第3話 人生の選択肢(後編)
「く、こいつら意外に手強かったぜ……」
少年は刀を腰へと戻すと、悪態をついた
(ずるくても賢く生きようと決めたはずなのにな……どうしても昨日の夜の出来事が頭に焼き付いて離れねぇ)
本当はあの夜も、さっさと立ち去るつもりだった
−−−−−−
(あのお嬢さん、ちゃんと親父と向き合えたのだろうか)
そう思って昨日の夜、様子を見に行き俺はあぜんとした
(な、何でこんな事に!?)
メアリーは親父に殴られ、泣き叫んでいて、あげくの果てには、何かを打たれかけているではないか
あの液体の中身は何かわからなかったが、何故だか嫌な予感がした
(くそ……)
あれを打たれるとまずい
何故だかわからないが、俺の本能がそれを告げている
気がつくと、俺は親父からメアリーを引きはがしリアンス家のお嬢さんを肩に担いで、窓から飛び降りていた
−−−−
「一度関わってしまったんだ、途中で自分だけ尻尾を巻いて逃げる訳にはいかねーよな…」
少年は、剣を抜くと再び構えの姿勢をとった
「く、まだいやがるのか……仕方ない」
少年が金色の髪をなびかせ、走り出したと思った瞬間、次々に隊士たちを斬り伏せていく
「とにかく、メアリーを探すのが先だ」
少年は気絶した隊士を跨ぎながら、更に奥へと進んでいった
「悪ぃ姉貴…俺、やっぱり馬鹿なままだ」
去り際に少年の呟いた言葉は、誰の耳にも届くことはなく、風の中へと消えていった
第3話 【人生の選択肢(後編)】
「…………」
イオスは宿に到着すると、必死に何かを探しているフウヤと遭遇する
「く、客がいない癖に無駄に広いな、この宿……おかしいぞ…確かこっちにいったような」
「何をしている?」
いきなり声を掛けられ、驚いたのか、フウヤの肩は跳ね上がった
「うわ、隊長!?」
「これは一体どういう事だ、説明をして貰おう」
隊長にそう言われ、フウヤはちらりと倒れている隊士に目を向けると、イオスに頭を下げた
「隊長、申し訳ありません!僕達が頼りないばかりに…」
「謝罪はいい、俺は状況を説明しろと言っている」
きっぱりと謝罪の言葉を斬られ、フウヤは言葉を詰まられつつもイオスに状況を報告した
「…成る程、まだ見習いの隊士達とはいえてこずる程の相手か」
「はい、あともうひとつ報告があります」
イオスは黙ってうなづくと、フウヤは再び口を開いた
「僕の班を全滅させたのは、先程疑っていたあの金髪の男でした」
「やはりな……」
逃げる時の身のこなしといい、あの男はただ者ではなかった
やはり、フウヤの予想は当たっていた
(もっと奴に注意を払うべきだった)
顎に手を沿え、考えるような仕種をするイオスに向かってフウヤは言った
「ですが好都合な事に、その男もメアリー様もまだ宿の中へいる筈です!包囲をするなら今ですよ」
フウヤの意見に対し、イオスは渋い顔をして首を横に振ると淡々とした口調で言い放つ
「気配を探ってみたが、宿から人の気配が感じ取れない…おそらく逃げたられたのだろう、それに部隊は俺達の班とグラン以外戦闘不能だ」
「………くっ」
フウヤはぐっと唇を噛み締めると、悔しそうに言った
「やっぱり、僕の思った通り金髪男も関わっていた…あの時やつの邪魔さえ入らなければ…」
「……………」
確かに俺の作戦ミスだ…フウヤの言う通り、あの男をもっと注意する必要があった
荒れるフウヤに対し、イオスは冷静に無線を取り出すと、グランにメールをした
「フウヤ、お前の班は撤退だ…今すぐ本部へ戻り援軍の要請を頼む」
「な………」
イオスの言葉にフウヤは目を見開くと、慌てて講義する
「隊長!何故です!?まだメアリー様は近くにいるはずです!!こうしている間にも……」
「落ち着いて今の状況を考えろ、今の状況でやつらと接触をするつもりか」
冷静な言葉に、フウヤはハッとする
