第7話 疑問
【ホテルの部屋の中・・・】
ドンドンッ
(どうしよう・・・)
扉が叩かれ、メアリーはごくりと唾を飲み込むと、部屋にあった物干し竿を握りしめた
(相手はフウヤさん・・・死にもの狂いで抵抗しないと、この前の時のようになってしまうわね)
おそらくこのまま閉じ籠っていてもフウヤは鍵を抉じ開けてくるだろう
しかもここは3階、窓から逃げることも出来ない
(テッドは帰ってこない・・・もしかして誰かとたたかっているのかも!どっちにしろ、ぶつかることになるなら先手を打ってやる!)
メアリーは扉の前に立つと、覚悟を決めたように扉へ手を伸ばす
「・・・・すぅ・・・」
メアリーは大きく息を吸い、ドクドクと鳴り響く心臓の部分に手をあてた
(恐い・・・でも今は私がやらなきゃ!!)
そう決意したメアリーは鍵を開け扉が開いた瞬間、ぎゅっと目をつぶると、物干し竿を相手に振りかざした
第7話 【疑問】
「うわ、危なッ!?いきなり何するんだっ!?」
扉を開けた瞬間、物干し竿で相手を殴ろうとしたメアリーは、物凄い力でそれを受け止められる
「!?」
渾身の力で振りかざした竿があっさり両手で挟むようにして受け止められたことにも驚いたが、それよりも今自分の目の前に立っている人物を見て、更に驚号することになった
「嘘・・・ヒナ、ちゃん?」
「うん!そうだよ、こんばんはメアリー」
ヒナはそう言って挨拶をすると、白刃取りで両手にはさんだ竿をじっと見詰めた
「ちょっと待って・・・ここってオートロックの筈じゃ・・・それに、フウヤさんは?」
メアリーはきょろきょろと周りを見渡してフウヤがいないか確認するが、彼の姿はどこにもなく、メアリーはほっとする
「フウヤさんって、もしかするとさっきの銀髪の軍人さん?」
ヒナの問いかけにメアリーは頷くと、ヒナはにやりと不敵な笑みを浮かべて「ああ、あのナンパ野郎・・・」と呟く
「銀髪の軍人さんには、【とっておきのナンパスポット】へ案内してあげたから安心して?しばらくは身動き取れなくなってると思うよ!」
「・・・・・フウヤさんがナンパ?」
ヒナの言葉でメアリーは目を見開く
(確か、あの人ってイオスさんの次に真面目な人だよね・・・一体どうしちゃったのだろう・・・)
メアリーは「うーん」と頭を抱えていると、ヒナは困ったように苦笑する
そしてメアリーが握っていた洗濯竿を横へよけると、「それはともかくとして・・・」と口を開く
「駄目だよ、相手を見ずにいきなり攻撃しちゃ!もし私じゃなく、ホテルの人や関係のない人だったら訴えられている所だよ?」
「!」
ヒナの言葉にメアリーはハッとする
(そうだ、もう少しでヒナちゃんを殴ってしまう所だったんだ!?)
メアリーは自分のした行為を思い出し、手に持っていた竿をカランと音をたてて落とした
「ご、ごめんなさい!私・・・私っ!!」
見る見るうちに顔が真っ青になり、青い顔でガタガタと震え出すメアリーを見たヒナは、ぎょっとしたような顔をすると「ちょ、凄く震えてるよ!大丈夫っ!?」と慌て始めた
「ごめんなさい、ヒナちゃん・・・私、そんなつもりじゃ・・・」
顔を青くして、メアリーは頭を抱えるとその場でうずくまりだす
そんなメアリーをなだめるようにヒナは「あの~」っと声をかけると困ったように笑った
「大丈夫!別にどこも怪我してないし、そこまで気に病む必要はないよ!それに私、こういうのには馴れてるし、全く気にしてないから!!・・・ね?」
ヒナはそう言って、一生懸命のフォローするが、メアリーはそんな言葉にすら聞く耳を持たず「ごめんなさい」とひたすら謝り続けた
冷静になって考えると、洗濯竿で殴られたら普通は怪我だけではすまないだろう・・・
下手して打ち所が悪かったら相手を殺していたかもしれなかった
相手がフウヤにしろ、違う人にしろ、そんなことは関係ない!
