第1話 海が見える街
ガンジス村付近にある林を抜け、南へと歩いた所にある街【ウンディーネ】
水の都と呼ばれるその街を目指し、テッド達は旅をしていた
「おかしいわね、こんなに歩いても着かないなんて…道を間違えたのかしら」
「いや、確かにこっちの方から海の匂いがするんだ!確かその街は海から近いんだろ?もう少し行ってみようぜ」
深く息を吸った後、南を指さすテッドを見て、ライタはあきれたしたように言った
「メアリー、方向音痴のあいつの事だ、信用してついていったらまた大変な事になるぜ」
ライタの言葉を聞き、テッドはぴくりと目元をひくつかせると、目の前の口が悪い少年をじろりと睨む
「おい、またその話を持ち出すつもりか!?そもそもお前は、何でいちいち俺に突っ掛かってくるんだよ!?」
ギャーギャーといい争う二人を止めるのにも疲れたメアリーは、ため息をはいてふと下を見ると、足の下に、貝殻が落ちていた
「ねぇ、貝が落ちてるわ!もしかするとここから海が近いのかもしれないわよ」
メアリーは足元の貝殻を拾い二人に見せると、テッドは感嘆の声をあげた
「お!でかしたメアリー!ほれ見ろライタ、俺の言う通りだったじゃねーか」
完全にどや顔をする旅人にライタは少しイラっとするが、確かに彼は鼻がいいらしい
「さぁ、こっちだ」
完全に先頭をきって、誇らしげに歩くテッドを指さすと、ライタは小声で言った
「なぁ、テッドって能力者だったり方向音痴だったり、鼻がよかったり……凄い奴なのか、馬鹿なのかわからねーよな…」
「しっ!聞こえるわよ!?」
メアリーは慌ててライタを制止すると、テッドはきょとんとした顔で振り返る
「お前ら、何ぼーっとつっ立ってるんだ…早く来ないとおいていくぞ」
そういって、再び背を向け歩いていくテッドを見て、メアリーは息をついた
(鼻はいいけど、耳の方はあまりよくなくてよかった…聞こえてたらまた喧嘩になる所だったわね)
そんなメアリーの心情なんて知らないテッドは、息をつく彼女を見て
(帝国軍の奴らも追ってこねーみたいだし、ほっとしてるんだな)
とそんな事をぼんやりと考えていた
第1話 【海が見える街】
「す、凄い!!」
あれから徒歩5分
目の前に広がる光景を見て、メアリーは感嘆の声をあげた
「これが海…本や資料で見た写真とかとは全然違うわね!何て綺麗なのかしら!!」
夕日が、海一面をキラキラの輝かせ、広大な大自然が目の前に広がる。
そんな風景を見て、感動をしたメアリーは、目を輝かせた
まるで子供の様にはしゃぎ、海へとかけていくメアリーを見て、テッドは思う
「なぁ、ひょっとしてあいつ海初めてなのか?」
テッドの問い掛けに対し、ライタは複雑そうな顔をすると、遠い目をして波と鬼ごっこをする幼なじみを見つめた
「メアリーの奴、あまり外へ出して貰ってなかったみたいだし…あの様子じゃ、おそらく初めてなのかもしれねーな」
「……そうか」
テッドは夢中になって貝殻を拾うメアリーを見て、もう少し海を満喫させたい気持ちになるが、あと数時間で日がくれる
そうなる前に、宿かホテルをとらないと今日の泊まる所はないだろう
「メアリー、はしゃぐ気持ちはわかるが宿をとるのが先だろ!早く行くぞ!!」
「えぇーっ」
メアリーの明らかに不満そうな声を聞き、テッドは苦笑をすると、空を指さした
