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明日へと続く物語  作者: カノン
第三章 海が見える街
15/23

第3話 接触

「凄い、ここのホテルのプライベートビーチって人が多いのね……」




まわりにいる海水浴目的の人達を見てメアリーは驚いているのに対し、ライタは手で内輪を仰ぎながら眉間にシワをよせると「そうだな」と言った




「ねえ、さっきから怖い顔してるけど、何か怒ってる?」



「別に…」



ライタはそういって辺りを見回すと



「テッドのやつ遅いな、どこにいきやがったんだ」



と呟いた










第3話 【接触】







「やべ、ひょっとして俺迷った!?」




ライタやメアリーに飲み物を買ってくると言ってあれから20分



いつのまにか見知らぬ場所へと来ていた俺は途方にくれていた




やべーな、大体ここの宿泊施設は街へ入ってすぐの所にあるから迷わずにすんだが


自分の方向音痴のせいで、広い街の中いつまでも宿が見つからなくて、近くにあった公園で野宿した経験がある位だ……



見知らぬ土地にガキ二人置いて何やってんだ俺は……


「そんなことになるならどっちか片方…いや、二人についてきて貰えばよかった」







ずーん


と道端で自己嫌悪に陥っていると、誰かに後ろから肩を叩かれた





旅人になってからよく人に絡まれてきた為、俺は警戒しながら振り向くと



そこには、笑顔で手を振る少女がいて俺はホッとした





「ヒナ!」



「あ、やっぱりテッドだ!こんな道端で立ち止まって何してるの?」



「えっとだな……」




助かったー


と思いながらヒナに、事情を話そうと口が動きかけるものの、何故か俺のプライドや理性が働き、咄嗟にあべこべな事を言ってしまった





「メアリーともうひとり連れがいるんだけど、そいつらが迷子になったんだ!ここの街は広いし、心配で探しにきたんだけどよ……」



「メアリーが?」



その話を聞いて深刻な顔をするヒナを見て、俺は


(やべ、格好つけて嘘ついてしまった)



と思っていると、突然ガシっと両手を掴んできて彼女は俺を真っ直ぐ見てきた



「それは大変!ここの街観光地なんだけど、意外に危ない通りとかあるんだよ!!ほら、ここから真っ直ぐに進んだ所もそう」




「マジかよ!?今まさに俺がいこうとしてた道じゃねーか!」



危なかった…と呟くテッドを見て、ヒナは苦笑すると



「この辺り、宿泊施設もないし、海の近く付近や観光場所とは雰囲気違うでしょ」



と複雑そうな顔をして言った




「確かに…」



いわれてみれば、この辺りは人通りが少なそうだし、薄暗い


その上、薄暗くそこらに落書きがあるわゴミが落ちているわでヒナのいう通り、あまり治安のよくなさげな場所だった




「メアリーって子、そんな所に迷いこんでなきゃいいのだけど…」




ヒナは「うーん、仕方ない」と呟くと、ポケットからコンパクトな四角い箱のようなものを取り出した




「?」





テッドは


(何をしてるんだ?)


とヒナの行動に首を傾けていると、彼女はその箱に耳をあてながら何かを話し出す



「申し訳ありません、少し急用が出来てしまって……明日ですか?大丈夫です」




「誰かと話をしているのか?」




ふと疑問に思い俺は声をかけてみると「シッ」と言われる



「はい、わかりました。それでは……」





話が終わったのかヒナはそれを再び懐にしまおうとすると、俺はその箱を指さした





「これは、無線のようなものなのか?」




「え……?」



よほど俺が言った事がおかしかったのか、ヒナはぽかんとして俺を見たが、すぐにいつもの笑顔で「はい」とそれを差し出してきた





「…………?」




差し出されても、それが何かわからない俺は、じっとその箱を眺めていると、ヒナは苦笑する






「実の所、私も持ちたてであまり使い方はわからないのだけど、これはケータイ電話といって、電話と同じ役割をするものだよ」




「電話?これが!?」




こんな小さなものが電話なのかよ!?