「私、人を殺すとこだったんだ・・・」
そう呟いてメアリーは自己嫌悪に陥っていると、ヒナは「暗いッ!!」と言ってメアリーの背中をバシンッと叩いた
「ッ!?」
背中にくる強烈な衝撃に、さすがのメアリーもぎょっとすると、ヒナはそんな彼女に構わず話を続けた
「前から思ってたけど、メアリーって自分のこと責めすぎ!!別に誰も死んじゃいないんだし、そんなうじうじしなくてもいいんじゃないかな!!」
「うじうじって・・・」
メアリーがその言葉に思わず下を向くとは対象にヒナはにこりと笑う
「それに、帝国軍人に狙われているんでしょ?そりゃあんなおっかない連中に追われてたら気が動転くらいするよ!」
「!?」
ヒナの言葉にメアリーは目を見開くと「何故そのことを!?」と声をあげる
「しッ、声が大きい!!」
ヒナは慌てて自分の口を塞ぐメアリーを見て「ここで話すような話題ではないね・・・」と呟くと、苦笑しながら言った
「ねぇ、今から部屋上がってもいい?仕事の帰りにせんべいを貰ったんだ、一緒に食べようよ!!」
(どうしよう・・・勝手に部屋にあげてもいいのかな?)
メアリーはちらりとヒナを見ると、彼女は人懐っこい笑顔で「駄目?」と首を傾ける
「うーん」
そんなヒナを見てメアリーは更に首をひねらせるが、よくよく考えるとヒナのことはテッドもよく知っている
(ジークさんもいるけど、ヒナちゃんなら大丈夫だよね?)
そう思ったメアリーは玄関の靴を並べ、「ちょっと散らかってるけど、どうぞ」と言ってヒナを部屋の中へ招き入れた
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「なるほど・・・詳しくは話せないがさっきの女の子はあんた達の敵で、情報収集をしようとした所に私達が乱入した(?)と言う訳か」
「ああ、そうだ!勘違いも甚だしいぜ・・・」
アリスが去った後、大体の事情を2人に話したテッドは深くため息をはく
「すみません・・・変質者だと勘違いをして」
治癒術師は申し訳なさそうに謝ると、テッドは
「おい、痴漢から変質者にランクアップしてんじゃねーか!?」
と叫ぶ
「ランクアップって何だよ、つか痴漢や変質者にランクなんてあんのか?」
叫ぶテッドとは対象にライタは冷静に突っ込みを入れると、ナースも「うんうん」と頷く
「ったく、細かいことはどうでもいい・・・そんなことよりも・・・」
突然テッドが真剣な顔になり、3人はぎょっとすると、彼は難しい顔をしながら彼女らを見た
「なぁ、あんた達って医療従事者だろ!ひとつ聞きたいことがあるんだ」
「!?」
「な、何ですか?」
瞬時に変わるテッドの雰囲気に彼女らは戸惑いつつもそれに応じる
するとテッドはすこし考えるような素振りを見せるが、覚悟を決めたように2人を見ると、口を開いた
「デスキラーの毒について知りたいんだ!どんなことでもいい、少しでもそのことについての情報を知っていたら教えてくれないか?」
「・・・・・」
テッドの言葉を聞いたその部屋にいた全員は沈黙する
「・・・テッド」
その沈黙を破りライタが口を開くと、ハッと我に返ったように治癒術師とナースは顔を見合せた
「デスキラーって黒毒蜂のことかい?」
「ああ、そうだ」
ナースの質問にテッドが頷くと、今度は治癒術師の方が難しい顔をして言った
「なるほど、デスキラーに刺された患者はあなた達だったのですね・・・」
「いや、俺は刺されてねーよ」
テッドはライタを指さし「さされたのはこいつだけだ」と言うと、2人は納得したように頷いた
「なるほど、それでデスキラーのことを・・・・・・」
