【第2章 プロローグ】
「ふう…やっと着いた」
「遅い!あまりぼやぼやしてると、置いていくからな」
「待ってよ、テッド」
【ガンジス村】
セントリアから森を抜け東へ行った所にある小さな村で、ライタが住んでいる所だ
(ライタはこんな遠い所から毎日迎えに来てくれていたんだ)
メアリーにとって、ライタが毎日のように迎えに来てくれる
それが日課となり、当たり前だと思っていたので、彼に対して申し訳ない気持ちになった
「とりあえず、宿を取らなきゃな!場所はわかるか?」
「うん、まかせて!」
後でライタには事情を説明して、お別れの挨拶をしなくちゃ
しばらく会えなくなると思うから…
(寂しくなるけど仕方ないよね)
メアリーは物思いにふけっていると、テッドから鍵を渡された
「先に部屋に入ってろ、俺は飲み物と朝食を買ってくる」
「ありがとう」
私は鍵を受け取ると、テッドにお礼をした
「確か、近くに自販機があったな…!何がいい?」
テッドに言われ、私はハッとする
「あの…お金」
昨日、いきなりだったからお金はおろか、何も持ってきてない
テッドはメアリーの言葉を聞くと、キョトンとした
「お前、変な所で律儀だな!一緒に旅をするんだ、自分の分だけって訳にはいかないだろう」
「でも……」
遠慮をするメアリーを見て、テッドは苦笑した
「金のことなら心配するな、朝から何も食わず飲まずで倒れられた方が迷惑だからな」
「迷惑って……」
迷惑という言葉が私の胸に突き刺さる
確かにそうだ
このまま遠慮して、何も食べなければ余計テッドに迷惑をかけてしまう
そう思った私は、テッドに甘え、奢って貰うことにした
「わかったわ!じゃあパンと飲み物は…甘めのやつを頼んでいいかしら」
「よし、わかった!じゃあ買ってくる」
そう言ってテッドが出ていくのを見送ると、私は椅子に腰かけ、窓の外を眺めた
(今更だけど、テッドは何をしに炭鉱の村へ来たのだろう…)
私がぼんやりとしている中、村の中で騒ぎが起こっているなんて
夢にも思っていなかった
【第2章 人生の選択肢 】
第1話 『プロローグ』
「まじかよ…」
朝食を買いに外へ出たテッドは、帝国軍人に遭遇し、質問を受けていた
「この娘を捜しているのですが、心あたりはありませんか?」
やべーぞ、この写真…どっからどう見てもメアリーじゃねーか!
(雰囲気からして、メアリーを連れ戻しにきたのか!?)
テッドが冷や汗をかいて固まっていると、後ろからバタバタと騒がしい足音が聞こえた
「イオス隊長、目撃情報が入りました!!」
「!?」
銀色に輝く髪をなびかせながら、こちらに走ってくる部下に向かってイオスと呼ばれた男はうなづいた
「ご苦労だったな、フウヤ!その場所へ案内しろ」
「はい!あと、もうひとつ報告が……あ!」
「………?」
フウヤはテッドを見た瞬間、目を見開き声をあげた
「隊長、この男です!こいつがメアリー様を誘拐したんだ」
「なっ……」
フウヤに指を指され、テッドはギョッした
「それは確かなのか?」
イオスにじっと見つめられ、俺は咄嗟に否定をした
「おいおい、そりゃねーだろ……つかいきなり人に指をさした上犯人扱いするなんざ失礼だな、お前……」
「失礼も何も、お前が犯人だろ!イオス隊長、今すぐこいつを……」
「よせ、フウヤ」
今すぐにでも、テッドに向かって斬りかかってきそうな勢いの部下に向かってイオスは制止をかけると、フウヤは目を見開いた
「何故ですか!?犯人は目の前にいるのに、このままこうしてる間にもメアリー様は……」
「まだこの男が犯人だと決まった訳じゃない…」
「う……」
フウヤは罰が悪そうに、イオスを見るとじろりとテッドを睨んだ
「しかし隊長、目撃情報でメアリー様と一緒にいた男は金色の髪とエメラルドグリーンの瞳をもっただらしない男だと宿主から聞きました」
(だらしない以外、俺の特徴と全部一致してんじゃねーか!)