俺はマジマジとそれを見ると、確かに普通の電話のように、数字のついたボタンが並んでいる



ヒナは「うん」とうなづくと



「テッドの言う無線とほぼ役割は同じようなものかな」



と言った





「凄いな…なぁヒナ、この街は観光地の他にも機械も生産しているのか?」




「え!?違うよ!」



ヒナはとんでもないとばかりに首を横にふると少しあきれたように言う




「何いってんのさ!?ここで機械なんかつくったら海が汚れるじゃん!輸入だよ、輸入!!」




「成る程、輸入ねぇ」



「うん!」



ヒナは「そういうこと」というと、懐にケータイをなおした




なるほど、俺がぶらぶらと旅をしているうちにそんな便利なものが出来ていたのか……



俺達もひとつずつ持ってりゃ便利だろうな







ぼんやりとそんな事を考えていると、ヒナは俺の肩をガシっと掴んで眉間にシワを寄せた





「話はこれで終わりだよ!そんなことより、早くメアリー達を探さないと!私も手伝うからさ!!」




「……!?」



おそらくヒナは親切心でそう言ってくれているのだろう



しかし、今の俺にとってヒナとメアリーの所へ帰るのはマズイことだった




(やべー、迷ってたのが俺の方だったって……嘘をついたのがばれちまう!)



「別に大丈夫だ、これは俺達の問題………」




「全然大丈夫じゃない!!」



何とかして、ヒナを連れていくまいと俺は口を開くが、あっさりヒナは俺の言葉を遮り、クワッと瞳孔を開かせて睨みつけてきた




「この辺り、別名ナンパスポットだって知らないの!?治安の悪い所へ行かなかったとしても、あんなに可愛いい子を放っておいておいたら大変!!ナンパされまくりだよ!!」



「ナンパされまくりって大袈裟な…」


テッドはあきれたように言うと、ヒナは「本当だよ」と言った


「この前だって、ナンパ被害が多くて大変だったみたいだったし、注意するのにこしたことはないよ!」



あまりにも必死になって力説するヒナに、テッドはため息をはくとめんどくさそうに言った



「はいはい、そのことならメアリーだけならともかくもう一人おっかない顔の奴がいるからだいじょうぶだ!てか、何で会ってまもないお前が首をつっこんでくるんだよ・・・そもそもお前には関係な・・・」










ドゴォッ










「……………は?」









テッドが喋り終わる前に突風が走ったと思えば、左横で凄まじい破壊音がした!



「な、何が起こったんだ!?」



おそるおそる顔を横へ向けると粉砕した壁に白くて綺麗な手がめり込んでいて、テッドの顔に青筋が浮かぶ






「!?」



まさか目の前の可憐な少女が、壁を素手で粉砕するなんて夢にも思ってなかったテッドは、しばらくの間ぼーぜんとしたが


ヒナにに顔を近づけられハッとすると、胸倉を掴まれた









「つべこべいわず人の好意に甘えておけや、何かあってからでは遅いというのが分からねーのか?テメー、何の為にさっき仕事をキャンセルしたんだと思ってんだよ」






こ・・・こ







怖ええぇッ!?





先程の天使のようなヒナちゃんはどこに!?という程の彼女の豹変ぶりに、テッドは冷や汗をかく





「仕事をキャンセルしたって……まさかさっきの電話でか?」





彼女を刺激しないように恐る恐る聞くと、ヒナは更に眉間にシワを寄せて言った



「おうよ…それなのに、私には関係ないから引っ込めってか?冗談じゃない!命を助けて貰っておいといて、逆にその人が困っていたら助けるに決まってるだろ!?」






それが命を助けて貰った人がとる態度かよ……






テッドは心の中で呟いていると、ヒナはテッドの胸倉を掴んだままどすの効かせた声で言った







「ほら、遠慮すんなって!私とあんたの仲だろぉ?」






誰だよお前!?




つかお前と俺って、どんな仲だよ!?