「・・・・・・・」
ナースと治癒術師の顔が一瞬曇ったのを見て、ライタは反応すると
「何か知っているな」
と呟いた
「そうなのか!?」
テッドはライタの言葉を聞き、彼女らを見ると治癒術師の方が口を開く
「はい、一応は・・・しかし・・・」
「?」
眉間にシワを寄せ、治癒術師は黙り込むが、ナースの方はずいっとテッドに近寄ると
「やめておいた方がいいよ!」
と言った
「何でだよ!?こいつの命がかかってるんだぞ!!何か知ってるなら勿体ぶらないで教えてくれよ!!」
『やめておいた方がいい』
ナースの忠告と治癒術師の様子を見ても、なお食い下がってくるテッドを見て、治癒術師は困ったような顔をすると「どうしましょう・・?」とナースに相談する
「ったく、仕方ないな!」
するとナースはあきれたを顔して、ため息をはくと
「世の中には聞かない方がいいこともあるのにな・・・」
と呟いた
「さっきから2人でごちゃごちゃいいやがって!一体、何なんだよ!?」
あまりにもくどく話をしようとしない2人に痺れを切らせテッドは不機嫌そうに顔をしかめる
「あんまりもったいぶってるとしまいにゃ怒るぞ!お前らが口を割るまで俺は諦めねーからな?」
そう2人に言った後、テッドはニヤリと不気味に口の端をあげ
「お前ら夜道には気をつけろよ・・・最近の若者は何をするかわかんねーからなぁ」
と囁くと不敵に笑った
ゾッ・・・
先ほどのふざけた雰囲気が抜け、一瞬だけ見えたテッドの底冷えするような冷たい瞳
それを見たナースと治癒術師は背筋が凍りつくような感覚に陥り、びくりと肩を震わせた
「ど、どうしましょう!?この人、本気でいってます!!」
治癒術師は恐ろしいものを見るような目でテッドを見ながらナースに耳打ちをすると、彼女は冷や汗をかきながらも鋭い目つきでテッドを睨んでいた
「・・・・・」
「・・・・・」
そしてしばらく部屋に沈黙が走り、ナースは小さくため息をはくと
「・・・わかった、話そう」
と諦めの混じった声で言った
「ティア!?」
おそらくナースの名前だろう、治癒術師はティアに向かって叫ぶと
彼女は「仕方ないだろう」と呟く
「この男は本気だ!私たちから情報を聞き出すまでこいつはしつこくつきまとってくるぞ!!それでもいいのか?」
「でも・・・」
治癒術師はちらりとテッドを見ると
「・・・確かにこの話を聞いて、あんな場所へ行こうとするバカはいない・・・ですよね」
とひとりでに呟く
(あんな場所?)
治癒術師の言葉に首を傾げるテッドとライタとは対象に、ティアは覚悟を決めたように口く
「あんた達は聞いたことがあるか?帰らずの洞窟の伝説を・・・」
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【その頃】
「ジークさん、もう出てきても大丈夫ですよ!」
メアリーはヒナが持ってきたせんべいをかじりながら、ジークの姿を探していた
「ジークさんってさっき一緒に部屋へ入っていった茶髪の人?」
ヒナはきょろきょろと部屋を見渡すと「出ていったのかな?」と首を傾げる
「ええッ、でも玄関はひとつしかないわよ!?一体どうやって・・・」
メアリーは難しそうな顔をして「出ていくなら一言声くらいかけてほしかったな・・・」と呟くと、ため息をはいた
「ふーん、玄関がひとつしかないのに、彼がどうやってこの部屋から出たのかあまり興味はないんだ・・・」
「ん?ヒナちゃん、何か言った?」
「いや、何も・・・ただのひとりごと!」
首を傾げるメアリーにヒナはにこりと笑いかけると、今度はカバンから金平糖の瓶を取り出してテーブルの上に置いた
