世界で一番大好きなお姉様へ
「お姉様ああああ、置いていかないでえぇ…!」
用意しておいたハンカチが意味を成さないほど、私は泣きじゃくっていた。
大好きなシェイーラお姉様。
私の憧れであり、ずっと追いかけてきたお姉様。
どこへ行くにも何をするにも、お姉様についていった。
小さい頃はお姉様が見えないと泣き始めて、よく困らせたものだ。
お姉様だけ先に学校に入学してしまった時だって、どれだけ辛かったか…!
なのに、今日でお姉様とバラバラになってしまう。
私にとっては人生で一番悲しい日であり、一番祝福したい日でもあった。
もう気持ちがぐちゃぐちゃだ。
「もう、別にどこにも置いて行かないでしょ?」
「だってええぇぇ…」
「しょうがない子ねえ」
シェイーラお姉様は、また別の白いレースのハンカチを私の目尻に優しく押し当てた。
ううっ、今日も優しいお姉様、大好き…!
ハンカチよりも真っ白なふんだんなレースに包まれたお姉様は、天使よりも女神よりも美しい。
ふわっとさせるより、スラッと見せるドレスにしたのは、正解だった。
私の見立てに間違いない!
「綺麗ですお姉様あぁ、行かないでえぇ…!」
「ふふふ、ウリスったら顔がぐちゃぐちゃじゃないの」
「もう〜、ウリスお姉様うるさい〜!せっかくシェイーラお姉様の晴れの日なんですから、少し黙っててください!」
弟のレイードにガバッと羽交い締めにされて、お姉様からズルズルと離されてしまう。
「あああ〜〜ん、お姉様あ〜〜!!」
「ほっんとにうるさいっ!」
「もがっ」
面倒くさそうに怒っているレイードに、涙を拭いていたはずのハンカチを口の中に詰められた。
「ふががが、ふがーっ!」
バタバタと腕を動かすが、すっかり大きくなってしまったレイードに対抗できない。
「本当にすみません、シェイーラお姉様。大事な結婚式の日だというのに」
「いいのよ、これでこそウリスなのだし」
「…ウリスお姉様をあんまり甘やかさないでください」
「ふふふ、レイードも世話かけたわね、ごめんね」
「いいえ。シェイーラお姉様、本当にとても綺麗です」
レイードの泣きそうな声が後ろからして、目の前のお姉様が目を細めたのがわかった。
白いレースのウェディンググローブの手が、レイードに向かっていく。
あああああーーー!!!ずるいっ!ずるい!レイードだけ頭撫でてもらってるっ!!!
「もがが、ふごー!」
「ああ、もう…、今いい感じだったのに。邪魔しないでくださいよ、ウリスお姉様」
「ぐはっ!もう!レディーの口にハンカチを詰め込むんじゃないわよ!このシスコン!」
「ウリスお姉様に言われたくないんですが」
「お姉様っ、どこに行っても私のことを想っていてくださいませ…!」
レイードの拘束から逃れて、お姉様にギュッと抱きついた。
「あなたが私の可愛い妹には変わりないわ、そうでしょう?」
「そうですけどぉ…。でも」
「でも?」
「これからは旦那様が一番になっちゃうじゃないですか。その次は嫁ぎ先のお家でしょ、それから領地と領民…。それで子どもが産まれたりしたら、私の順位がどんどん下がっていくじゃありませんかあぁ〜…!」
私は子どもの頃から鍛えてきたお姉様の服を涙で汚さない術を発揮しながら、必死でくっついた。
ううう、そうやって幸せに暮らすお姉様に、思い出されなくなって、忘れられちゃう…。
「レイードもこちらにいらっしゃい」
シェイーラお姉様はまるで天女のような美しい声で呼びながら、片手は私の背中に回した。
レイードも私の隣でポスリとお姉様の肩に顔を埋めた。
そのまま、お姉様は私たち2人を抱きしめてくれた。
「ウリスとレイードはいつまでも私の可愛い妹と弟よ。他に代わりなんていないわ」
「お姉様ああぁ、大好きですぅ…!」
「シェイーラお姉様、幸せになってくださいね…」
「ええ、もちろんよ」
見上げると、今まで見た中で一番晴れた笑顔で、私たちのことを見ていた。
「あ〜、やっぱりシスコンっぷりがすごいね。僕、2人に刺されたりしないかな」
苦笑いしている声が聞こえて、お姉様にひっつきながら振り返ると、お姉様の結婚相手が立っていた。
「お姉様を泣かしたら、刺しに行きますね」
「シェイーラお姉様を蔑ろにしたら、家ごと潰しますよ」
「はははっ、物騒な姉弟だ」
ケタケタ笑いながら、その人はお姉様の手を取って、指先にキスを落とした。
「世界中の誰よりも大事にすると、君ら姉弟にも誓うよ」
「当たり前じゃないですか、こんなに素晴らしい人他にいないんですから!」
「シェイーラお姉様、辛いことがあったらいつでも帰ってきてくださいね」
「もう〜、あなたたち…」
シェイーラお姉様が呆れる横で、今日からお姉様の夫となる人はニヤニヤと笑った。
「そんなこと言っていいのかな?月に一回は我が家にお茶でもしにきたら、と言おうかと思っていたのに」
「「えっ!!」」
私とレイードは同時に大きな声が出た。
「まあ、シェイーラが我が家に慣れてからの方がいいと思うけど。それくらいの時間は作ってあげられると思うよ」
「…っ!」
「だから、あんまり僕を敵にしない方がいいんじゃないかな?」
「お義兄様!お姉様をよろしくお願いしますね!それで、私たちを呼んでくださいね!!!」
「義兄様、いい人だったんですね!ありがとうございます!」
「はははっ、手のひら返しが清々しいなっ」
「ああ〜、もう〜」
今日は、大好きで大好きで愛してやまないシェイーラお姉様の結婚式。
世界で一番幸せになってくださいね、お姉様っ!
了
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