09
商店街の突き当たりにあるスーパー。
そこは、主婦たちの殺気が渦巻く戦場だった。
タイムセール開始のベルが戦いの火蓋を切って落とす。
「レナ、いいか。タイムセールのたまごは一人一つまでだ。はぐれるなよ!」
カズヤは騒音に負けないよう声を張る。
正直、先程の不良との一件で頭が混乱していた。
バキッという嫌な音、微動だにしなかった二人。
あれは偶然か、それとも高度な催眠術か。
「……兄さん、了解しました。要請内容を確認。『鶏卵一単位の確実取得』。これより、周辺個体群の行動パターンを最適化します」
「最適化って……おい、何をする気だ」
カズヤの制止も聞かず、レナは小声でつぶやくと殺気立つ人混みの中へ足を踏み入れた。
その時、奇妙なことが起きた。
激しくぶつかり合っていたはずの主婦たちが、まるで「磁石の同極同士」のように、吸い込まれるような動きでレナを避けていく。
レナが歩く場所だけが不自然なほど静かな空白地帯になっている。
彼女は無表情で棚から一番賞味期限の長いパックを手に取ると悠々と生還した。
「……兄さん、ミッション完了しました。レジの混雑予測データに基づき、第3レジへの移動を推奨します」
「お前、今のどうやったんだよ。手品か? それとも……」
カズヤはレジ待ちの列に並びながら、声を潜めて隣にいるレナを見つめる。
無機質で、どこまでも平坦な瞳。その奥には自分たちとは決定的に違う「何か」が潜んでいる気がしてならない。
「な、なあレナ。お前、ひょっとしてエスパーとか、そういうやつだったりするのか?」
カズヤの問いに、レナは無表情で答える。
「否定します。神経伝達過程を直接エネルギー化するような、不確実性の高い低効率機構は採用していません」
「あ、そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ、エスパーじゃないなら、宇宙人的なアレ……とか?」
カズヤは冗談交じりで問いかけたが、レナはその問いに答える事はなかった。
(えっ!? ま、マジなのかな……)
ただ、夕日に透けるほど白い指先で、カズヤのシャツの袖を静かに引いただけだ。
その沈黙が、カズヤにとってはどんな言葉よりも重く不気味な「肯定」のように感じた。
「……よし、帰るか、レナ」
カズヤは答えを急ぐのをやめ足早に店を出た。
隣を歩く「妹」が何者であれ、今夜の夕飯には、たまごが必要だった。