「さてと、せんべいもなくなってきたみたいだし次はこれにしようか♪メアリーは甘いもの好き?」
金平糖・・・
メアリーは目の前に置かれた色とりどりの金平糖を見て「綺麗・・・」と呟くと、ヒナは嬉しそうな顔をして「でしょ!」と言った
「これもこの街の名物なんだよ!でもこの中に絶対ひとつ、はずれがあるんだ!!」
「はずれ?」
ヒナの言葉にメアリーは首を傾けると、彼女はにやりと不敵な笑みを浮かべると「うん」と頷いた
「ま、食べてからのお楽しみってやつかな?それじゃあ、瓶の蓋を開けるね!」
そう言ってラベルを外し、蓋を開けようとするヒナを見て
(そういえば、同じ年位の女の子とこうやって一緒にお菓子を食べたりするの、初めてかもしれないわね・・・)
とメアリーは顔をほこらばせるが、頭の中に先ほどジークが言った言葉が繰り返され
メアリーの笑顔に影が出来る
『嘘よ!確かにライタの様子はおかしかったけど、普通にベッドから起き上がって会話をしていたじゃない!!それなのにもう、半年も持たないなんて・・・』
『・・・デスキラーの毒は少しずつ身体を蝕むそうです・・・確かに今は身体に何も変化は見られませんが、いずれは・・・』
「・・・リー・・・・メアリー?」
「・・・!」
ヒナはメアリーの笑顔に出来た影に気づき、「どうしたの?」と首を傾ける
すると、その声にハッとしたメアリーは慌てたように「ご、ごめんなさい!」と言うと
「少し考え事をしてたの・・・」
と呟いた
「考え事・・・か」
ヒナは少し考えるようなしぐさをした後、メアリーの隣に座るとぽんと肩を叩いた
「メアリーが何に対してそんなに悩んでいるのかわかんないけど、私に出来ることなら力になるよ?・・・出来る範囲でだけどね」
「ヒナちゃん・・・」
メアリーは、穏やかに笑うヒナの表情を見てほっとしたのか、彼女の白い手を握りしめると「ありがとう・・・」と呟いた
そんなメアリーに対し、ヒナは「どういたしまして」と言うと
今度は、真剣な表情をして真っ直ぐこっちを見てきた
「で、さっきの話の続きなのだけど、どうしてメアリーは帝国の軍人さんに狙われてたの?」
「ッ!?」
突然のヒナの問いにメアリーはハッとしたように顔を上げる
すると、先ほどの温かい笑みを浮かべていたヒナはどこにもいず、心配そうな顔をしたヒナがメアリーを見つめていた
「なるほど・・・他の観光客と明らかに雰囲気が違っていたから気にはなってたのだけど、どうやら訳ありのようだね」
「・・・・え?」
他の観光客とは違う?どういうこと!?
その言葉に首を傾げるメアリーを見て、ヒナは困ったように笑うと「・・・自覚はないのか」と呟いた
(どうしよう・・・)
ヒナの問いにメアリーは思わず下を向くと、頭の中でテッドの言葉を思い出す
『いいか、何があっても【リアンス家】の話しはするなよ。相手が誰であってもだ!』
この村に入る前にテッドから言われたこと・・・
それが頭によぎり、メアリーはぎゅっと服の袖を握りしめると、再び顔をあげた
「えっとね・・・実は私、家出してるの!それで、お父様が私を連れ戻すよう軍人さんに頼んだみたいなんだ」
「・・・・・家出?」
その言葉にヒナは首を傾げると「何でまた・・・」と呟く
「えっと・・・」
その問いかけに少し肩を竦め「ちょっといろいろあって」と言って苦笑するメアリーに対し、ヒナは
「ふーん・・・」
と言うと、すっと青い目を細めた
(一応嘘はいっていない・・・)
しかし、明らかに挙動不審になりながら話す自分に対し、少し悲しげな表情をしたヒナを見ると
