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07

翌朝、高木家の家事はすべてレナが完璧にこなしている。

掃除は指一本動かさずに終わらせ、洗濯物は一瞬で乾き、そして何より食卓が劇的に変わった。


目の前に並んだ朝食は、見た目こそどこにでもある焼き魚と味噌汁だ。

だが、一口食べると脳が震えるほど美味く恐ろしいほど洗練された味だった。


「……おはようございます兄さん、低知能な……いえ、現在の生体データに基づき栄養校正を最適化済みです。残さず摂取してください」


エプロン姿のレナは無表情に、しかしどこか誇らしげに言い放つ。


(今おもいっきり低知能って言ったなこいつ……)


カズヤは「ああ、サンキュー……」と箸を進めるが、あまりの美味さとレナの変な言葉で逆に不安になってくる。


朝食を終え、学校へ行こうと家を出た瞬間、カズヤの足が止まった。


「……は?」


振り返ると、そこにあったのは昨日までの「普通の家」ではなかった。

壁は鈍く光る見たこともない金属のような質感に変わり、窓は無く庭の生け垣は消え、まるで無機質な要塞の様な(たたず)まいになっていた。


「お、おい、レナ、これ……何だ? 俺の家……だよな?」


「……兄さんが安定した睡眠状態へ移行できるよう、若干防御力を強化しました。例えこの惑星に反物質収束砲を放たれても、この建造物だけは消滅しません」


「いやいや、そんな訳の分からんの放たれんし! それにこの家だけ残っても意味ないだろ! ご近所さんの視線が怖えーよ……」


だが、カズヤの不安とは裏腹に、通りがかった近所の主婦は「あら、高木さんのところ、今日も素敵な外壁ねぇ」と笑顔で挨拶してくる。

周囲の人間には、この要塞が「おしゃれなリフォーム」程度にしか見えていないらしい。


「……じゃあいっか……」


レナがありえない程の超常現象を起こしているにも関わらず、不思議とカズヤはそれを受け止めていたのだった。



そして、昼休み。



教室でカズヤが弁当箱を開けた瞬間、心臓が跳ね上がった。


(えっ!?……動いた?)


気のせいではない。茶色のフチが可愛らしいはずのタコさんウインナーが、器用に足を動かしてレタスの上を散歩していた。

卵焼きはプルプルと震え、まるで呼吸をしているかのように膨らんだり萎んだりしている。


「うわああっ!?」


カズヤは反射的に弁当の蓋を勢いよく閉じた。冷や汗が止まらない。

周りに見られていないか必死に確認するが、そこへサトシがやってきた。


「ようカズヤ、何で弁当隠してんだよ。何か恥ずかしい物でも入ってるのか?」


「そ、そう、ちょっと、その……レナが……」


レナが作った弁当の中身が気になったサトシは強引にカズヤの手を退け、弁当の蓋をひったくるように開けた。

すると、中ではウインナーが「おっと、光が当たったな」と言わんばかりにシャカシャカと動き出している。


「おい、サトシ! これは……その、アレだ……」


言い訳を必死に探すカズヤ。だが、中身を見たサトシの目は輝いていた。


「うっわー、美味そう! レナちゃん料理まで天才かよ! この躍動感あふれる盛り付け、最高だな。羨ましいぜ、お前!」


「いや……躍動感ってレベルじゃないだろこれは……」


サトシには、この「生きているおかず」が単に「美味しそうで活きが良い料理」程度にしか見えていない。

カズヤは遠い目をしながら逃げ回るウインナーを必死に箸で捕まえ口に運んだ。

味は、文句のつけようがないほど絶品だった。



放課後。



帰宅したカズヤはキッチンにいるレナを問い詰めた。


「おいレナ! 弁当のおかずが動いてたぞ! 何なんだあれは!」


レナは料理中の手を止め、淡々と振り返る。


「……兄さん、鮮度と栄養素を極限まで引き出した結果、細胞の生命活動が再開しました」


「いや、ウィンナーって加工食品だし、それにおかずと格闘しながら飯食う奴がどこにいるんだよ……」


「……不満でしたか? 次回からは捕獲しやすいよう動きを鈍く設定します」


「いや……うん。そうしてくれると助かる……」


何かを言いかけたカズヤだったが、心の奥にしまう事にしたのだった。

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