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ザ・トラブルメーカー

ミナとレミ(当時10歳)のお散歩。

ただのお散歩だったはずなのに、なぜだかとんでもない事に巻き込まれる!

そしてミナはついに……!

ドタバタコメディです。

「ヒマだなぁ」

「ヒマですねぇ」

 ここはオーストラリアのシンプソン砂漠。娯楽どころか人もおらず、辺り一面の荒野でなーんにもない。ニート吸血鬼なのでする事もない。

 レミと二人、暇だとぼやいていると、レミが言った。

「僕もアデレードとか行ってみたいです」

 アデレードとはこの砂漠から一番近い都市だが、1000km以上離れているので、レミは行ったことがないのだ。

「そっか! じゃぁ今日は私と一緒にアデレードをお散歩しよっか!」

「本当ですか!? わぁい! ありがとうございます!」

 大喜びするレミに萌え萌えしながら手を繋いで居間に降りていくと、居間にはヴィンセントとアンジェロとがいた。出かけてきまーすと声をかけてエントランスへ足を向けると、レミにクイ、と袖を引かれた。

「ん? どしたの?」

「ミナさん、どなたかにご一緒頂いた方がいいんじゃありませんか? ミナさんに何かあったりしたら大変ですし……」

 レミが言いたいのは、正確にはミナに何かあると思っていないが、自分が面倒に巻き込まれないように、という意味である。

「大丈夫だよぅ!」

「え、でも……」

 余程心配なのか、なかなかレミは引き下がらない。レミはヴィンセントに尋ねる。

「伯爵お願いできますか?」

「面倒くさい」

 一刀両断。ヴィンセントはこういうことは面倒くさがって絶対ついてこない。

「ていうか、折角レミくんとデートなのに、邪魔されたくないからいいです」

「お前……」

 ヴィンセントに睨まれたのでさっと視線を逸らす。レミは今度はアンジェロを見る。

「アンジェロ、着いてきてよ」

「ヤだ。暑い」

 気温は40℃を超える真夏である。人間のアンジェロは酷暑や日焼けを気にして出たがらない。白人は色素が薄いので、地味に太陽光に弱いのである。

「ほら、もういいじゃん。アンジェロみたいなヘタレなんてほっといて行こ」

「誰がヘタレだこの野郎」

 なんか無駄に険悪な雰囲気にさせただけのような気もするが、レミを引きずって家を出た。


――――――――――――――10時間後


「ただいま戻りました……」

「遅かったじゃない! どうかしたの?」

 時間は0時を回ってしまっていて心配して駆け寄ってきてくれたメリッサに、ヴィンセントがイライラしながら説明を始めた。

「警察の世話になっていた」

「えぇ!?」


 その8時間半前


「あれぇ? おかしいなー?」

 レミが競馬場を見てみたいというので、アデレード競馬場を目指していたのだけど、さぁてここはどこだろう。明らかに裏道っぽい所に出てしまっている。完全に迷子になってしまった。

「やっぱりどなたかについてきていただけば良かったですね……」

 今それを言われるとグサリとくる。ミナというトラブルメーカーは早速迷子と言うトラブルを引き起こす。

「とりあえず一旦引き返しましょうか?」

「だね。そうしよう」

 いつまでもここに居たって仕方がない。大通りの方に出れば何とかなるはずだ。引き返して少し歩いていると、気付いた。何人かに尾行されている。

 何だろうか。何が目的だろうか。やっぱりお金だろうか。とりあえず来るときに2万持ってきたので、さっさと渡してお引き取り願おう。ミナが足を止めると、尾行者たちも足を止めて、少しするとミナとレミの周りに集まってきた。

「こんな所に東洋人とフランス人坊やが、何してんのかなー?」

「ミナさん、この人達……」

 怯えるレミの肩をギュッと引き寄せる。

「お金が欲しいの? 少しくらいなら可哀想なあなた達に、恵んであげてもいいわよ」

「金は欲しいさ。でも少しじゃだめだ。デカイ金じゃなきゃな」

「というわけで、嬢ちゃん。俺らと来いや」

 なるほど。人身売買の組織のようだ。オセアニアや東南アジアでは、未だにこういう商売がまかり通っていて、犯罪都市だっていっぱいある。スラムなどというレベルではなく、街全体の住人が犯罪者なんて地域も珍しくはない。