そうか、僕の班はほぼ全滅した
金髪並の程のやつが何人も犯人の中にいたとすれば……
フウヤはゾクリとする
それに、あの目つきも口もの悪い少年もメアリー様と一緒にいた
下手をすれば犯人は複数かもしれない…
あれほどの力を持つやつが複数もいるのなら、確かに僕の班がついていった所でまた全滅するのがオチだ
フウヤは、ぎゅっと拳を握りしめると
「わかりました…僕達は一旦戻り、本部から援軍を呼んできます!!」
と悔しそうに言った
そして、去り際にフウヤは思い出したような顔をすると、イオスをちらりと見た
「そういえば、何故隊長はあの時現場へ来なかったのですか?」
「………………」
その問いに対し、イオスは難しそうな顔をすると顎に手をあてる
「途中で何かあったのですか?」
「……………」
その言葉にイオスは眉間にシワをよせると、じろりとフウヤを見る
「お前には関係のない事だ、それよりも早く援軍を呼びに行け」
突然強い口調で言われ、フウヤの肩がびくりと跳ね上がった
「は、はいいっ!?」
珍しく感情をあらわにするイオスにフウヤは驚きつつも、ビシッと敬礼のポーズをとると、さっさと自分の部隊に戻っていってしまった
「言ったな…」
イオスは独り言のように呟くと、自分の率いる部隊へと戻っていった
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「知っての通り、フウヤの班が全滅した!援軍が来るまで俺達がメアリー様の保護にまわる」
「フウヤ副隊長の班が…?」
「嘘だろ……」
イオスの言葉を聞き、隊員達はざわめく
帝国軍の部隊が全滅することは過去に一度しかなかった
確かにフウヤは天然だが戦闘能力は高い
イオスの班の隊員達もそれを知っていた為、全員が驚きを隠せない表情をしていた
「ですが隊長、フウヤ副隊長の隊が抜ければ大幅に戦闘力が低下します!…何か考えがあるのですか?」
隊士の中の一人が質問をすると、イオスはうなづく
「奴らの後をつけるのは、少人数の方が動きが取りやすい…それに」
イオスは顎に手をあてる仕種をすると、難しい顔をして言った
「下手をすれば、犯人は能力者かもしれん」
まだ確定した訳ではないが、イオスの予想が正しければ厄介な任務になる
隊長の言葉に隊士達はざわめき出すが、グランのみは納得したようにうなづいた
「俺もそうなのかもしれないと思いました…」
「何でそう思うのですか?」
隊士に質問をされ、グランはちらりとイオスを見ると、複雑そうな顔をしする
「おかしいと思ってたんですよ、隊長程感の鋭い人が何故あの夜侵入者に気がつかなかったのか……」
その言葉を聞いてイオスも複雑そうに眉間にしわを寄せた
あの夜、確かにメアリー様の部屋から人の声がした
窓が開いていた上、メアリー様以外の気配が全くしなかった。
だから、外の音だと思い俺はあの部屋から立ち去ってしまった。
イオスは、ぐっと拳をにぎりしめる
おそらく誘拐犯の中に、気配を消す能力を持つものがいたとしたなら
……うかつだった
イオスはグランに
「確かにそうかもしれん」
とだけ言うと、再び無線を取り出した
「フウヤ、出来れば感知能力のある者も連れてきてほしい…頼めるか?」
【どうでしょう…とりあえず、来て貰えるよう努力します!】
「ああ、なるべく早くきてくれ」
要件のみを伝え、無線を切った後、イオスは再びメアリーの気配を探り出す
「・・・・・妙だ」
イオスは目を開けると、独り言のように呟いた
「まだ遠くにいってないはずだ、しかし」
メアリー様の気配はおろか、金髪の男の気配すら感じない・・・
「隊長、どうかしましたか?」
「・・・・何でもない、ただの独りごとだ」
俺の予感が正しければ、やっかいな任務になるだろう
事態が悪化する前に早急に片づけなければ!