まるでチンピラのように成り果てた少女に心の中でそう突っ込むものの、あまりにも目の前にいるヒナが恐ろしく、何も言うことができなかった






すると、すっかり黙ってしまった俺を見て肯定だと受け取ったらしい




さっきのおっかない面はどこへ消えたのか、ヒナは元の調子に戻って言った










「で、これからどの辺りを探すつもりだったの?メアリー達の行きそうな場所とかわかる?」







すっかり肯定と勘違いをしたヒナにメアリー達を探す気満々な態度でそう言われ、俺はぎょっとすると慌ててそうではないと否定をしようと試みたが




「ちょっと待て!俺は一言も手伝ってくれとは…………」







「メアリー達の行きそうな所はどこだって聞いてんだよ、さっさとはけや!」






「…スミマセン、いいますので拳をしまって下さい」





拳を握りしめながら天使のような笑顔で詰めよってくるヒナを見て、何故だか命の危険の予感がした俺は



小さな声で「ハイ」と言うことしかできなかった










−−−−−−−







「なるほど、じゃあテッドとメアリーは出会ってまだ間もないんだね」



「ああ、だからあいつが行きそうな所なんて予測もつかねーよ」







何でこうなっちまったんだ……



確かに嘘をついた俺が悪いが、事態は悪化しちまったじゃねーか!





今更嘘だと言えなくなってしまった状況に、俺はため息をはくと



おそらく、メアリー達を案じてついたため息だと勘違いしたらしいヒナは、労るように俺の肩をポンと叩く





「心配なのはわかるけど、ため息をついても幸せが逃げるだけで何も始まらないよ!もしものことがあれば私もついてるんだし、大丈夫!だから安心して!ね?」






安心できるか!?



そもそもため息の原因はお前だよ!





出来ることならそう言ってやりたいが、その言葉を飲み込み、しばらくヒナと路地裏を歩いていると

俺達は分かれ道に差し掛かる





「ここは分かれて探した方が効率がいいね!右の道は商店街に続いてて、左はホテルや海水浴場に続いてるけど…どっちへ行きたい?」









来たーーー!!



海水浴場という言葉に俺は大きく反応する




まさしくそこは俺が帰りたかった場所!


その上、ヒナは手分けして探そうという有り難い案を出してくれてる





これはチャンスじゃねーか!






俺は迷わず左を選ぶと、ヒナも




「そうだね、私も海の方面は仕事仲間に出くわす可能性が高いから助かるよ!それじゃあまた後でね!」



と言うと、商店街方面へと去って行った









よし!!



俺は心の中でガッツポーズを取ると、左の道へ歩き出す





もちろん、ヒナに咄嗟とはいえ嘘をつき、仕事をキャンセルさせてしまったことに罪悪感はある



だが………


テッドは先程の粉砕した壁を思い出すと今でも背筋が凍りつく





悪い、ヒナ!

俺が助かる為だ!!



お前が恐ろしかったとはいえ、嘘だと言い出せなかった俺を許してくれ!!