 どうやらこの辺は、そう言う場所のようだ。

「嫌よ。帰るからそこどいて」

 ミナの前に立ちはだかる男にどく様に顎で指示しても、動かない。

「強気だなぁ」

「痛い目見たくなかったら大人しくしろや」

「このガキも高く売れそうだ」

 そう言うと一番近くにいた男が、レミの腕を引いて無理やり引きはがしてしまった。その瞬間、ミナも残りの数人に取り押さえられる。

 レミはイラッと来て、空いた手で腰に差していた銃を抜き、アンジェロ譲りの射撃の腕で、すぐさま傍にいた男を撃った。

「ミナさんに汚ねぇ手で触るんじゃねぇよ、クソチンピラ」

 誰に似たのか口が悪いレミ。絶対アンジェロの教育の賜物だと思ったミナはなんだかおもしろくなったが、笑っている場合ではない。他の男がレミを撃とうとしているのを見て、男達に捕まれた腕をあっさり離し、その瞬間裏拳をブチ込むと、男達はドサツとその場に崩れ落ちた。

 周りにいた男達にもタンと地面を蹴って飛び上がり、ドガガガガっと文字通り一蹴した。

 とりあえず、その男達はボコボコにしてレミとその場を離れた。



 クレープを買って、公園の噴水の前に腰を下ろして、レミにあげると、レミは「美味しい」と笑ってくれた。

「なんかびっくりしたねー」

「ですねぇ」

 ミナ的にはレミもだいぶビックリだが、レミも子どもとはいえ元軍人なのである。銃ぐらい扱えるように育てられたはずだ。

「外の世界にはあんな怖い人もいるんですね」

 どの口がそんなことを、と思わないでもないが、犯罪者に誘拐されそうになるなんてきっと初体験だろうし、怖かったのかもしれない。

「ごめんね。せっかくのお出かけだったのに台無しになっちゃったね」

「怖かったです。でも、ミナさんはやっぱりすごいです!」

 急にレミは目をキラキラ輝かせて興奮しだした。

「あっという間にあの人達を蹴散らして、かっこよかったです!」

「あぁ、まぁね」

 レミはミナが戦っているところを見るのは初めてだった。普段アンジェロ達が戦う姿はそれなりに見てきただろうが、女が戦う姿と言うのは新鮮だったようで、興奮している。

「僕も一応体は強化型ですけど、子どもなのでアンジェロ達みたいにはいかないんですよね」

「大きくなればどうにでもなるって。私も格闘じゃクリスには勝てないし、その内レミにも追い抜かれちゃうんだろうなぁ」

「そっかー。早く大人になりたいなー」

 天才児と言っても、こういうところは子どもらしくてかわいいものである。


 レミがクレープを食べ終わったので、そろそろ行こうかと立ち上がると、大人数の男たちに取り囲まれた。背後で、一般人たちが公園から逃げていくのが見える。

「東洋人とフランス人のガキ。すぐわかったぜ」

 さっきのアレの仲間のようだ。折角片付いたと思ったのに、なんでこんな事に。超絶面倒くさい。

「私は何にも用はないけど、なんか用?」

 イライラしてぞんざいに尋ねると、男達はプッツンきたらしい。

「さっきのお礼はたっぷり返させてもらう!」

「いや、結構です」

「くらえぇぇぇ!」

 銃を構えた男が数人いきなり襲いかかってきた。

「いらねーって言ってんでしょうが!」

 まともに戦うのが面倒くさくて、レミを抱えて大きくジャンプして、そのまま男達を何人か足蹴にしながら公園から脱出した。

「ねー、レミ、あいつらいつまで追ってくると思う?」

「地の果てまで追ってきそうな形相ではありましたね」

「あー面倒くさいなー。いっそのことやっちゃおうかなー」

 レミと共に街中を駆け抜ける。そうしているとふと気づく。レミがミナの足についてこれていることを。思わず半目になる。

(やっぱ強化人間って反則だわ……)