メアリーの心は痛む
もちろんメアリーはヒナを信頼していない訳じゃない・・・
しかし、真剣に自分を心配してくれている様子のヒナにリアンス家の話をすると、彼女までこの騒動に巻き込まれてしまうような気がした・・・
メアリーは自分の答えに納得していない様子の彼女に「ごめんなさい、ヒナちゃん・・・」と言うと、ヒナは少しさびしそうな顔をして笑った
「謝らなくていいよ、誰だって人に話したくないことくらいあるし、気にしないで?」
ヒナはそう言ってメアリーに微笑んだ後、ふと真面目な顔をして窓の外を見た
「・・・・・」
「ヒナちゃん?」
突然、真顔で窓の外を見るヒナを見て、メアリーは疑問に思って声をかける
「窓の外に何かあるの?」
「え・・・?あ、うん!ちょっとね・・・」
「?」
メアリーの呼び掛けにハッとしたヒナは、少し言葉を濁して返事をすると
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた!」
と言って笑った
「それより、今日はデスキラーが出たみたいだから、窓を閉めて寝た方がいいよ・・
・奴らは術者が命令した人以外刺さないといわれてるけど、念のため・・・ね?」
「何ですって!?」
メアリーはヒナの言葉を聞いて、大きく目を見開くと「それ、本当なの!?」と声を張り上げる
「え・・・?」
声を張り上げられ、今度はヒナが驚いたように目を見開くと
「本当って何が?」
と、メアリーに聞き直した
「今、デスキラーは【術者が命令した人以外刺さない】と言ったわよね!そのことよ!」
「ああ!」
メアリーの言葉に納得したヒナは「そうだよ」と頷く
「確かにあれは危険だと言われている生き物だけど、自然界で育つことは不可能だし、敵だと認識されない限りやつらに刺されたりなんかしないよ・・・ま、相当誰かに恨まれてる人なら別だけどね」
「え・・・」
術者の命令
自然界での繁殖は不可能?
その言葉にメアリーは絶句する
「ちょっと待って、それじゃあジークさんは・・・」
『ライタさんは、私を庇って・・・』
メアリーが先ほどのジークの言葉を思い出し、思わず声をあげたその瞬間だった・・・
「ギィイイイッ!!」
突然窓から、黒板に爪をたてたような音が聞こえ、メアリーは耳を塞ぐ
「な、何ッ!?」
あまりにも不快な音に、思わず耳を塞ぐメアリーに対し、ヒナは不敵に笑うと
「噂をすれば何とやら・・・だね」
と呟いた
「まさか・・・」
ヒナの言葉に慌てて窓を見ると、そこからうじゃうじゃとデスキラーが入ってきて、その光景を見たメアリーは、小さく悲鳴をあげた
「ひっ・・・!?」
メアリーの目にうつったのは、血のような赤が混じった黒いろの巨大な蜂
大きさからして、自分の顔一個分はあるだろう
「き、気持ち悪いッ!!」
デスキラーを見たメアリーは、悲鳴の混じった声でそう叫ぶと、その中の一匹がメアリーへ向かって飛んできた
「きゃあああああッ!?」
「危ないッ!?」
メアリーが悲鳴をあげるとどうじに、ヒナは懐から銃を取り出し、目の前の敵を打ち抜いた
そして、怯えて立ち竦むメアリーの前に滑り込むと、目の前のデスキラーに銃をつきつけ引き金を抜いた
「ギィイイイッ!!」
「ひ・・・」
まるで、自分の生命力までもが吸いとられると錯覚するようなデスキラーの悲鳴
無残に打ち抜かれた不気味な死骸・・・
斬られた箇所から吹き出す、どろりとした真っ黒な液体
目の前で打ち抜かれたデスキラーの死骸を見たメアリーは、あまりの残酷さに、口を手で覆った
(恐い・・・一体何が起こってるの!?)