「早く街へ行って宿を取らないと今日は野宿になるが、それでもいいのか?」
「う……」
野宿という言葉を聞き、諦めたように小さくうなづくメアリーを見て、ライタは言った
「仕方ねーよ、俺達は追われてるんだ!街から近いとはいえ野宿は危険すぎる」
「うん……」
宥めるようにそう言われ、メアリーはしぶしぶ返事をすると、去り際にテッドに頭を押された
「そんな顔しなくても、また来りゃいいじゃねーか!それに今は海水浴の時期で人も多いし、人の多い昼間にくりゃ俺達も目立たねーと思うしよ」
「確かにそうね」
メアリーはテッドの言葉に納得したようにうなづき、また来るという言葉を聞くと嬉しそうに言った
「わかった、じゃあまた明日きましょう!今日は歩きっぱなしで疲れたし、早く宿へ行くわよ!!」
「はいはい」
隣で追われているのにも関わらず、目を輝かせながら楽しそうに笑うメアリーを見て、テッドは呟いた
「こいつ追われてるって自覚はあるのかよ、おめでたい奴・・・」
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「はぁ、そういや三人だったな……」
部屋へ入り、さびしくなった財布の中身を片手にため息をはくテッドを見て、メアリーはうろたえていた
「ご、ごめんなさい!私お金を持ってなくて!あの私、これから野宿でいいから!!」
申し訳なさそうに謝るメアリーを見て、テッドは困ったように笑うと「お前はあほか」と言った
「あのなぁ、鬼や魔物が外でうろついてるこの地域でお前のようなお嬢様が野宿なんてできっこねーだろ!そもそも、俺がガキ二人に野宿させて自分だけ宿に泊まるようなやつに見えるとでもいいてーのか」
ガキ二人って……
私達、ガキと言われる歳じゃないのだけど
テッドの言葉に少しムッとしてしまい、思わず「見える」と言ってしまいそうになるが、不器用ながらのテッドの気遣いを感じることが出来て、私はお礼を言った
「ありがとうテッド、でも本当にお金は大丈夫なの?こんな調子で使い続けていたらあっという間になくなってしまうんじゃない?」
心配そうに平らになった財布を見て、心配するメアリーとは裏腹にテッドは苦笑すると
「ああ、もしそうなったらお前らにも手伝って貰うからな」
と言った
「?」
意味ありげなテッドの言葉にメアリーは首を傾けていると、突然、部屋の扉が勢いよく開かれた
「メアリー!ここのホテルプライベートビーチがあるみたいだぜ!!」
ずかずかと入ってくるライタを見て、メアリーは「どこに行ってたの?」と聞くと、ライタは楽しげに言った
「少しこの宿の中を探索してたんだ!なぁ、テッド」
テッドはふと話かけられ「何だよ」というと、ライタは楽しそうな表情を一変させ、眉間にシワを寄せて言った
「本当に俺の分まで払って貰ってよかったのか?結構設備も整ってるみてーだし、プライベートビーチがあるくらいだ、かなり高いだろこの宿」
少年の言葉を聞き、テッドは「またか」と呟くと、ライタの頭をバシィと殴った
「痛ッ!?」
気持ちがいい位に、渇いた音がなり、頭をさすりながら涙目で見上げてくるライタを見てテッドは苦笑すると
「馬鹿、今日は海水浴シーズンだから宿じゃなくて高いホテルしかとれなかったんじゃねーか」
と言った
((あぁ、成る程!))