 ミナが小さく溜息を吐くと、レミもチラリとミナを見上げる。

(僕は強化人間なのに、ミナさんの方がちょっと早い。やっぱ吸血鬼って反則だ)

 お互いに呆れながら走っていると、やっぱり随分後ろだけど後方から追いかけてきている。戦うにしても、いくら強化人間とはいえレミは再生力持ちではないし、こんな子どもに怪我をさせるのは嫌だ。そう考えて近くのコーヒーショップに飛び込んで、レミに待機するように言いつけた。

「え、ミナさんはどうするんですか?」

「ちょっと片付けてくる! すぐ終わるからそこで待ってて!」

「わかりましたー」

 聞き分けよくレミはテーブルについて、携帯電話を取り出すと、ミナににこやかに手を振った。そしてミナを見送ると、おもむろに電話をかけ始める。

「あ、もしもしアンジェロ? 迎えにきてくれる? うん、僕一人じゃ帰れないもん。ミナさん多分帰って来れないと思うんだ。うん、帰ってから話すよ。お願いね」

 逃げながらも周囲をつぶさに観察していたレミは気付いた。ミナは恐らくすぐには戻って来れない。なので腹黒なレミは、自分だけさっさと帰れるように手配していた。


 その頃。

「はぁ、はぁ、戻ってくるとは、いい度胸じゃねぇか」

「せっかく盛大なお礼を用意してくれたみたいだし。受け取ってあげようと思って。ツマラナイものだったら、承知しないわよ」

「ブッ殺してやるァ!」

 で、男達がまた襲い掛かって来たので、逃げている。だって、街中で乱闘騒ぎはいただけない。どこかにいい乱闘場所がないかと思って走り続ける事30分。何もしていないのに、脱落者が続出している。これだからもやしっ子はいけないと思っていたら、工事が中断された空地のような場所を見つけた。しばらくそこで待機していたら、やっと男達が追い付いた。

「遅い。私が言うのもなんだけど、アンタ達大丈夫?」

 全速力で走り続けたせいか男たちは既に瀕死だ。こっちの質問に答える事も出来ないで息を整えるのに必死だ。

「情けないなぁ。待っててやるから、落ち着いたらかかってくれば?」

 そう言って、空地の真ん中で待つことにした。


1分後 

「まだ?」

「……」


3分後

「遅い」

「……」


5分後

「どんだけ待たせる気!? もう我慢できない! かかってこないなら私から行くわよ!」

「も、もうちょっと待って……」


10分後

「テメェ調子乗んのもいい加減にしろよ! ブッ殺してやるぁ!」

「待っててやったんだから礼の一つも言えっつーの」

 何とか心肺機能が回復した男達が立ち上がって襲い掛かってきた。大体50人位だ。なんにもなければ10分程度で終わるだろう。

 とりあえず、近くに立てかけてあった鉄パイプをひょいっと拝借した。

「私のエモノは剣なんだけど。さすがに殺しちゃまずいから、これで我慢してあげる。あ、それと全員で一斉に来てね。さっさと済ませたいから」

 挑発すると男達はまんまと乗っかって全員で襲い掛かってきた。パイプの射程範囲内に入って来た男達に、パイプをふるうと、それを受けた男達は一斉に宙を舞った。それを見て後続は足を止める。

「全員でって言ったでしょ? 銃でも何でもいいからさっさと来てよ。死にたい奴からかかって来れば?」

 これ、一回言ってみたかった。ミナの素敵な決め台詞を聞いて、何人かが銃を乱射し始めた。それを全て避けるなり、掴むなり、パイプで弾き返すなりしていると、ガチンと音が聞こえ始める。弾切れしたようだ。