テッドは心の中でヒナに手を合わせると、海へと続く道を全速力で駆け抜けて言った










−−−−−−−





「遅い!テッドの奴どこをほっつき歩いているんだ!?」




「本当ね、ひょっとすると方向音痴だし迷ってるのかも……」



スカートをまくり、しばらく水遊びをしていたメアリーは、パラソルの下にいるライタの元へ戻ると隣に座った




「…ったく、しょうがねー奴だな!もう昼になっちまったじゃねーか!」




ライタはすっかり高くなった太陽を見上げると、メアリーは苦笑する




「そろそろお昼の時間だし、先にホテルに戻る?ご飯の用意も出来てると思うし」




「そうだな、ここに俺達がいなかったらホテルに戻ってくるだろ!」



よいしょと、ライタは重い腰をあげるとメアリーに手を差し出した




「行くぞ」



「うん」



ライタの手を掴み、メアリーが立ち上がろうとした瞬間


ライタはよからぬ視線を感じ、ばっと勢いよくその先を見ると

いかにも柄の悪そうな三人組の男がメアリーを見てニヤニヤと笑っていた





「ッ!」



その視線に気付いたライタは、慌ててメアリーの手を引き


ホテルへ戻ろうとするが




「ねえ、そこの嬢ちゃん」




と声をかけられる






「こいつに何か用かよ」



ライタはメアリーを自分の近くに引き寄せ、男を睨みつけると



「うわっ、彼氏の顔恐っ!」



と男達は次々に言い出した






「あの、ライタ?」



険悪な雰囲気を出すライタを見て、イマイチ状況を理解出来ていないメアリーは不安げな表情でライタの手を握ると

大丈夫だとでもいうように、手を握り返してくれる



その事にメアリーは少しホッとしていると、目の前の男達はライタをちらちら見ながら話しあっていた




「いや、でもこいつ顔は恐いけど体格は俺達の方が上だぜ、いけんじゃねーの?」



「いや、騙されちゃいけないぜ!あれは絶対10人は殺ったって顔してんじゃねーか!…でも女の子の方、凄くタイプなんだよなぁ」



「待て、向こうは1人じゃねーか!なんとかなるんじゃねーの?でも顔恐いなぁ……」





自分達から声をかけてきておいて、ひそひそとライタの事を話す三人組にだんだんと苛立ちを覚えたメアリーは、いつの間にか、ライタの前に出てきて男達を睨みつけていた





「ちょっと、さっきからひそひそと感じが悪いわよ!私達に用があるならハッキリいいなさいよ!!」




「よせ、メアリー!」



今にも男達に食ってかかりそうな勢いのメアリーをライタは制止をすると



メアリーはキッとライタを見た



「だってこの人達、ライタの悪口をいったじゃない!」



そう言ってメアリーはライタの腕を振り払うと、男達の前に立ちきっと三人を睨みつけるが

それが逆効果だったのか、体格がいい金髪の男が「ひゅう」と口笛を吹く




「お、近くで見たらマジでかわいー♪」


「そんな恐いかおした彼氏なんて放っておいて、俺達と遊ぼうよ」




「ふざけないで!!」



三人のうちの一番体格のいい男はメアリーに触れようとすると、メアリーはバシンッと音をたてて手を振り払う



「何のつもり!?人が怒ってるのが分からないの!?あなた達はライタの事を悪くいうけど、少なくともあなた達よりは常識はあるわよ!!」





「んだと、この女!少し可愛いからって調子に乗りやがって!!」





メアリーの言葉に腹を立てたのか、ガタイの大きい男はメアリーに掴みかかろうとすると


その間にライタが入り込み、男の腕を掴み、捻りあげた




「おい、メアリーに触るな……」





「いだだだッ!?くそ、このガキ!!」



男はライタの腕を振り払い、仲間の所へ戻ると捻られた腕を大袈裟にさすりながら叫んだ






「痛ってえぇ!?このガキ腕を捻りやがった!!」


「テメー、何しやがんだ!?」



大柄の男がライタの胸倉を掴むのを始め


残りの二人がかりでライタを羽織いじめにすると


先程腕を捻られた男は、瞳に怒りを宿らせ、力いっぱい身動きのとれないライタを殴りつけた





「か…はっ」




両腕を二人がかりで拘束され、身動きが取れないライタは大柄な男の拳をまともにくらい、口の端から血を流すと、その光景を見たメアリーが悲鳴をあげる




「ライタっ!?」




「何だ、こいつ顔が恐いだけで強くねーじゃん」



ガタイのでかい男がそういって再びライタの頬を殴りつけると


我慢の限界だとでもいうように、メアリーは男の腕を掴んだ




「ちょっと、三人がかりで卑怯だと思わないの!?ライタを放しなさい!!」


「痛っ!?この女、捻られた箇所を!!」




もちろん、メアリーにはそんなつもりは微塵ともなかったが、どうやら捻られた腕を掴んでしまったらしい



痛さで顔を歪めた男は勢いよくメアリーをつき飛ばす



「う……」



運悪く突き飛ばされた先に岩があり、それに背中をぶつけたメアリーは痛みで顔を歪めると


男は鋭い眼力でメアリーを睨みながら



「女は引っ込んでろ、後でお前も可愛がってやるからよ」


といい放った





「……………ッ」





男にそう言われ私は悪寒が走る

するとライタはハッとした表情でこちらを見ると、顔を青くして叫んだ


「メアリー!?テメーッ、よくも!!」


「女の事よりまず自分を心配したらどうだ?」 





ドゴォッ                  




「ぐあああっ!!」


 


(どうしよう!?)



メアリーは殴り続けられるライタを見て拳を握りしめた




周りの観光客は私達がもめてから逃げるようにどこかに行ってしまったし、こういう時テッドがいれば……



メアリーは今だに帰ってこないテッドに苛立ちを感じ唇を噛み締めるが、自分がこうしている間にもライタは酷い目に会っている




どうにもならない今の状況で、私の出来る事といえば










ダッ





「あ、あの女…!男を置いて逃げやがったぞ」



「追え、逃がすな!!」





メアリーはちらりと後ろを振り向くと

ガタイは大きくないが、三人の中で一番長身で糸目の男が追ってきていた





「とにかく、助けを呼ばないと…!」






早くしないとライタが!






