった。手を外してやって、唇の前で人差し指を立てると、ミナも「しー」と言って笑った。

 そのまま壁に手をついて、ミナの顎を持ちあげて、二人とも目を閉じた、その瞬間。


(ほう、それが噂の壁ドンか)


 頭の中にヴィンセントの声が響いて、思わずアンジェロは壁に頭を打ち付けた。


(い、いえ……ちょっと、頭突きの練習を……)

(そうか。頭蓋骨が陥没するまで励むが良い)

(はい……頑張ります……)


 泣く泣くアンジェロは壁とスキンシップを取った。



 またある日のこと。

 アンジェロが自室にいると、ミナが部屋にやってきた。白いネグリジェは、うっすらと肌が透けていて、なんとも素晴らしい。

 部屋にミナを招き入れ、どうしたのか尋ねると、ミナはにっこり笑っていきなりアンジェロをドーンと突き飛ばした。

 突き飛ばされてベッドにダイブしたアンジェロに、ミナが上から四つん這いになって乗ってきた。


「え、え、なに、どした」

 

 期待に胸が膨らむアンジェロ。


「えへ、夜・這・い」


 しっかり期待に応えるミナ。

 アンジェロは感動した! これぞ男の夢、夜這いドリーム!


 感動したアンジェロはすぐに元気になった! どこがというのはお察しだ!

 そして上に乗っかっていたミナも気付いた。そしてちょっと恥ずかしそうにしながらも、頬を上気させて微笑む。


「嬉しい」


 その瞬間アンジェロは心の中で合掌した。


(据え膳食わぬは男の恥! いただきます!)


 そしてミナの体を反転させて組み敷いた。


「お前勇気あるな。伯爵に怒られるぞ」

「じゃぁその時は一緒に怒られよ?」

「はは、いいぜ」


 ミナの服に手を掛けながらそんな事を言っていたら。


「怒られるだけで済むと思っているのか。お前の頭は平和だな」


 テレパシーではない。耳に聞こえる。左側から聞こえる。

 ぎ、ぎ、ぎ、と歯車の様に首を動かして左を見ると、アンジェロの椅子にヴィンセントが腰かけ、頬杖をついてこちらを見ている。当然、いつもの絶対零度の氷結殺人ビームを放っている。


「そうだな、どのくらい痛めつければお前の再生能力が尽きるのか、それを実験するのもいいな」


 ヴィンセントの話を聞いて、過去に実験体として散々な目に遭ったトラウマがフラッシュバックしたアンジェロは、萎えたどころか縮み上がった。


「それだけはお許し下さい! すいません! もうしません!」


 と必死に謝罪したと思ったら、テレポートして逃げた。


 眠っていたクリスティアーノは、いきなりベッドがもぞもぞするので、びっくりして目が醒めた。


「うぉ!? アンジェロなにしてんだよ!」


 アンジェロが潜り込んでいて、驚いてベッドから突き落とそうとするが、クリスティアーノにしがみついて離れない。


「お前何やらかしたんだよ! ていうか出てけよぉぉ!」

「頼むよ! お願いだから今夜は一緒にいてくれ!」

「キモ! 嫌だ! せめてソファで寝ろよ!」

「無理だよ! 怖いんだよぉぉ! 今夜は一人にしないでくれぇぇ!」

「マジで何やらかしたんだよ! お前マジでキモいぞ!」

「嫌だぁぁ! 解剖はもう嫌だぁぁぁ!」

「ハァ!? ていうかいい加減離せよ! 身体強化使うなバカ!」


 とばっちりでクリスティアーノは、一晩中アンジェロにしがみつかれてメソメソされるという、気持ち悪い夜を過ごした。



 それからもアンジェロが何かしでかそうとすると、すぐにヴィンセントがちょっかいをかけてくる。どんなに上手く隠れても、すぐに見つかってしまう。どこから見ているのか、どこで聞いているのか、アンジェロには全くわからないので、アンジェロにとっては日常的にホラー体験である。


 当然、ミナは眷愛隷属電波でヴィンセントに思考が全部筒抜けで、それでバレる事もあるのだが、ミナの中には北都がいる。


(ヴィンセント、アンジェロがまた壁ドンやってるよ)


 と、逐一北都がチクるので、アンジェロは一度もヴィンセントから逃げられたことはない。




「私達まだキスもしてないんですけど」


 ミナは不貞腐れているが、メリッサは苦笑するばかりだ。


「ヴィンセントからお許しがあるまでは、アンジェロが頑張るしかないわね」


 ヴィンセントにお説教されるヘタレ猫を見ながら、ボニーが笑った。


「でも、ヘタレの割にはめげないよね。ガッツあるじゃん」

 

 確かに。アンジェロは何度怒られてもやめようとはしない。


「やっぱ、いい性格してんなー、アイツ」


 絶対零度の氷の微笑を纏ったヴィンセントパパと、ちゃっかりしているヘタレ猫の攻防は、最早日常茶飯事。

 猫にマジギレするヴィンセントの姿が、みんなのお茶請けになっているのであった。

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