テッドは冷や汗をかきながら、慌ててフウヤの言葉を遮った
「待てよ、だからって何で俺なんだ!?金髪で緑色の目のやつなんざそこらに沢山いるだろ!?」
「ムキになって否定する事態が怪しいんだよ!それに、僕は金髪で、緑色の目を持った男は貴様が初めてだ!!」
くわっと瞳孔を開かせて自分にくってかかるフウヤをめんどくさく思ったテッドはため息をはく
「うるせーよ、白髪!ムキになってんのはお前の方じゃねーか」
「誰が白髪だっ!!」
フウヤが腰に手をかけ、刀を取り出そうとした瞬間だった
「いい加減にしろ…」
地の這うような低い声が聞こえ、フウヤの肩が震えたと同時に、テッドもぞっとする
「イ、イオス隊長…」
フウヤは青い顔をして振り返ると、イオスは静かな声で言い放つ
「私闘をしたいなら帰れ、任務中だ」
「…申し訳ありません」
フウヤは刀から手を離すと、ぐっと拳をにぎり締めた
「実際お前は、この男がメアリー様を誘拐した現場を見てはいないのだろう?特徴が一致するからだといって犯人だと決めつけるのは早いと思うが…」
イオスは言葉の途中でちらりとテッドを見ると「フウヤ、特徴以外にも情報はないのか?」と言った
「あります、確かリアンス様が犯人の似顔絵を書いて下さりました」
フウヤは懐から紙を取り出し、イオスに差し出す
(似顔絵って…そんなもので犯人が見つかるのかよ!何だか面倒なことに巻き込まれる前に、立ち去るか)
「似顔絵…か、とりあえず見せてみろ」
イオスはフウヤから紙を受け取り広げた瞬間、目を見開いた
「これは……!」
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「何だかやべー事になったな……」
イオスとフウヤという奴らの前から立ち去れたのはいいが
「こうなりゃ、メアリーが見つかるのも時間の問題だな」
村中に張られたメアリー捜索の為の写真を見て、テッドはため息をはいた
「こうなりゃ、やつらより先に宿に戻らきゃならねーな」
面倒くさそうなことになりそうだぜ
テッドはメアリーのいる宿へ向かって走り出した
(間に合うか、それとも、もう既に…)
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その頃
自分のまわりでそんなことが起こってるなんて夢にも思ってなかった私は、椅子に座り呑気にくつろいでいた
「テッド遅いな…お腹すいちゃった」
ひとりで呟いていた時だった
ドンドンッ
「…え」
突然扉が乱暴に叩かれ、私はビクリと震えてしまった
ドンドンッ
「び、びっくりした…テッド、そんなに叩かなくても鍵開いてるわよ」
私は鍵を開いてる事を話した瞬間、乱暴に扉が開かれた
「………え」
「見つけた!」
ずかずかと中へと入ってくる人物を見て、メアリーは驚きで目を見開いた
−−−−−−−−−−−
「フウヤ……」
「はい、隊長」
イオスは似顔絵の紙をフウヤの手に渡す
「確かにこの絵を見ると、さっきの男の特徴と一致しているな」
「さっきって……あ!そういえば、あいつ!何処に行きやがったんだ!?」
辺りを見回すフウヤを見て、イオスは心の中でため息をはいた
「慌てなくても先程の男の後をつけるよう、グランに頼んでおいた」
その言葉を聞き、フウヤは目を見開いた
「いつ、そんな事をしてたのですか?」
「…あの男がここから立ち去る瞬間だ」
ああ、だからあの時紙をみながら一人でぶつぶついってたんだ
でも、まだひとつ納得が出来ない部分がある
「では何故みすみす、あの男を行かせたのです?隊長も疑っていたなら、あの場でもっと尋問をする必要があったのでは?」
「…………」
確かにフウヤの言うことも一律あった
しかし、犯人が確定しない以上、むやみに取り押さえる訳にもいかない
それに……
「捕らえた所で、あの男が犯人ではなかった場合……どうするつもりだ」
「それは……」
イオスの言葉で口ごもるフウヤにさらに続けた
「あの男が犯人ならいずれ、メアリー様と接触するだろう…」
「あ!」
イオスの言葉でフウヤは声をあげた
「成る程、ここで捕まえるより奴がメアリー様と接触した所を二人まとめてって作戦ですね?さっすが隊長!考えることが違いますね!!」
「だから奴が犯人かどうか確定してないと言っただろう…」
イオスはあきれたように心の中でため息をはく
しかし、逃げる瞬間のあの身のこなし……
ただものではない事は確かだ
おそらく……
「そういえば隊長!」
フウヤに声をかけられ、イオスは「何だ」と振り返る
「僕達はあの男をつけなくてもても、いいのですか?グランだけでは不安です」
「ああ、お前は自分の仕事をしろ…グランとは別に宿にも隊員をおくった、時期に連絡がくるはずだ」
「わかりました!」
フウヤは元気よく返事をすると、自分の部隊へと戻っていった
「頃合いだな……」
イオスは口元にある無線に向かって話をした
「グラン、聞こえるか?例の男が不審な動きをしたら連絡しろ」
【イ、イオス隊ちょ…すみません、奴の……速過ぎて…見失……】
「…どこへ向かったかわかるか?」
【北の方で見失いました】
「北といえば、炭鉱場と宿しかないな…ご苦労だった!お前は俺と村の入口の警備を頼む」
【はい!】
イオスは無線を切った後、視線を感じハッとする
「お母さん、あの人の服装変。夏なのにマフラーしてるー」
「みこと、見てはいけません!」
「それに、一人でぶつぶつ何か呟いてたよ?」
「関わっては駄目、行くわよ!」
「えー」
「……………」
ガンジス村の入口付近で、自分から逃げるように去っていく親子を見守りながら、立ち尽くすイオスの姿をグランが目撃してしまうのは、数分先のことだった
帝国軍人メンバーも実はお気に入りです!
また番外編で【イオスside】とか書きたいなぁ・・・(いつか)