その言葉に納得をする二人とはよそに、テッドは話を続けた
「さっきメアリーにもいったが、そんな事いちいち気にしなくていい!いざとなったらお前達にも仕事を手伝って貰うしな」
「「仕事?」」
テッドの言葉に、二人が首を傾けた瞬間、部屋の扉をノックされ「失礼します」という声と共に、若い青年が入ってきた
「いらっしゃっいませ、この度は当ホテルにお越し頂きありがとうございます」
流れるようなしぐさでお辞儀をされ、私もつられてお辞儀をするとその人に、にこりと微笑まれドキリと胸が高鳴ってしまった
茶色の髪と目を持ち、少したれ目がちで、男の人なのに女の人に見間違えそうな位の端正な顔にメアリーは思わず見惚れてしまう
(うわぁ、男の人なのに凄く綺麗な人…)
ぼーっとその人を眺めていると、再び目があい、またにこりと微笑まれる
(ひゃー///どうしよう、また目があっちゃった!何だか照れくさいかも)
メアリーは顔を赤くして下を向いてしまうと、その様子を見ていたライタは、面白くなさそうにぶすっとした
「で、用件は何だ?俺達は疲れてんだよ、宿の説明なら手短かに頼む」
刺のあるライタの言葉にメアリーはぎょっとするが、青年はさほど気にしていない様子で「わかりました」と言った
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「……で、入浴は朝の6時から12時までとさせて頂きます。何かご質問は………」
青年の言葉を遮り、ライタは「ねーよ」と言うと、メアリーは抗議の声をあげた
「ちょ、ライタ!最後まで話を聞かないと、まだ何かあるかもしれないでしょ!?」
ライタにふてぶてしい態度をされても、青年は顔色ひとつ変えず、むしろ笑顔で
「わかりました、何か質問がありましたらいつでも部屋の電話でフロントへご連絡下さい」
とだけ言い、部屋についてある電話を指さした
「それでは、説明は以上です。ごゆっくり……」
そういって青年が部屋から出ていく瞬間に、メアリーが「あ……」と声を漏らすと、青年はちらりとメアリーを見て、お辞儀をした
「失礼しました」
ガチャン……
青年は静かに扉を閉めたはずなのに何故か、その音が大きく感じ、メアリーは「はぁ」息をつくと同じにライタは不機嫌そうに眉間にシワをよせ、椅子にどかっと座った
「ちょっと、ライタ!」
そんな彼の態度を見て、ムッとしたメアリーは眉間にシワを寄せてライタに言った
「昔からあなたは人見知りだというのは知ってるけど、さっきのはいくら何でも感じが悪いと思う!どうしてあの人にあんな嫌な態度を取るの!?」
メアリーの言葉に、ライタは更に眉間にシワを寄せると
「どうしてって……あいつの事が気にくわねーからだ」
と言った
「気にくわないって……だからってあんな態度を取るのは大人げないわよ!!テッドもそう思うでしょ!?」
「はぁ!?何で俺にふるんだよ!?」
突然自分に話をふられ、テッドは面倒くさそうな顔をすると、ベッドから起き上がり、部屋から出ていこうとした
「ちょっと、どこにいくのよ!?」
メアリーの呼びかけに、テッドは振り返ると
「面倒くさいことに巻き込まれるのは嫌いなんだよ、自分達の喧嘩に俺を巻き込むな」
とあきれたように言った
「う………」
言葉を詰まらせるメアリーを見て、テッドはため息をはく
「お前らも少しは休め、さもないと、奴らが来たときにぶっ倒れることになるぞ」
テッドはドアに手をかけると「散歩にいってくるわ」と言って部屋から出ていってしまった
「……………」
「………………っ」
テッドが出ていった瞬間に部屋の中が静かになり、その空気に堪えられなくなったメアリーも外へ出ようと、ドアに手を伸ばした時だった
「おい、ひとりで出かけて大丈夫か?」
出ていく瞬間に声をかけられ、メアリーはうなづく
「ええ、ホテルの中を探検するだけだから平気よ」
そういって、メアリーが部屋から出ようとした瞬間、ライタは椅子から立ちあがると、メアリーの横へ並んだ
「俺もいく、ホテルの中だとはいえ一人歩きは危険だ」
正直ライタと一緒なのは気まずいけど、おそらく、私の身を心配してそう言ってくれているのだろう
「ありがとう」
だから私はその好意に甘え、ライタについてきて貰う事にした
−−−−−−−
「……………」
「……………」
(ど、どうしよう)
メアリーは早速ライタに来て貰ったことに後悔する
(何だか、空気が重い)
少し気分を変えたくて外に出ようとしたはずなのになぁ
メアリーはため息をはくと、ふと窓の外を眺めると、そこには、限りもない大きな海が広がっていて、思わずその光景に息をのんだ
(夕方の海も素敵だったけど、夜の海も綺麗なのね)
暗闇の中、空に薄く光る満月が海に照らされ淡い光を放っていて、私はその光景に魅入ってしまう
(そういえば、このホテルってプライベートビーチがあったんだっけ…夜でも行けるのかしら)
ぼんやりとそんな事を考えている時だった
「ん?あれは何かしら…」
海を眺めていると、メアリーはふと浅瀬で水が泡だっている事に気づく
(魚…?)