確かホテルはオートロックでライタとテッドが鍵を管理している

外から中へ入るならインターホンで係の人を呼ばなければいけない



でも、そうしているうちに掴まってしまう







そういえば、ホテルのひとがホテルの横の坂を上がれば商店街があると言ってたような・・・


そこなら人がいるかも!






人を呼ぶ為にメアリーは無我夢中で走っていると、商店街のような小さな店が並ぶ通りに差し掛かる



「だ、誰かッ…助けて!!」



とりあえず人の多い所へ差し掛かったメアリーは助けを呼びながら走り続けるが、通り過ぎていくものは好奇の目でメアリーを見たり、ちらりと一瞬だけこちらを見た後見て何事もなかったように目を背けたりするものはいたが


誰もメアリーの声に応えようとする人はいなかった








「な…んで、誰も……助けて…くれな」




とうとう体力を限界まで使い果たしたメアリーは、息も絶え絶えにそう呟くと


後ろから思いきり髪を引っ張られ、その痛みでメアリーは「きゃああ」と悲鳴をあげる




「やっ、やっと…追い付いた…手間かけさせやが…て」



男は息切れを起こし鋭い視線をメアリーへと向けると、もの凄い力でメアリーの腕を掴む




「さ、ついてこい!」



「嫌あああああっ、誰かーーッ!?」



メアリーは近くを通る人に助けを求めるがちらりと一瞬だけこちらを見ると、まるで何も見ていないようにすたすたと去っていく



「な、なん…で?」




誰も助けようとしてくれないことにメアリーは顔を青くすると、男はそれを嘲笑うかのようにメアリーに更なる絶望を与える



「ふん、いくら叫んでも誰も助けてはくれんさ!人間なんて皆、自分がよければそれでいいと思ってるんだよ」



「…そんな」



その言葉を聞き、顔を青くした瞬間メアリーは男に担ぎ上げられた事に気づき「ひ…」と悲鳴をあげる



「甘い考えを持ちやがって、今の世の中皆そんなもんさ」




男はぼそりと呟くと、メアリーを担いだまま、商店街を歩き出そうとするが


何とか連れていかれまいとメアリーは必死に暴れまくり、抵抗を試みた



「うわ、暴れるな!?」




「違う……」



メアリーは男の背中を思いきり叩くと、男は小さく呻き声をあげる




「ふざけないで!世の中は、皆そんな人ばかりなんかじゃないわ!!」



確かに、誰かが困っていても見て見ぬふりをする人もいる



でも、少なくともテッドとライタは違う



確かにテッドはめんどくさがりで、頼りないけど

旅に出たいといった私を外の世界へ出してくれたし


ライタは、自分の身が危険にさらされようとも、私を助けようとしてくれた!