メアリーは目の前で繰り広げられる惨劇に思わず目を閉じた瞬間、ヒナに手を掴まれた
「く・・・何でメアリーまで!?これじゃ拉致があかないな・・・」
「きゃあッ!?」
ぐいっと物凄い力で後ろへ追いやられ、メアリーは小さく悲鳴をあげると、ヒナは独り言のように呟いた
「悪い・・・テッド、後の始末は任せるよ」
「!?」
(後の始末って何!?)と言おうとした瞬間、辺りにヒヤリとした空気が立ち込めて、メアリーは身体を震わせると
ヒナは、デスキラーの大群に向かって走り出す
「・・・ひっ」
そんな彼女の大胆さと、ブーンとうるさく鳴るデスキラーの音に、メアリーはぎゅっと目を閉じると
ヒナはぼそりと呪文のような言葉を呟ぎ出した
「悪いけど一掃させて貰う!・・・我が手に宿りし氷の力よ、今ここにて解き放たん・・・」
「え・・・」
まるで呪文のような彼女の呟きに、メアリーは思わず声をあげると、部屋の中にも関わらず、周りの気温が一気に下がっていった
「まさか・・・」
メアリーは激的気温の変化に身体を震わせながらもテッドが結界術を使う時の感覚を思いだし、ハッとした
(もしかしてヒナちゃんもテッドと同じ・・・)
おそるおそる次の言葉を口にしようと、口を開く
「能・・・」
メアリーがそう言った瞬間、ヒナもどうじに息を吸い込んだ
「凍りつけ!【アイスストーム】」
ビュオオオオオオッツ
「ひゃあああああッ!?」
まるでメアリーの言葉を遮るようにして、あたりに吹雪のような雨氷が舞い散り、デスキラーの大群が氷漬けになっていく
「つ、冷たッ・・・!?」
その氷の破片が頬に触れた時、あまりの冷たさにメアリーはふと目を開けると
目の前の光景を見てあぜんとした
「な、なにこれ・・・」
キラキラとガラスのように綺麗な氷の破片が空気中に舞い散る中、先ほどまで活発に動いていた筈のデスキラーが全て氷漬けになっているのを見て、メアリーは目を見開いた
(ひょっとしてこれヒナちゃんが全部やったの・・・?)
あまりにも衝撃的な光景にメアリーが思わず腰を抜かしてしまうと、ヒナは少し困った顔をして手を差し出してくれた
「大丈夫?怪我はない?」
「え、ええ・・・」
メアリーは差し出された手を握り、立ち上がろうとした瞬間
ぐいっとヒナに身体を引き寄せられ、お互いが密着する形になった
「ちょ・・・ヒナちゃん!?」
突然の彼女の行動に、メアリーはびくりと身体を震わせると
「まずいな・・・こいつらまだ生きているのか」
ヒナはそう呟いた
「・・・え?」
ヒナが呟いた言葉を聞き取れず、何を言ったのか問おうとした瞬間、彼女はメアリーを担ぎ上げると、そのまま窓の淵に足をかけた
「え・・・ちょッ!?」
突然のヒナの行動にぎょっとしつつ、メアリーは(確か、前にもこんな展開があったような・・・)と心の中で思い、これから彼女のやろうとすることに嫌な予感を覚える
「まさか、ここから飛び降りたりとかは・・・しないよね?」
メアリーは昼間テッドがここから飛び降りて、大怪我をしたことを思い出し、顔に青筋を浮かべると(どうか、その予感が外れますように!)心の中で祈った
「・・・何言ってんの?玄関から脱出したら、ホテルの人達も巻き添えをくらうかもしれないでしょ!?」
しかし、その祈りは全く彼女には通用せず
「この数を全部相手しろって?冗談じゃないッ!?そのまさかに決まってるじゃんかッ」
と叫ぶと、ヒナは無惨にもメアリーを担いだまま、3階から飛び降りた
「きゃあああああああああッ!?」
「うわ、うるさッ!?黙ってなきゃ近所迷惑だよ!!」
もはやパニックを起こしているメアリーに、ヒナの声は届かず
遠くなる意識の中で、少女は思った
(・・・ああ、どうかこの恐ろしい出来事が全部夢でありますように)
ライタがデスキラーに刺されたことも
自分も恐ろしい虫に襲われた事も・・・
全部悪い夢だったらいいのに・・・
「くそ、リアンス家の犬共め!何故私だけじゃなく、メアリーまで狙うんだよ!?」
その時意識が遠のく私には、ヒナちゃんの呟きを聞き取ることが出来ず
近くで感じる彼女の体温を感じながら意識を失ってしまった・・・
-続く-