そう思い、中心部をじっと見ると、ちらりと人の手のようなものが見えて、メアリーは目を凝らしてみた
(人?泳いでるのにしたら少し………いや、あれは!?)
間違いない、人が溺れている!?
「お、おい!どこにいくんだよ!?」
突然走り出したメアリーにライタはぎょっとして呼びとめるが、一刻も争う事態に彼女は振り向きもせず、ホテルの外へ向かう
(大変、早く助けなくちゃ!)
突然置いていかれたライタは「何なんだよ」と窓の外をみると、何故メアリーが慌てて走っていったのかを理解した
「ちっ、メアリーのやつ、一人で何とか出来るとでも思ってんのか……」
おそらく、メアリーのことだ
溺れている人を放っておくような奴ではないし
考えるよりまず行動に移す性格だということは、幼なじみである彼はよく知っていた
「とりあえず、助けを呼ばないとな!」
もしあの場所が深い所ならメアリーまで溺れかねない
ライタは小さく舌打ちをすると、急いでフロントへ向かった
−−−−−−−
「はぁ、はぁ…や、やっとついた…」
溺れてた人は無事なのかしら
あれからここまで来るのに結構時間かかったし、もしかすると………
そう思いメアリーの顔が青くなると、近くから水が跳ねる音がした
「・・・・・!近くにいる!!」
その音の場所をたよりに海の中へ入っていくと、メアリーはかすかに水の中で金色に光る物体と肌色の手らしきものを発見した
バシャバシャ
「いた、あそこだ!!」
水圧のせいで、なかなか前に進まない身体を無理矢理動かしてその場所へ向かう
「待ってて、今助けるから!!」
とうとうその場所までたどり着いた時には、水は自分の胸下位の深さでメアリーはホッとした
(よかった、足がつく位置で……それにしても、この深さで溺れるだなんて、子供かしら…?)
そう思いながらも手探りで水の中に手を入れると、手に何かが触れて、私は勢いよく、両手を掴みその人物を引き上げようとすると、後ろから誰かに手を掴まれる
「………っ!?」
メアリーは驚き、振り返るった瞬間、頭上からあきれたような声が聞こえた
「やめとけ、お前まで溺れたらどうするつもりなんだ」
その声とどうじにザバーッという音と水しぶきが辺りに舞い、メアリーは目を見開くと、引き上げられてぐったりとした人物を横抱きにした青年がメアリーを見下ろしていた
「テッド!?」
「ったく…何で人を呼ばず自分で何とかしようと思ったんだ、浅い所でも特に夜は高波がくるから危ねーだろ」
「ご、ごめん!私、とっさに身体が動いちゃって」
確かにテッドのいう通り、夜の海は危険だ
何も考えずとっさに行動を起こしたが、彼のいう通り高波でも来たら私まで溺れていただろう
その事を想像して、ぞっとしていると、テッドは引き上げた人物の口元に頬を持っていくと、チッと舌打ちした
「まずい、息をしてないみたいだ!とりあえず俺達も岸へあがるぞ、潮が満ちてきている」
テッドの言葉を聞いて私はハッとする
さっきまで胸下あたりに水があったのに、今は首元まで水が上がってきていた
このままでは、私達まで溺れることになる!
メアリーは「わかったわ」とうなづくと、テッドと共に急いで岸へと向かった
【次回予告】語り:メアリー
『ありがとう、あなたたちは命の恩人だよ!』
私達が助けたのは、金色に輝く絹糸のような長い髪に、青い瞳をもつ少女
その少女との出会いが、お互いの人生を大きく変えてしまうことになるなんて
今の私達には知るよしもなかった
第2話 【新たな出会い】
水の都ウィンディーネ
その時の私はその街に忍びよる脅威に気づけずにいた