少なくとも、あの二人は困ってる人を見捨てるような事はしない



だから私は今、こうして屋敷へ戻らずに済んでいる


それなのに…



「あなた達の観念なんて知ったこっちゃないわよ、世の中の人をひとくくりにしないで!迷惑なのよ!!」










「んー、確かに迷惑だね」




「!?」




近くからから聞き覚えのある声がして、メアリーは首を横へ向けると


金色の髪を高い位置で束ね、青い瞳を持った少女がやれやれといった表情で立っていた







「ヒナちゃん!?」




ヒナはちらりとメアリーの顔を見ると「よっ」とでも言うように手を上にあげる



「お兄さん、この子私の知り合いなんだよね…悪いけど手、離してくれないかな?」




「な……」



臆する事なく長身の男に話かけるヒナを見て、メアリーはぎょっとすると、慌てて制止の声をかけた




「ヒ、ヒナちゃん!危ないわよ!?私の事はいいからこの場から離れて!!早く!!」



誰か助けてと叫んで、走り続けた結果

その呼びかけに応えやってきたのは、昨日海で溺れ私達が助けた少女だった



メアリーの制止の声を聞きヒナは一瞬驚いたような表情をすると、ふと目元を優しく緩めてからメアリーに向かって微笑んだ



「ありがとう、メアリーって優しいんだね!私の事は心配しなくて大丈夫だよ」



そして、さっきメアリーに向けていた表情とはうってかわって、ヒナは少し冷めたような目をして男の方に向きなおると


長身の男は「ひッ!」と声をあげる




「す、すみません!まさかこのガキ・・・いえ、このお譲さんが貴女と知り合いだなんてちっとも・・・」


先ほどメアリーやライタに見せていた威勢はどこへいったのか男は急におどおどし始めると、その態度が勘にさわったのか、ヒナの目が更に冷たく細められる




「ごたくはいいから早くその子を離しなって、それとも何?また私とやりあおうとでもいうの?」



「め、めっそうもございません!」



(一体どうなってるの!?)



ヒナという少女が来てから明らかに男の様子が変わりメアリーは不思議に思ってると


動揺した男が突然手を離し、担がれていたメアリーは頭から地面に落ちそうになるが

いつのまにか近くまで来ていたヒナに受け止められるとぐいっと自分の方へと引き寄せられた



「!?」


この少女の細い腕のどこにそんな力があるのかとメアリーはぽかんとしている間に、ヒナは男の胸倉を掴むとメアリーに聞こえない程の小さな声で囁いた




「今回は見逃してあげるけど、今度一切この子に何かしようものなら・・・・・・」















「?」




何を話しているのかしら?


メアリーはそう疑問に思っていると、みるみる内に男の顔が青くなり

ヒナが胸倉を離した頃には男の顔は完全に恐怖で歪み、後ずさりながら何かを口にしていた




「は、はい・・・も、今後一切・・・この方に・・・・ひいいいいいいいいいッ!?」




「えッ!?」


一体何が起こったのか状況が理解できずメアリーは一目散に逃げていく男をぽかんと眺めていると、ヒナはほっとしたようにため息をはいた



「聞き覚えのある声が聞こえたからまさかとは思ってたけど、やっぱりメアリーだったんだね!大丈夫?何もされてない?」



「えっと・・・・・」



さっきのは一体何だったの!?

メアリーはじっとヒナの顔を見ると、言いたいことを察してくれたのか「ああ、さっきの?」と言い苦笑しながら答えてくれた



「あいつはここらでは有名なたちの悪いナンパ野郎だよ、そういやさっきテッドがメアリーを探して海の方へいったよ!ここから海まで近いし今からでも合流できると思うから私についてきて」




(海・・・そうだ!)


さっきのことがあまりにも衝撃的でメアリーはハッとする

今、海辺でライタが!!



「ヒナちゃん!待って!!」



「ん?」



海へ向かおうと歩きだすヒナを呼びとめると、メアリーは首を横にふった


「今、海辺で私の友達が酷い目にあってるの!相手は2人だし、私達だけでいくのは危ないわ!誰か人を・・・」


「ああ、海辺のこと?それなら心配いらないよ」





心配いらないという言葉にメアリーは首を傾けると、ヒナは苦笑しながら答えた


「誰かが海辺で喧嘩をしていることを通報してくれたみたいだから大丈夫だよ、ほらここから海が見えるでしょ」



「あ・・・」



今まで周りの景色を見る余裕がなかった為、メアリーはヒナに言われて気づいた


(ここから海辺が見えるんだ・・・)


