08
午後の商店街は、夕食の買い出しに出る主婦や部活帰りの学生で適度に騒がしかった。
カズヤは、隣を歩くレナの横顔を考え込みながらじっと見つめていた。
それは昨日、彼女が電子レンジを使わずに冷凍ピザを一瞬で温めていたのを見て彼女は何者かと考えていたから。
その思考を遮ったのは、路地裏の自販機前でたむろしている明らかに質の悪い三人組だった。
揃いの黒いジャンパーを着た彼らは退屈しのぎの獲物を探すように目を光らせ、そしてレナを見つけた。
「おい、そこの。ちょっと時間あんだろ? ちょっと付き合ってくれ」
先頭の剃り込みの入った男がニヤつきながら距離を詰める。
レナは視線すら向けず、ただ目的地へ向かう機械のように歩き続ける。
レナの瞳には群がる人間たちの姿は映ってはいない。
彼女にとって、この星の人類は低知能な「背景」に過ぎず、その視線が意味を持つ対象は、この星でただ一人の『例外』カズヤだけだった。
「無視かよ。愛想ねぇな、おい」
男がレナの肩を掴もうとしたその瞬間、カズヤの体が動いた。
怖い。足は震えている。だが、得体の知れない存在とはいえ「妹」だ。見捨てる選択肢はなかった。
「……やめてください。急いでるんで」
カズヤが二人の間に割って入る。男の顔から余裕が消え、血管が浮き出た。
「ああん? なんだよテメェ、兄貴面か? 邪魔なんだよ!」
言葉が終わるより早く、男の右拳が放たれた。
カズヤは目を閉じる。鼻筋か顎に衝撃が走ることを覚悟し奥歯を噛み締めた。
だが、衝撃は来なかった。
代わりに聞こえたのは「バキッ」という、何とも痛々しい鈍い音だった。
そして、獣のような絶叫だった。
「ほぎゃあああああああ!? 痛ぇ! 腕が、腕がッ!!」
目を開けると男が自分の右手首を抱えてのたうち回っていた。
カズヤが呆然と立ち尽くす中、背後からレナのあまりにも平坦な声が響いた。
「……兄さんに対する敵対ベクトルは既に無効化しています」
「えっ? 敵対? いや……何か無効化どころか相手はダメージ受けてんだけど……」
レナは正面を向いたまま、目の前で転がる男に全く関心を示していない。
「……その低知能個体は自らの運動エネルギーを骨格で受け止めただけです」
「……」
カズヤは唖然として声が出ない。
仲間がやられたのを見て、残りの二人はすかさずナイフを取り出す。
しかし、レナはカズヤに聞き取れない程の声量で何かをつぶやくと、二人に視線を送る事も無くカズヤの袖を引いて歩き出す。
「……兄さん、スーパーのタイムセールまで残り920秒です」
「いや、秒で言われても……」
カズヤはレナの言動にツッコミを入れるも、ナイフを取り出した二人が気になって仕方なかった。
だが、その二人は声を出すわけでもなく立ったまま、その場を微動だにしなかった。
不思議におもうカズヤをよそにレナはタイムセールまでの残り秒数を無表情のまま口にする。
(こいつまた何かしたのかな……要塞作ったり訳の分からんバリア張ったり、こいつ最強なんじゃ……エスパーか或いは……)
カズヤは、自分の隣を歩く「モノ」の正体に、確信に近い「何か」を感じ取っていた。
夕日に照らされたレナの横顔は、不気味なほど美しく、そしてどこまでも遠かった。




