第1話 幼なじみ
「見つけた!」
「な、なんで…?」
メアリーは勢いよく扉を開けた人物を見て、目を見開く
「何でライタがここにいるの?」
【第2章】
第1話 『幼なじみ』
イオスは自分よりも一回り体格がある男を見上げ、眉間にしわを寄せた
「グラン、この張り紙をつくったのはお前か?」
イオスやフウヤとは対象に、筋肉質な身体を持つ【グラン】と呼ばれた男は自慢気に言った
「はい、フウヤと一緒につくりました!!」
人選ミスだ……
イオスは目を輝かせて言うグランを見て思った
【グラン】は【フウヤ】の弟で、観察や尾行に対しては天才的だが、兄と同じ天然である
フウヤと同様、銀色の髪に、青い目を輝かせて自分を見る【グラン】に向かって、イオスは残酷な言葉を言い放つ
「今すぐ張り紙を剥がせ」
「な……!?」
その言葉を聞き、グランは絶望的な顔をした
「隊長酷いです!俺、徹夜でこれをつくったんですよ!?」
ああ、だからグランの目の下が黒いのか
確かフウヤの目の下も黒かったな
イオスは兄弟の目の下が黒い理由にひとりで納得した後、グランに張り紙を差し出した
「これを見ろ」
突然剥がした張り紙を渡されグランは首を傾げた
「確かこの部分は俺が担当しました、ここがどうかしましたか?」
「ここに、メアリー様の本名が載っている」
イオスが指した所に【メアリー・リアンス】と記されている
何故それがいけないのか、グランは首を傾げた
「リアンス家は、セントリアの大富豪…その娘が誘拐されたと世間に知られては、問題になる…もう遅いが…」
村の人が張り紙を見てひそひそと話をしているのに気づき、グランはハッとする
「それに大富豪の娘なら、狙われる可能性もある…我々の任務はメアリー様の保護だ、ゆめゆめ忘れるな」
「はい、申し訳ありませんでした!」
素直に頭を下げて謝る部下に「終わったことだ」と告げると
張り紙をぐしゃりと丸めた
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「くそ、宿の周りが完全に包囲されている!!」
軍人を避けながら宿まで辿りついたテッドは、宿を取り巻く軍人を見て舌打ちをした
「こりゃ、メアリーが連れ戻されんのも時間の問題だな」
いつかこうなるとわかっていたし、俺とメアリーは赤の他人だ
(下手をすれば俺まで捕まり牢獄行き、それにあのわがまま娘をそこまでして助ける義理もねーしな)
「悪いがお前の旅はここまでだ、あばよ!」
そう言って去ろうとした瞬間、ふと昨日に見た、殴られて泣き叫んでいるメアリーの姿が頭を過ぎる
(助けてッ!!)
「やめだやめ、俺には関係ねぇ!!あれはメアリーの問題だ」
昨日の出来事を頭から打ち消すようにテッドは呟く
(もう、あんな思いをするのはごめんだぜ!あの時、ずるくても賢く生きようと決めたじゃねーか)
テッドはぐっと拳を握りしめると、走って乱れたマフラーを直してその場から立ち去った
−−−−−−−
「うぅ…見渡す限り、軍人だらけ!」
メアリーは窓を覗くと、泣きそうな顔をしてライタを見た
「ライタ、一体どうなってるの!?」
ライタから外に張ってある張り紙の事や、村に広まっている話を聞いて私は唖然とした
どうやら私は、誘拐されたという事になっているらしい
(確かに、リアンス家の娘が家出をしたというよりも、誘拐にしておく方が、聞こえがいい……それにしても)
私はちらりと窓を見るが、テッドの姿が見当たらない
おそらくテッドは軍人を見て逃げたのだろう
その事に対しメアリーはホッとした気持ちになる
あのままテッドが宿にいれば、確実に彼は捕まっていた
(よかった、これ以上テッドに迷惑をかけずにすんで)
後は私が自分から出ていけばいい話だ
「ライタ、仕事の途中なのに来てくれてありがとう!私のことは大丈夫だから、早くあなたもここから離れて!犯人だと間違われるわ」
張り紙を見た後、メアリーが宿にいると噂で聞いてここまで来てくれたらしい
テッドに迷惑をかけた上にライタにまで心配をかけてしまった
これ以上、自分のわがままで周りに迷惑をかける訳にはいかない
メアリーが決意をして椅子から立ち上がった時だった
「待てよ」
ライタに声をかけられメアリーは振り返った
「ライタ?」
「戻るつもりか?あの屋敷に」
「うん、こうなることは運命だったんだよ、私が戻らなければ余計誰かに迷惑をかけ………」