遠目だけど海辺に4,5人程青い服を着た人達がきているのを見て、メアリーはほっとすると消え入りそうな声で呟いた



「よかった・・・ライタが無事で」


遠目だけど黒髪の少年が警察の人に肩を貸して貰いながら歩いているのがわかり、メアリーは気が抜けたのか足の力が抜け地面にへたりこむ


その様子を見ていたヒナは、メアリーの前で後ろ向きにしゃがむと「首に腕を回して」と言った




「?」



とりあえず言われた通りヒナの首に腕を回すと、ぐいっっと身体が浮遊した感覚がしたと思えば

足に腕を回されおんぶをされていた



「ちょ・・・」


まさかおんぶされるとは思ってもいなかったメアリーは抗議の声をあげると、ヒナは「うわ、軽ッ」と驚いたように呟いた


「ちょ、悪いわよ!それに私軽くなんかないし、むしろ重いと思う」






その言葉を聞き、ヒナは「何だって!?」と言う



「どこが!?全然軽いよ、普段何食べて生活してんのって位!同じ女としてうらやましい位だよ!」


「そ、そんな・・・それより下ろして、私一人でも歩けるから」



何だか恥ずかしくなってきたメアリーは、ヒナに下ろして貰うようにたのんだがあっさりその意見は却下あされる


「駄目、今下ろしたらまた地面にへたりこむでしょ?メアリーが自分で歩けるっていうなら話は別だけど」



「う・・・」



確かに足が震えて力が入らないのは事実だった為、メアリーは黙ってしまうと

その様子を見たヒナはおかしそうに笑った



「でしょ?だからおとなしくおんぶされときなさい!心配しなくてもちゃんと海までおくるからさ」



「う、うん」



助けてもらった上にここまでしてもらっていいのだろうかと思うとメアリーは罪悪感がわき、ヒナの高くあげている髪をくいっと引っ張ると「ごめんなさい」と言う



「何でメアリーが謝るの?何も悪いことしてないのに」


ヒナは不思議そうに首を横へと向けると、メアリーは腕にぎゅっと力を込める


「だって助けて貰った上に、ここまでして貰って・・・悪いよ」


「何だ、そういうことか」


ヒナは納得したのか再び首を前へ向ける


「メアリーってなんか人に気をつかいすぎっていうか、律儀っていうか・・・何だろう・・・そこまで気にする程のことじゃないと思うんだけどなぁ」



「でも・・・」


それでもまだ申し訳なさそうにするメアリーに苦笑すると、ヒナは困ったように言った


「私なんてメアリーには一生かけても返せない位の借りがあるんだよ?命を助けて貰っておいてこの位のことしかできないけど、でも少しはメアリーの助けになれて嬉しいと思ってる!だからそんなこと気にしないで」


「そんな・・・」


一生の借りだなんて、そんなたいそうなことなんてしていないのに


私はただ・・・・







メアリーは慌ててそう言おうとするが、タイミングが悪く急に眠気が襲ってきて目の前がぼやけてきた



「・・・・・う」



あまりの睡魔に、メアリーは意識が朦朧としていると

それに気づいたヒナはメアリーが後ろに倒れないようにかがむような体制になる



「疲れたんだね、別に眠っても大丈夫だよ!テッドが迎えにきたらちゃんと起こすから」



まるで子守唄のように穏やかな声でいわれ、私は昔お母様の背中でうとうとしたことを思い出した


(お母様・・・)


メアリーは懐かしい感覚にぎゅっと腕の力を込めると、ヒナは苦笑する


「大丈夫、さっきみたいに変なのが来てもおっぱらっておくからさ安心して」


おそらくまた、さっきみたいな事にならないか不安に思って腕に力を込めたと勘違いをしたのだろう

「違う」と否定をしたくても、意識を保つのが限界で私はヒナちゃんの背中にうなだれた



まだ寝てはいけない・・ヒナちゃんに言ってなかったことがある






メアリーは必死に睡魔と戦いながら、重たい眉を上げるとヒナの名を呼んだ


「ヒナちゃ・・・」



「ん?」



メアリーの呼びかけに気づき、ヒナは耳をすますとメアリーは耳元で何かを呟いた










「まだ・・・お礼、言えてなか・・・・・ありがと・・・う」









「・・・・・・・・」








消え入りそうな声だったが、その声はヒナの耳にとどき

それと同時にずしりと背中が重くなった



「すー・・・」


すっかり背中の上で寝てしまったメアリーを横目で見て、ヒナは苦笑すると

まるで独りごとのように呟いた







「どういたしまして・・・」
















【次回予告】「語り:ライタ、メアリー」






俺の傷が癒えるまでこの街に滞在することになり、あれから3日が過ぎた




それにしても、テッドとメアリーの奴さっきから誰の話をしているんだ?

「ヒナ」って誰だよ!?



そんなことより次話から俺の出番が少なくなるって一体どういうことなんだ!?



迫りくる幼馴染の危機に、メアリーは再び選択を迫られる






第4章 【忍び寄る魔の手】





「メアリー・・・やめろ!」



ごめんなさい、ライタ

私は大切な人を守る為に、あなたとの約束を破ります








カノンです。

やっと出したいメインキャラクター【ヒナ】が出てきました!

ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!

これから、長い話になりますが頑張って書いていこうと思います!!

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