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本当の家族~最高のプレゼント~

――彼女の手を引いた。とても小さな手を引いた。彼女は驚いていたけれど、決して嫌がりはせず、話そうとはしなかった。

健太と護は相変わらず言葉を発さず納得を行かない顔をしながら、こちらを睨んできている。

そんな重苦しい空気ののまま、とうとうそれぞれの家についた。


俺は自分の家なのに、インターホンを押すという奇怪な行動に打って出た。もちろん、いつもならこんなことはしない。だが、今回は彼女がいるので話が違う。いきなりただいま~、なんて言って入って見知らぬ女を家の中に連れ込んだりしたら、母さんと父さんはびっくりして倒れるに違いない。なにせ、今まで俺にそんなことがなかったのだから。

だから、俺は少しでもその驚きを和らげられるようにと、自分のない頭なりに考えて出した結論がこの自分の家なのにインターホンを押すという、奇怪な行動なのであった。


玄関のインターホンを押すと、俺の緊張とは裏腹に、まるでその緊張をあざ笑うかのような軽い気楽な音が家の中に響く。

「は~い」

ガチャ。母さんの軽快な声と共にドアが開かれ、その瞬間、母さんの顔は驚きに固まった。

「早苗~、どうしたんだ?」

俺の親父―明彦父さんが母さんの様子を確かめに来る。

「・・・・・・・悠斗、誰だい?その娘は。」

やはり、父さんも驚きが隠せないようで、顔が引きつったまま硬直していた。

果たして、彼女の待遇を素直に話したところで母さんと父さんは信じてくれるだろうか?そもそも、俺自身がまだまだ半信半疑だというのに・・・。

とても信じてくれるとは思えなかったが、それでも話さなければならないことに変わりはないので、俺はとりあえず彼女のことについて事情を正直に話すことにした。


「あのね、父さん、母さん、落ち着いて聞いて欲しいんだ。」

「えぇ」

「あぁ」

彼女は相変わらず居心地が悪そうに俯いたままだ。

「彼女、記憶喪失みたいなんだ。自分の名前も、両親のこともわからない。分かっているのは、自分がずっと前からある友達を待っていることだけらしいんだ。」

「・・・そんな話を信じろというのかお前は。だいたい、そんなの根拠はどこにあるというんだ?」

やはり信じてくれなかったか・・・。そりゃそうだよなぁ、こんな話。現実的に言ったらありえないもんなぁ・・・。だけど、今実際に目の前でその話はありえる話になってるんだ。

だから、俺だってここで引き下がるわけにはいかない。絶対に説得するんだ。

「正直俺だって半信半疑だよ、父さん。だけど、そんなことを抜きにしたって、こんな顔をしてる彼女を、俺は放っておけないんだよ。だから父さん、母さん、彼女を一晩だけでもいい、ここに泊めてあげてくれないかい?」

そして、俺は彼女にも話した、俺自身の善意の押しつけについて話す。

「もし俺のこの善意の押しつけを気に入ってもらえたなら、彼女が自分のことについて思い出すまで、俺たちの家族としてここに置いてあげて欲しいんだ。気に入らなかったなら・・・彼女と話し合って、今までどおり一人で友達の帰りを待ってもらうかどうか、決めてもらっても構わない。」

もちろん、最初から父さんと母さんの答えを、俺は分かっていた。この人たちは優しい人だ・・・。そして、昔から俺の言うことは否定することはしなかった・・・。否定して欲しい時だって否定することはなかったんだ・・・、そんな、優しくて誇れる両親だから、俺は2人の答えを最初から分かっていたんだ。

「もちろん、いいわよ。」

「あぁ、そういうことなら分かった。俺たちは今から家族だ。いいかい?お嬢ちゃん。」

父さんの問いかけに、彼女が初めて顔を上げた。

「・・・・・・・・・・い・・・いいの・・・・・・ですか・・・・・?」

「当たり前よ!私たちは今から家族よ。」

「あぁ・・・俺たちは今日から家族だ。だが、お前が何かあったらこの娘を守ってやるんだぞ、悠斗。」

「・・・ありがとう!父さん、母さん!」

「・・・・ありがとう・・・ございます・・・・。」

顔を見合わせる俺と彼女。そこには、彼女の少しだけど、はっきりとした、微笑みではなく―――笑顔があった。

そんな彼女の表情に安心していると、不意に母さんが声を上げた。

「ただし、条件がひとつあるわ」

「ん?条件?」

「・・・なん・・・でしょうか。」

「私たちは今日から家族。家族には遠慮しないこと。いい?これができる?」

「!・・・・・はい!よろしくお願いします・・・!」

それが彼女への条件だった。そして・・・俺にも条件が下った。

「それと悠斗、あなたが名前をつけてあげなさい。その娘が、本当の名前を思い出すまで使えて、そして、その娘が自分のもうひとつの名前として最高に誇れる名前を・・・あなたがつけてあげなさい!いいわね?」

俺が・・・名前を・・・?すごい難しそうだな・・・。だけど、そんなことも言ってられないか。やってやる!最高の名前を、この娘にプレゼントしよう。

「うん、分かったよ、母さん。」


俺は、後ろで少し距離を保ちながら佇んでいる彼女に手を差し伸べる。戸惑い、俯いている彼女の暗闇に、すこしでも光を当てられ、導けるように―

彼女は、俺の手を戸惑いながら、少しだけ、ほんの少しだけ力をいれ、握り締める。初めて彼女との距離が縮まった瞬間だった。

そして彼女は・・・俯き、まだ暗い顔をしながらこう言った。

「・・・・・・これから・・・・よろしくお願いします・・・・ね?」

彼女はまだ納得していないけど・・・。彼女と父さん母さんが本当の決断を下すのは明日の朝だけど・・・今日は、母さんの最高の夕飯を口にしながら楽しい話をたくさんしよう。

彼女が俺たちの本当の家族になれるように。

そして、最高の名前を彼女にプレゼントしよう。彼女が、俺たちの本当の家族になろうと思ってくれるように。


「・・・・さぁ、いこう。」

「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・。」

今回は彼女が初めて悠斗の家にあがる瞬間までを書かせていただきました。

ここから、悠斗たちと彼女の生活は始まります。どうだったでしょうか?


今回は話的にはあまり進展しませんでしたね。いや、これでも他の方の作品と比べてかなり急ぎ足ではあるのですが・・・。

とりあえず、もっと描写を丁寧にしてきたいと思っていますね。

ではでは、これからも応援よろしくお願いします。

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