メアリーの言葉を最後まで待たずに、ライタはメアリーの腕を掴むとじっと顔を覗きこんだ
「真っ青な顔しやがって…そんな状態のお前を一人置いて逃げれるかよ!腕だって震えてるじゃねーか!!」
「ライタッ、痛いよ!」
ぐっと腕を強く捕まれメアリーは顔を歪めると、ライタは慌てて腕を離す
そして、一瞬ばつの悪そうな顔をすると「悪い」と言った
「ううん、いいの…気にしないで」
昔からライタはそうだった
不器用で荒々しくて、恐い印象を持たれがちだったけど、本当は人の気持ちには人一倍敏感で優しい人だった
お父様はライタを悪く言うけど、私はそんなライタが大好きだった
お見合いが成立すると、おそらくライタとは会えなくなるだろう
お父様が許してくれる訳がない
「ありがとうライタ、でも私…行かなくちゃ」
私はライタに背を向けると、急ぎ足でドアへと向かった
「…………っ」
後ろで名前を呼ばれた気がしたが、私は振り返ることが出来なかった
「(泣いては駄目……せめて最後くらいは笑顔でさよならをしたい)…ごめんねライタ、本当にありがとう!こんな私なんかと友達になってくれて」
そう言って立ち去ろうとしてドアノブに手をかけた瞬間
再び声をかけられ、私は一瞬立ち止まる
「いいのかよ、お前はこれで…」
「うん、もう決まったことだから」
私はライタの顔が見れなかった
本当はいいはずがない、でもリアンス家に生まれてきた以上…
お父様の娘である私にはどうしようもできないこと
「本当に、これでお前はいいのかよ!?こんなに顔が腫れるまで殴られて、したくもないお見合いをさせられて……」
「ライタ……」
ライタに、昨日の夜の出来事を話した時、自分の事のように怒ってくれて嬉しかった
でもこれ以上この場にいるとライタの優しさが余計に辛くなる
「ふざけるな、メアリーは道具なんかじゃねぇ!自分の娘を道具として見ている親父の所に帰って、お前は幸せなのかよ!?」
「それは………」
口ごもる私に腹を立てたのか、ライタは私の肩を後ろから掴んだ
「メアリーがお見合いをして幸せになれるのなら俺は何もいわねーよ!」
ライタは鞄から、仕事着とマスクを取り出すとメアリーの正面へ回った
「俺に考えがある!ほぼ賭けに近いがな……」
「………?」
メアリーは仕事着とライタを交互に見て首を傾げた
「このまま屋敷に戻るか戻らないかは、メアリーの人生だ…お前が選べ」
ライタは立ちふさいでいた道を開けると、最後に付け足した
「自分のしたいようにすればいい…どっちを取るにしろ、俺はお前の味方だ!」
「………っ」
メアリーは顔をあげライタの顔を見た瞬間、今まで我慢していた分の涙が込み上げてきた
「お、おいっ!?」
自分の顔を見て泣いたメアリーを見てライタはぎょっとすると、消え入りそうなメアリーの声が確かに耳に届いた
「ライタ、私は……」
−−−−−−−−
「フウヤ先輩、そろそろ突入した方がよろしいのでは?誰も出てきませんし、もしかすると逃げたのかも……」
フウヤは少し考える仕種をすると
「確かこの宿は裏口もないし出てくるとすれば正面しかない、確か宿主はメアリー様の写真を見て我々に知らせてくれたのだな?」
「はい、確かにこの写真のおなごだとおっしゃってました」
フウヤは部下から写真を受け取ると、ため息をはく
「やれやれ、人騒がせなお嬢さんだ…これでは、らちがあかないな」
フウヤは片手をあげると、周りのものに指示を出した
「突撃だ、この写真の方を保護しろ!犯人探しはその後だ」
フウヤの掛け声と共に、宿の中へと軍人の群れが入っていった
確か宿主殿の話では、客はメアリー様達だけだといっていた
思ったより早くにこの事件が片付きそうだ
フウヤは口元に笑みを浮かべると、イオスに連絡を取る
「隊長、今宿の中へ突撃しました!」
【ご苦労だった、フウヤ!しばらくしたら俺もそちらへ向かう、それまで待機をしていろ】
「はい!」
フウヤは返事をした後、無線を切り、自分も宿の中へと入っていった
【次回予告】語り:メアリー
今まで私は、お父様のひくレールの中で生きていた
このまま屋敷に戻っても、お父様から逃げ続けても
私に待ち受ける運命は残酷なもの……
だから後悔しない道を選びたい!
「ごめんなさい・・・やっぱり私は------」
第2話『人生の選択肢』
これからも、人生で重要な選択肢があるだろう
その時も、後悔をしない道を歩き続けたい……
イオスを書くのが最近面白いです(笑)