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善意の押し付け

「君の名前は・・・?」

「私の名前は・・・」

俺は、彼女の言葉をじっと待つ。待ち続ける。だが、彼女は言葉を紡がない。

時が止まる。きまずい・・・なにか・・・なにか口に出さなければと思うのだが、彼女は一生懸命口をパクパクさせ、名前を言おうと頑張っているから、話しかけ用にも話しかけられない。

―もしかして、喋れないのか?いや、でもさっきは普通に喋ってたからそれはありえないか。

頭の中で考えていると、途端に彼女に異変が起きた。


「くっ・・・い、痛っ!・・・はぁ・・・はぁ・・・」

頭を抑え、しゃがみこんでしまった彼女。俺はどうしたらいいのか分からずに、しどろもどろするしかなかった。

とにかく、彼女の側に近寄り、彼女と同じ視線になるよう俺も屈みこんだ。これで少しは安心してくれるといいんだけど。

「どうしたんだ!?大丈夫か・・・!無理に言わなくていいから・・・な?」

「で・・・でも・・・!」

「とにかく!無理をしないで!」

「う・・・うん・・・はぁ・・・はあぁ・・・ありがとう・・・・だいぶ・・・・・・落ち着いた。」

彼女はどうして名前を言えないのだろう?記憶喪失か何かなのだろうか。

「ごめんな・・・無理をさせて・・・。あっ!俺は悠斗!ごめん・・・まだ名前を言ってなかったね。女の子から先に名前を言わせるなんて、失礼だよな」

「・・・・ううん・・・いいの・・・・・。なんだろう・・・・キミ、どこかであったことあるような気がする・・・。」

彼女からの唐突は言葉に、俺は戸惑いを隠せなかった。

「と、とにかくさっ!こんなところにいないで、向こうのほうに、友達が2人待ってるんだ!そっちにいかない?

そして彼女も、俺の唐突な言葉に戸惑いを隠しきれなかったようだ。

「えっ・・・で、でも・・・私は・・・」

「大丈夫!なんなら、俺も毎日ここに来て、付き合うからさ!君は、いつもひとりでここにいたんだろ?」

「う・・・うん・・・。ずっとひとりで・・・誰ともはなさず・・・・・寂しかった・・・・・。」

――こんなかわいい娘が、ひとりでこんな孤独な場所で友達の帰りを待っているんだ。ほっとけるわけがない。そしてなによりも、俺は、この娘の傍に居てあげなきゃいけない気がするんだ・・・。

「もう、寂しくなんかさせないから・・・。俺が、その友達が帰ってくるまで、ずっと一緒にいるから、二人で待ってよう?」

「うん・・・。ありがとう・・・。」

その時、彼女がほんの少しだけ、しっかり顔を見ていないとわからないほど、少しだけ微笑んだ気がした。その微笑みに、俺は、言いようのない切なさを覚えた――。

彼女と少し距離を取りながら、特に会話もなく健太と護のところに帰ってきた。


「あっ!悠斗!どこいってたんだよぉ~!」

「ごめん、健太。」

「ん?ねぇ、どうしたの?その女の子・・・すごい可愛いけど。」

すごい可愛いけどって・・・お前・・・。

そんな護に呆れながら、俺は二人にこの娘のことを紹介する。

「なんかさ、向こう岸のほうに1人でたってたんだ。だからさ、ちょっとナンパしてきた!!」

「・・・・?ナンパって・・・なに・・・?」

ほんとに、心の底から分からないような顔をして、彼女はキョトンとしていた。

「おいおい悠斗・・・お前こんなナンパもわからないような純粋な嬢ちゃんをかっさらってきたのかよっ!」

「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ!」

「最低だね、悠斗」

「んな護まで・・・」

そんな話をしていたら、いつの間にかあたりは夕暮れに染まっていた。綺麗な夕暮れ。この田舎の島が他所に自慢できる、唯一の代物だ。

そんな夕日を背に、彼女はつぶやいた。

「あの・・・私・・・そろそろ向こう岸に戻りますね・・・・。」

「え?自分の家には帰らないのかい?」

俺は心配になって、ついつい余計な口を聞いてしまった。

「わからないんです・・・・・・誰が親なのか・・・・・。私が覚えていることは・・・・・・・友達の帰りを待っているということだけ・・・・・。」

友達の帰りを待っているということしか分からない?・・・そんな馬鹿な・・・。じゃあ今までこの娘は、一人で何日もあの向こう岸にいたというのか・・・?

こんな女の子が一人でいていいよいうな場所じゃない!特に夜はそうだ。

勝手な善意の押し付けだけど、俺の家だったら、部屋の空きはある。なんなら母さんのところで寝てもらうのもいいだろう。

そう考えて、俺は彼女に問いかけてみた。

「ねぇ、流石に危ないからさ、これは俺の勝手な善意の押し付けにすぎないんだけど、俺の家なら部屋の空きはある。この海からはちょっと遠いけどさ、向こう岸の方に一人でいるよりは絶対にマシだと思うんだ。」

「だからさ、うちに・・・来ないかい・・・?」

俺の突然の問いかけに、彼女は目を少しだけ見開かせ、すぐに俯いてしまった。

「・・・・・私は・・・・誰かのお世話になってはいけないんです・・・・・。だから・・・・・。」

「おいおい、悠斗、俺たちを差し置いてナンパなんかしてんじゃねぇよ!」

「最低だね、悠斗は。」

「うるせぇよおまえら!」

とにかく今はこいつらに構っている暇はない!なんとかして、彼女を説得せねば。善意の押し付けだとしても、あんな薄暗いところに一人でなんて置いておけるわけがない。

「それじゃ・・・私はこれで・・・・・。

彼女は俺たちの方を見向きもせずに向こう岸に向かって歩き始める。もうこうなったら強硬手段に出るしかないな・・・。周りからどう思われてもしょうがない。

「・・・ああああぁぁ!もう!」

俺は彼女の手を掴む。彼女の手は、とても細くて力を入れると折れてしまいそうなほどひ弱な腕だった。」

「・・・・・・っ!?あ・・あの・・・何を・・・?」

「・・・・ごめんな。こんな誘拐犯みたいなことして。だけど、君のことを放っておけないんだ。今夜だけでいい、俺の家に泊まってくれないかな?この善意の押しつけを、もし君が気に入ってくれたなら、いつまででも俺の家にいてくれていい。気に入らなかったら、向こう岸に帰ってくれていいから・・・・だから・・・・お願い。」

それから、少女は口を開かなかった・・・。健太と護も、納得がいかないような顔をして俺を睨んできた。


ごめんな、2人とも。だけど、俺はこの娘を放っておけないんだ・・・。2人ならそれをわかってくれてると思うから、俺はこんなことができたんだ。

どうも。今回は少女が悠斗に強制的に家に連れて行かれるまでを描きました。

今回は悠斗の「善意の押し付け」が後半に全面的に押し出されています。きっと読者のみなさまから、悠斗は嫌われるんだろうなぁwとか思いながら書いていました。

さてさて、まだこの時点では親友であるはずの健太と護がめっちゃ脇役ポジションですね。

親友ポジションはこういう物語において、かなり重要なポジションを占めることが多いので、2人にもなんらかの活躍を与えてあげたいと思っています。

それはいつにいなるかはわからないのですが・・・。

ではでは、このへんで失礼させていただきます。これからも、応援よろしくお願いします。

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