「弾ならあるよ」

 そう言って、受け止めた銃弾を投げ返して男達の太ももに打ち込むと、悲鳴を上げながらのた打ち回っている。もう面倒くさいし、そろそろ終わらせて帰ろう。

 その場に残っていた男達全員を倒して、なんとかバカ騒ぎを終結させた。

(あぁ、やっと帰れる。全くとんでもないことになっちゃったよ。さっさと帰ろう)

 そう思っていたら、まさかの事態が発生した。


「女の子が悪漢の集団に襲われてるってのはここか!? ……あれ? え? 襲われ……え?」

 なんかテンパったお巡りさんが現れた。どうやら見かけた誰かが通報したようだ。一般市民の身なら喜ばしい事だろうが、ミナにとっては面倒の上塗りである。

「あ、ご苦労様です! もう大丈夫なので! ごきげんよう!」

 そそくさと、その場を立ち去ろうとしたら、お巡りさんにガッと肩を掴まれた。

「署まで一緒に来てもらいましょうか」


 お巡りさんに連れて行かれた先、刑事さんが煙草の煙を吐き出しながらミナに詰め寄る。

「君の名前住民登録にないけど!?」

「旅行者ですもん」

「パスポートは?」

「お散歩してただけだから持ってません」

「堂々と言うな! パスポート持ち歩くのは旅行者の義務でしょうが!」

「そーかもしれませんけどぉ、私誘拐されるところだったんですよ。ちゃんと取り締まって下さいよ」

「それとこれとは話が別! 反省してんの!?」

「してますよぉ。ちょっとやりすぎちゃったかなって思ってます!」

「もう! とにかく、しばらくここで頭冷やしなさい!」

「はぁい」

 事情聴取、取り調べ、拘束! 警察のお世話になったのなんか初めてだ。

(お父さんとお母さんになんて言おう……ヴィンセントさんにも絶対怒られる……)



 途方にくれながら5時間経って、やっと解放された。

「ほら、お迎えの人来てるから」

「え? お迎え? どうやって呼んだ……ゲッ!」

「折角この私が! わざわざ! こんな所まで! 迎えにきてやって大層な反応だな!」

 物凄いお怒りの魔王様が仁王立ちして立っていた。ズカズカとミナの前まで歩いてきたヴィンセントは、ミナの頭をガッと掴んで、それはもう憎らしそうに顔を歪めた。

「お前はどうしてそう、いつもいつもいつもいつもトラブルに巻き込まれるんだ!」

「ぎゃー! いたたたた! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 ヴィンセントの指が頭を締め付けて、頭蓋骨がミシミシ言い出す。

「お前には学習能力というものがないのか! しかもお前警察沙汰になるなんて! バカも大概にしろ!」

「いたたたた! すいません! すいません! 本当すいません! 反省してますからぁ!」

 必死に懇願してやっと手を離して貰えた。


 手を離したヴィンセントは、ミナに憐憫の目を向ける警察署員の面々に「うちのバカ娘がご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」と丁寧に謝罪して、ミナを蹴っ飛ばして外に出した。


 家に戻ってアンジェロに愚痴っていると、アンジェロにまで溜息を吐かれた。

「どの道レミを迎えに行くんだったら、俺がついてってやればよかったな。そうしたらこんな事には……ハァ」

 呆れられているのはわかるが、ちょっと聞き捨てならない。

「え、レミを迎えに来てくれたの?」

「あぁ、レミから電話が来てな。どーせお前は帰ってこないだろうから、迎えに来てくれってさ」

 一体どういう事だと頭を悩ませていると、アンジェロが続けた。

「逃げてる時に通報している人を見かけたから、多分更に面倒な事になるって思ったらしいぞ。実際そうなったな」

 レミにはわかっていたらしい、嘆かわしい未来。

「うぅー、教えてくれればよかったのにぃぃ」

「つーか、チンピラなんて一々相手にしてねーで、お前も帰ってくりゃ良かったんだよ」

「あ」

 そう言われてみればそうだ。アホだ。激しく落ち込むミナにアンジェロは呆れたが、こういうバカなところも面白いので気に入っているのである。

「今度は俺も付いてってやるから気にすんな」

「うぇーん、アンジェロー!」


 こうしてミナは、ついに前科者になった。

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