イオスは右手を握りしめると、隊士達の方を見て言った
「これから何手かに分かれメアリー様を捜索する、見つけたものはすぐに無線で報告しろ」
「「「「「はっ」」」」」
イオスの言葉を聞き隊士達は敬礼をすると、それぞれ何手かに散らばっていった
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「ここまでくりゃ、しばらくは大丈夫だろ」
「………………」
ライタはメアリーを下ろすと、ホッと息をつく
(結局…いいそこねてしまった)
あの時、私はライタに伝えたいことがあった。しかし…
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(どうした、メアリー?)
(ライタ、ごめんなさい…やっぱり私…)
メアリーは何かを言おうとして口を開けた瞬間、ドアの外から爆発音が聞こえ、ふたりはびくっとする
パリーンッ
ガッシャーンッ
((!?))
(何の音だ?)
(あの、ライタ…)
ライタはメアリーを抱えると、宿の窓ガラスを割った
(悪いな、話なら後で聞くぜ!とりあえず今は逃げる方が先だ!!)
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・・・みたいな感じで、結局ライタに何もいえないままだった。 宿から出て少し歩いた所にある林の所に私達は身を潜めていると、思い出したようにライタは言う
「…で、お前がさっき言おうとしてたことは?」
突然尋ねられ、心の準備が出来ていなかったせい、私はドキリとするが、大きく息を吸い込むとライタの目を真っ直ぐに見た
「ごめんなさい、私やっぱり屋敷へ戻ろうかと思うの…」
「!?」
私の言葉にライタは目を見開く
(そうだよね、あんな目にあってまで助けようとしてくれたのに私、凄く自分勝手だよね)
「メアリー」
ライタに呼ばれ、私はびくりと肩を震わせる
ライタ、絶対怒ってるよね…ひょっとして、絶交されるかも
それでも……
「ごめんなさい、自分勝手で…でもこれ以上自分の都合で人を巻き込みたくないの」
「確かに勝手だな・・・でも、もう遅ぇよ」
「「!?」」
突然上から声が降ってきて、二人はびくりと身体を震わせる
「誰だ!?」
ライタは木の上に座り、こちらを監察するようき見る少年を睨みつける
「テ、テッド!?」
「よう、無事に脱出出来たようだな!」
テッドは木から飛び降りると、ライタとメアリーの間に着地をした
「な、何でここに…?逃げたんじゃ……」
「ああ、逃げる途中でお前を発見したから声をかけたんだよ」
(やっぱり私をおいて逃げたのね……この人!)
メアリーはがくりとしてテッドを見ると、ふと彼の服が朝よりもよれていることに気づく
それだけでない、何箇所か服を斬られたような跡がある
「ねえ、誰かと戦ってたの?」
テッドは、破れた個所を隠すようにして手で抑えると
「お前には関係ねーよ」といってそっぽを向いてしまった
やっぱりあの時に見えた金色の髪は、テッドだったのかな……
そういえば、逃げる時も軍人の人と遭遇しなかった
もしかして、私達が逃げれるように戦ってくれていたのかも……
一瞬そんな考えがよぎるが、メアリーはハッとする
いや…この人に限ってそんなことはないか
多分逃げるときに、慌ててて敵に襲われただけかもしれないし
それに、テッドが戦ってる所なんて想像もつかないしね
メアリーはため息をはいたあとちらりと彼を見ると、なぜかテッドとライタが至近距離で見つめ合っていて、お互いを睨みあっていた
「何だぁ?テメーは!さっきからメアリーに馴れ馴れしく話やがって…」
「うわ、顔恐ッ!!お前こそ誰だよ!?」
「…何やってるの?」
睨み合う二人にメアリーは尋ねると、テッドは言った
「おい、この目つきの悪い奴と知り合いか!?」
目つきが悪いって……
確かにライタは眼力が鋭い、メアリーはそのことに対しフォローの言葉が浮かばず、オロオロとするばかりだった
テッドとライタの出会い
この頃の運命の歯車はまだ、動き始めたばかりだった
読み返してみると、文がめちゃくちゃ・・・